毎年多くの東大生が受験する国家公務員採用総合職試験。国家公務員を志す学生にはもちろん、まだ進路に悩んでいる人にとっても国家公務員自らが語る職務の実情やその素直な感想は参考になるだろう。東大出身者に、現在の省庁を選んだ経緯や担当する業務内容、就活生へのメッセージを聞いた。(構成・小原優輝、取材・石川結衣、安部道裕)
外務省 国を守り世界とつなぐ日本の代表
幼少期に海外で生活したり、海外旅行に行ったりすることが多かった河邉さん。大学では国際交流サークルに入り、東南アジアで現地の学生と議論やボランティアをしたという。新興国が台頭する中で、経済大国としての日本の影響力の低下を肌で感じ、今後の日本の発展に貢献したいという思いから国家公務員として働くことを決めた。
就活中に参加した各省庁の説明会や、米国留学時に参加した日本総領事館でのインターンシップで外交官の仕事に触れた経験から、国際的な場で活躍できる外務省を目指すことに。官庁訪問で他の省庁とも迷ったが、働く国や地域が幅広く、業務分野も多岐にわたる外務省に決めた。
入省後はアジア大洋州局地域政策参事官室に配属され、主にASEANを担当。ASEAN関連会議における首相や大臣のスピーチ原稿の作成や声明交渉を行ってきた。東大法学部で培った論理的思考や、海外で人との交流を通して感じた多様な価値観が、国同士の関係を考える上で役に立っているそうだ。
一つ一つの言動が外交関係や国際情勢に直結する責任を感じる一方、やりがいを感じることも多い。「自分が関わった会議がテレビで報道された時や、自分の考えた文言を首相が各国の首脳の前で述べるのを聞いた時は感動しました」
世界の人々を相手にする外務省では、タイムゾーンの違いから、会議が夜遅くに開かれることもあり大変だ。「どこかの国で大きな事故が起きたり、ミサイルが発射されたりした場合など、突然の出来事にも対応しなければなりません」
一方でそれぞれの関心に基づいて幅広い仕事ができる点は外務省の魅力だ。「その国の語学や政情のスペシャリストを目指し入省する人もいれば、安全保障や国際法に主眼を置く人もいます」。また配属先が数年単位で変わるため、関心を広げたり、新たな発見をしたりできるメリットもある。
2年間の本省勤務が終了した現在は、米国英語の担当として、夏からの留学に向けて語学の研修をしている。米国の大学院で2年間、国際関係を中心に同国の政治や社会学を勉強する予定だ。大学院での勉強や海外大使館での勤務を通して、今後の国際社会における日本外交の在り方を考えていきたいという。
国家公務員を目指す学生には、民間企業も含め、積極的に説明会や就活イベントに参加して仕事内容を知ってほしいと話す。「興味の幅を広く持ち、なぜ国家公務員を志望するのか、なぜその省庁が良いのかを考える機会にしてもらえればと思います」
デジタル庁 行政・民間のハイブリッド
幼少期、路上生活の人たちを見た時「誰もが生活に不自由しない社会にしたい」と思った。社会のために自分にできることは何なのか、もう少し時間をかけて探したいと思い、幅広く学ぶことのできる東大に進学。政策立案コンテストを企画、運営している学生団体「GEIL」で活動し、社会を良くすることを第一目的に活動できる国家公務員に興味を持ち始めたという。「卒業生で国家公務員になった方から政策の話を聞く機会もありましたが、外側から見聞きするだけでは分からないと思いました。自分で中に入って、内側から政策が決まる過程を見てみたいと思いました」
デジタル庁を選んだのは「柔軟さ」から。デジタル庁は2021年9月に創設されたばかりで、草創期にある官庁だ。「デジタルというツールとスタートアップさながらの身軽さで、省庁の垣根を越えて社会課題に挑戦してみたいと思い、デジタル庁を選びました。プロパー職員はまだ2期目だったので、組織や仕事を自分たちで創っていくことができる点も魅力に感じました」
入庁1年目の大坂さんの現在の主な業務の一つは、グループの総括業務だ。中でも照会対応は庁内の他部署や他省庁とのパイプ役をする業務で、最近は「重点計画」についての照会を行ったと話す。政策にはデジタル庁以外の省庁との連携が必要なものも多くあり、より効率的に進められるよう仕事の合間の時間には、先輩職員と協力して業務改善を進めている。
デジタル庁の魅力は行政・民間両方の視点を持って政策づくりに取り組めることだという。多様なバックグラウンドを持つ人と仕事ができるのはデジタル庁ならではだ。業務改善に取り組む際には、中途入庁でデジタルに詳しい人に助けてもらったことも。業務外では庁内のつながりを深めるイベントが定期的に開催されている。
他の省庁と比べ、デジタル庁の職場は壁や書架で区切られておらず、オープンな環境であることも魅力だという。「幹部の方々と気軽に話せるのはデジタル庁ならではだと思います。先日も『最近どう? 何か変えたいことはない?』と声をかけていただきました」。出社率は6割ほどとテレワークも進んでいる。子育てをしながら働く職員も多いのだという。
国家公務員を目指す人には「行政は大きな組織で大変なことも多々あります。その中でも、自分のできることから行動に移し改善を進めていこうという人に来ていただいて、一緒に働けたらうれしいです」と大坂さんは語る。今後は業務の効率化を推し進め、各個人が関心のあることに取り組める時間的、体力的余裕を作りたいという。