駒場には、劇団綺畸(きき)、Theatre MERCURY、劇工舎プリズム、東京大学ESSドラマセクションの四つの演劇サークルがある。各団体の特徴や、それぞれが作り出す世界観はどのようなものだろうか。連載第3回目となる今回は、50年近い歴史を持つ劇団綺畸に取材した。(取材・平井蒼冴)
セクション固定制で自分の仕事を極める 劇団綺畸の活動は
駒場にある四つの演劇サークルの一つである劇団綺畸は、東大と東京女子大学の学生を中心にさまざまな大学の学生からなるインカレサークルで、人数は30人ほど。公演は夏公演、内部向けの夏合宿公演、冬公演、その年度に初めて入団した団員だけで演じる新人公演の年4回開かれる。毎年春に入団した団員は、3年目の夏公演で引退となる。東大生の割合は毎年さまざまで、セクション(役者や照明など劇団の中での役割。劇団綺畸には七つセクションがある)によっても異なるものの、半数弱くらいになることが多いという。週3回の定期稽古や本番前に週6で行われる稽古などの活動は駒場Iキャンパスの学生会館や駒場コミュニケーション・プラザで行われることが多いが東京女子大学で練習が行われることも。公演は駒場Iキャンパスの多目的ホール(駒場小空間)で行われる。
劇団綺畸の特徴の一つは、公演ごとに所属するセクションを選べる他の演劇サークルと違い、入団してからずっとセクションが固定されることだ。この「セクション固定制」は自分の仕事を極めたいと考える人に向いているようだ。このシステムにより役者は劇団の公演で役を必ずもらうことができ、役者陣のメンバーが変わらないため定期的に稽古をすることができる。劇団綺畸の主宰を務める平原良太さん(文I・2年)は、週3回の練習で基礎的な力をつけられ、一度役者になれば必ず劇に出演できる点に魅力を感じて入団したと語る。
コンペ!「禁禁」?他団体との交流も 劇団綺畸の演劇作り
他の駒場の演劇サークルと同じく、毎回の公演の台本は、公演の約2カ月前に、劇団の中で希望する団員が企画書を出しコンペを行って決めているという。役者が初めから決まっているという劇団綺畸の特徴を生かし、その役を演じる役者を想定して台本を書く「当て書き」がされる例もあるという。会話劇や不条理劇など、さまざまな形の劇が演じられてきた。
台本や演出が決まると役者以外の団員も動き始め、公演1カ月半前ほどになると「禁禁」という決起集会が開かれる。「禁禁」の由来は「禁酒、禁煙、禁外泊」の略から来ていて、劇団全体で公演に向けて体調管理をしていこうという意図がある。「禁禁」を経て準備は加熱して、役者の稽古も週6回実施されるように。こうして公演が完成していくのだ。公演前後の駒場小空間内での運営・解体は他の駒場の演劇サークルと協力している。釘を扱うなど危険な作業が多いので皆黙々と作業しているが、ここでの交流をきっかけに他のサークルの人と仲良くなり、卒団後に一緒に劇団を立ち上げる例もあるようだ。
約50年続く演劇サークルとして、卒団生との縦の交流もある。「禁禁」に卒団生を招待し、2次会で交流することも少なくない。昨年は引退した3、4年生の先輩たちが多く来て、先輩たちが出る舞台について話したという。交流を通じて仲良くなった人の劇に参加する例もあるそうだ。さらに、卒団生が現役団員に向けたワークショップを開く例もある。活動はもちろん現役団員中心で行うが、卒団生たちの中には劇団綺畸を気に入っている人も多く交流の機会は多いという。
ルールに厳しい? クリエイター気質の仲間たちと安全により良い演劇を作る
劇団綺畸は他団体に比べると活動による拘束日数が多かったり、ルールに厳しかったりする側面があると平原さんは語る。しかし、これは劇を限界まで丁寧に作っていこうという劇団綺畸の気質を反映したものだという。舞台を一から設営し、その上で劇を演じるというある意味危険なことを行う上では、普段から規律が守られていないと安全性が担保できないということだ。とはいえ、劇団の中で真面目一辺倒の人が多いというわけでもないそうだ。作品を作りたいという人や自分のセクションの仕事をより良くしたいというクリエイター気質の人が多く、より良いものを作るために限界まで時間をかけるという人が多いと平原さんは分析する。
役者の定期稽古では、体を自由に使えるようにすることや、自分や相手の演技上の癖を理解できるようにすることを心掛けているという。特に自分や相手の癖を理解し、癖に固執しないように、互いにフィードバックを行うようにすることを意識している。
長い歴史の先で 「素敵な舞台を一緒に」
忙しい活動の中でも、劇団綺畸では裏方だけでなく役者の中にも兼サーやバイトをする人は少なくないという。劇団綺畸での活動が最優先であるものの、都合をつけて他の活動に加わる人は多く、学習塾の講師のバイトをする人もいるそうだ。
今年の4月からの東大の新入生に向け平原さんは、演劇や舞台芸術に興味のある人は全員劇団綺畸に向いていると思う、と語る。劇団綺畸は歴史が長く、堅苦しい側面もあるが、演劇に興味のある人なら誰でも楽しく活動できる場所だ。「素敵な舞台を一緒に作り上げたいと思う方がいたらぜひ新歓にいらしてください」と朗らかに話した。