汽水域とは、河口など淡水と海水が混ざり合う場所のことだ。ここから着想を得た今年の五月祭のテーマは「汽祭域」。その言葉通り、今回はオンライン企画と対面の企画が混ざり合う形態となった。入学から1カ月と少しの1年生にとって、オンラインという場所は可能性を広げる大海原だったのか、それとも制約の多く狭い川だったのか。見事1年生クラス企画部門で優勝を果たした文科Ⅰ・Ⅱ類27組のオリ長・五月祭委員に話を聞いた。(取材・清水央太郎)
大事な時期がオンラインに…
3年振りとなる対面企画が一部復活するなど、企画の幅が広がりそうな期待感もあった中で始まった五月祭の準備。だがその出だしは困難の中始まった。4月最初の2週間の授業はオンラインで行われていたため、クラスメイトの顔も覚えきれていない状態で企画の方針を決めなければならなかった。「どうしようかと思い、クラス全体の親睦を深めるためのzoomを開いてみました。かなり急に開催したものだったのですが、それでも半分以上が集まってくれて驚いたし感謝しています。このzoomで五月祭への方針が割とスムーズに決まりましたね」。オリ長はそう振り返る。
東大生である強みを生かした企画を
第一の関門を突破したクラスはいよいよ企画の内容を詰めていく。オンライン企画はzoom等を用いた座談会やゲームなどのリアルタイム形式か、動画などのオンデマンド形式の二つが主だ。五月祭委員は「私たちはWeb上での技術に乏しく、リアルタイム企画はかなり幅が狭そうかなと。また、東大生であることの価値や希少性を活かした企画を構想していたのですが、入学して間もない私たちは東大については詳しくなくて。このような議論を経て選択肢を絞っていけました」と語った。
最終的にこのクラスでは、全員がつい数ヶ月前に経験した受験を題材にすることを決定。センター試験や難関中学にチャレンジする様子を動画に収めていった。「撮影・編集などは役割分担を徹底しました。撮影場所に大学の施設を利用したり、有料ソフトの無料体験期間中に編集を終わらせたりするなどできるだけ予算を掛けない工夫を凝らしつつ、作業に奮闘する中でクラスメイトとの交流を深めていくことができました」とも五月祭委員は語る。
楽しかった。でも次こそは対面で
こうして完成した2本の動画は、「汽祭域」の来訪者達の間で好評を博し、見事1年生のクラス企画部門で優勝を果たした。「正直1位を取った時は驚きました。ただ、クラスで初めて協力して作り上げたものが結果という形で評価されたのは自信にもなりました」(オリ長)五月祭委員長も喜びを表した一方、心残りもあるという「クラス全体で一つのことに取り組めたのは楽しかったですが、オンライン企画ではやはりお客さんとの距離を感じるというか……交流の際に互いを遮る壁があったように感じたのは少し残念でした。秋の駒場祭では是非対面での企画をやってみたいです」
1年生たちは入学後1カ月間、新天地の急流に揉まれつつも、流れを的確に掴み、仲間と共に目的地まで辿り着くことに成功していた。秋には外部からの来訪者との境界が全く存在しない真の「汽水域」が駒場に形成されることを祈るばかりだ。