各学部の4年生に進学の理由や学部での授業、生活について話を聞き、ウェブサイトやパンフレットだけでは知ることのできない生の声を紹介する。今年は対面での学部ガイダンスが中止され、特に情報を得る機会が少ない。どの学部や学科に進むか決めきれていない人はぜひ参考にしてほしい。(時間割は3年次のもの)
・文Ⅲ→文 人文学科倫理学専修課程
専修を超え幅広く学ぶ
学べる学問の幅が広い文学部を見据え、文Ⅲに進学した長尾さん。中高時代からカントを始めとした近代の哲学者に対して漠然とした憧れを抱いていたものの、哲学を学ぶ上で必要となる語学力への不安から当初は日本語日本文学専修への進学を考えていた。
転機が訪れたのは2年次のSセメスターで参加した文学部ガイダンス。さまざまな専修課程を回って話を聞く機会があり、中でも倫理学専修に魅力を感じた。「必要とされる語学力などの点で、倫理学は哲学よりハードルが低く取り組みやすいと思いました」
倫理学専修は進学選択の際に高得点を必要としないため、前期教養課程では進学後のことを考えて比較的自由に授業を取ることができる。倫理学ではドイツ語やフランス語の原典を読む演習があることを踏まえ、初修外国語が中国語だった長尾さんは2年次にドイツ語を自習。「英語以外の原典を読む授業も履修できるように欧州の言語に触れておくと良いですが、進学後でも間に合うので語学力について心配し過ぎる必要はありません」。前期教養課程では哲学系の授業が 用意されているため、哲学専修や倫理学専修を視野に入れている人はそれらを履修しておくと学問の雰囲気を知る上で役に立つという。
倫理学専修は1学年10人程度と小規模で教員との距離は近い。哲学専修と倫理学専修で大きな違いはないものの、西洋哲学が中心の前者と異なり東洋倫理についても学ぶことができる。
一方で授業では主に近世以降の倫理学を扱うため、進学後に古代ギリシャの倫理学に興味が向いた長尾さんはその分野を扱う哲学のゼミや勉強会に参加して研究を進めている。「哲学専修の友人がいると勉強会などの情報が入って来やすいです。倫理学専修の枠で集まる機会は多くないので、勉強会は人間関係を築く場にもなります」。参加している勉強会は大学院生が多く、大学院への進学を考えている長尾さんにとって雰囲気を知ることができる良い機会だという。「文学部は専修や学年を超えて幅広く学ぶことができるので語学を気にせず自分の興味を優先して専修を選ぶと良いと思います」
・文Ⅲ→育 総合教育科学科心身発達科学専修教育心理学コース
縛り少なく自分の興味を追求 コース内で刺激し合う
高校時代にディベート部に所属していた若井さん。「相手を説得するゲーム」であるディベートを繰り返す中で「分かりやすく伝えるためにはどうすればよいか」という問いを抱き始め、心理学を学ぶことを決意した。
心理学は文学部や教養学部でも学べるが、両学部では脳波などを扱う教員が多い。若井さんは物理的には捉えられない説明の方法自体に興味があり、自分の問いに最も合致するのは教育心理学コースだと気付いた。進学には80点近い点数が必要で、1年次に単位をそろえて2Sセメスターに平均点を上げたという。
教育心理学コースには概論的な授業が多く「自分の興味を卒業論文で掘り下げることを想定したカリキュラムだと思います」。過去の卒業論文のテーマは、芸術と心理の関わり、赤ちゃんの言葉の発達、実験で得たデータを処理する際の統計手法など幅広い。心理学的なアプローチをとれば教育と直接関係ない研究もできる。「教育学自体に興味があったわけではなかった」という若井さんも「もともと学びたかったことを自由に学べている」と満足げだ。「同期の学生の興味も多方面に向いていて、話していると新鮮な発見が多くあります」
実習が多いのも特徴だ。2Aセメスターには2週間に1回校外実習に出掛けた。特別支援学級で教員の話を聞いて生徒を観察したり、小さい子どもがいる家庭で子供の発達検査を行ったりする。実習を通じ「コースの仲間と仲良くなれて楽しかったです」。3年次の実験では、アンケート分析など実際の心理学の研究に近い手法を体験した。負担は重いが「卒業論文の練習になった」と振り返る。
実験が本格的になってくる6月ごろ、コースの3年生と一部の4年生で旅行に行き「憂さ晴らしをします」と笑う若井さん。五月祭や駒場祭にも例年展示を出すなど、コース内の雰囲気は良好だ。
修士課程に進学する学生は3、4割。教員から教育系、IT系の民間企業まで就職先は多岐に渡る。「実験データの処理技術は就職に役立つかもしれません」。博士課程まで進む人も2、3割いて、若井さんもその1人。「分かりやすい説明とはどのようなものか追求し続けたいです」
・文Ⅲ→養 学際科学科地理・空間コース
地図を書く技術を習得 地理学を生かせる進路へ
入学時から学際科学科地理・空間コースに興味があった。前期教養課程でコースに所属する教員の授業を取ったり、先輩に話を聞いたりして、コースの学習内容が自分の興味に合うと確信できたという。進学には高い点数が要求されるため、必要な点数との差を計算して、2Sセメスターは高得点を取れるよう計画的に履修した。
地理学を専門的に学べる大学は関東には多くない中、東大の人文地理学の研究は歴史があり「分野の礎を築いた研究者の後輩として学べるのは貴重な経験だと思います」。体系地理や地誌、人口論に加え情報分析、統計処理など理系寄りの内容も扱い、理系出身の学生も所属している。
必修の授業の一つである地理情報分析が面白かったという高木さん。2Aセメスターから3年生の終わりまでにかけ、GIS(地理情報システム)というソフトウエアを使って地図を書く技術を習得した。「パソコンやソフトウエアの扱いに慣れるまでは大変だった」と語る一方「自分でデータを用いて地図を書いたことは自信になりました」。
2年次の春季休業と3年次の夏季休業には同学年の学生9人と教員らで郊外に3、4泊してフィールドワークを実施する。期間中に自分で決めたテーマで論文を書くなど「きつい授業ではありますが、その分学びが多く、コースの仲間との一体感も味わえました」と振り返る。
学習参考書が置かれる学生室が日々の交流の場だ。「大学院生や助教もよく利用していて、雑談したり課題のアドバイスをもらったりしています」。毎年12月に開かれる内定生歓迎会には60〜70代の卒業生も参加するなど、世代を超えた交流がある。
同コースの大学院に進むのは近年は1学年で2、3人。最終的には地理学を生かせる進路を選ぶ人が多い。半数近くが大学に勤め、公務員になったり研究所に勤めたりする人もいる。高木さんは就職希望だが、駒場には周囲に就活をする人が本郷よりも少なく、キャリアサポート室もないため情報が得づらく苦戦中だという。その反面「学生同士競争し合うことがあまりないのは安心です」。自身の港湾への興味をもとに海運業や商社などへの就職を目指す。
この記事は2020年5月26日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を掲載しています。
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研究室散歩:@歴史学 大塚修准教授(東京大学大学院総合文化研究科)
漫画×論評:『性別「モナリザ」の君へ。』吉村旋
キャンパスのひと:河野麗さん(工・4年)
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