本年度の五月祭は5月15、16日に開催予定だったが、開催約1週間前の7日に、予定されていた日程での開催断念が発表された。2年ぶりとなる五月祭の5月開催を目前に控えた中での決定に対しては、大学の決定を疑問視する声などが相次いだ。五月祭を企画・運営する五月祭常任委員会も「遺憾の意」を表明するなど、各所に混乱が広がっている。五月祭の5月開催断念はどのような経緯で決定されたのか。またその判断は妥当だったのか。東大の担当部署や五月祭常任委員会に話を聞くと、双方の考えや食い違う主張が見えてきた。(取材・中野快紀)
大学側「変異株拡大防ぎ切れぬ」
5月15、16日にオンラインで開催される予定だった五月祭は、開催の約1週間前に当たる7日の午後6時ごろに五月祭の公式ツイッターアカウントを通じて、予定されていた日程での開催断念が発表された。東京大学新聞社の取材によると、7日夕方に東大の担当者から五月祭常任委員会に対し、開催を断念するよう口頭で通達が行われたという。委員会は5月開催の断念について、7日の発表の中で「大学側より開催を取りやめるよう通達があったため」とし「決定が大学側により直前かつ一方的になされたことについて、遺憾の意を表明」するとした。
10日には大学側が藤垣裕子理事・副学長(学生支援、入試・高大接続、評価、研究倫理担当)、新型コロナウイルス対策タスクフォース座長の大久保達也理事・副学長(総務、教育、施設、情報担当)の連名で開催断念に関する文書を発表。五月祭の5月開催を断念した理由として▽ 20代の若者を中心として変異株が拡大している中、五月祭の企画の中には変異株の感染拡大を防ぎ切ることが困難なものが多数見られること、▽感染拡大傾向にある中で五月祭を開催するのは東大の社会的責任として難しいことーーなどを挙げている。
新型コロナウイルス流行下で五月祭の準備を進める中、大学側は五月祭常任委員会に対しこれまでどのようなやりとりを行っていたのか。東京大学新聞社の取材によると、学内の活動制限指針がレベル0.5(一部制限。レベル準1の新設までは、課外活動の「全面禁止」を定めるレベル1の一つ下だった)よりも上がった場合には五月祭の5月開催を中止し、延期開催などの実施有無を検討することになっていたという。一方、新規感染者の人数などの具体的な数値や基準に基づいた開催見送りの議論は行っていなかったと話す。
東大は4月25日に4都府県を対象とする緊急事態宣言が発出されたことを受け、27日には学内の活動制限指針を新設されたレベル準1(一部制限。対面の課外活動は「一部許可」)に引き上げ。緊急事態宣言の期間が当初予定されていた11日までから5月末までに延長されたことを受け、レベル準1を維持することとなった。これを受け、東大執行部は五月祭常任委員会から提出されたプランを基に、予定日程での五月祭開催が妥当かの審議を実施。全ての企画がオンライン、無観客開催というわけではなく、レンタルスペースやライブ会場などに10人以上集まって実施、配信するなどのプランが多数あったといい、これらのプランでは変異株の感染拡大を防ぎ切ることが困難であると執行部が判断した。
一方、五月祭には完全にリモートで開催される企画や、事前に用意されていた作品などを公開する企画も含まれており、そういった企画も一律で見送りになっている。五月祭常任委員会の発表によると、大学側は「企画形態の如何を問わず当初の日程で『五月祭』の名称を用いて企画を公開することは認められない」との見解を示したといい、委員会も学生に五月祭の名称を用いた企画の公開を控えるよう要請した。
委員会「協議の余地与えてほしかった」
五月祭の5月開催断念を受け、五月祭の企画・運営を行う五月祭常任委員会は5月7日「決定が大学側により直前かつ一方的になされたことについて、遺憾の意を表明します」と発表。10日にも文書を発表し、大学への質問状提出を検討するなど、今後の委員会の対応について説明した。
委員会の平岡賢樹委員長(経・4年)は大学側から開催断念を通達されたことについて「委員会に判断する余地はなかった」と漏らす。7日に東大学生支援課の担当者から開催断念を求める通達があり、それを受けた議論を行う余裕もなく同日中の公表に至ったという。「大学側の通達に従わざるを得なかった。誰が意思決定を行ったかも分かっておらず、事前に協議する余地を与えてほしかった」
大学側とは、緊急事態宣言発出やそれに伴って学内の活動制限指針がレベル準1(一部制限)に引き上げられたことを受け、4月末に当日のレギュレーション強化などのプランの見直しに関するやりとりをしていたという。その際、学生支援課やその他の学内の組織から中止を求められることはなかった。この点は制限レベルが0.5よりも上がった場合には5月開催を取りやめて延期開催の有無などを検討することになっていたと話す東大側の説明と異なる。平岡委員長は、開催断念を通達する以前の東大は通常日程での開催を前向きに考えていたのではないかと推測しており「開催断念になるとは考えておらず、5月開催のつもりで準備を進めていた」と話す。
委員会としては、開催断念は受け入れているというものの、開催断念の理由などについて東大がウェブサイトを通じて公表している以上の説明は受けていないといい、大学側への十分な説明を求めていくとした。大学側が開催断念の理由に挙げた若者の間の変異株感染拡大などは五月祭の予定通りの開催を断念する理由の一つにはなるが、フルリモートの企画や、すでに完成した作品の公開なども取りやめる理由にはならないという立場を取っている。 開催断念の発表に対しては、学生などから開催直前の発表であることや、委員会が大学の通達をそのまま受け入れたことを疑問視する声も上がった。この動きに対しては「五月祭当日にキャンパスの施設を利用する企画も多く、大学からの賛同を得られない状況では五月祭開催は厳しいため委員会として5月開催は断念した。五月祭の開催主体は学生であり、学生を代表する五月祭常任委員会として学生の声も参考にしながら今後の協議に臨みたい」と話す。また今後、今回と同じような直前の通達、開催断念が起きないよう、大学側に再発防止を求めていくという。現在は大学と協議しつつ延期を目指しており、6月上旬を目安に方針を発表したいとしているが、6月4日時点で委員会からの発表はない。