「若者と政治に新しい出会いを届ける」をミッションに活動しているNPO法人がある。「僕らの一歩が未来を変える。」略して「ぼくいち」。
そんな「ぼくいち」のメンバーで、今回インタビューに答えてくれた慶應義塾大学3年の古井康介さんは、現在「票育」という事業に取り組んでいるという。古井さんは、何をきっかけに「ぼくいち」で活動を始めたのか。「票育」とは何なのか。そして、18歳選挙権成立後、初めての国政選挙が7月に迫るいま、古井さんは「若者と政治」について何を考えているのか。
同世代の学生の視点から、質問をぶつけてみた。
――古井さんが「ぼくいち」に参加した理由を教えてください。
もともと、高校の時に「ぼくいち」のことを知ったんです。「政治と若者をつなげるために、こんなことやってます」っていう、当時の慶應の先輩のFacebook記事が流れてきて。それを見た時に、「すごいかっこいい」というか、「あ、その手があったんだ」と思ったんですよ。
もともと政治とか社会に対してすごく興味もあったし、「もっといい社会になったら」って昔から思ってたんですけど、そのためにどうしたらいいかって、なかなかアイデアが出て来なくて。富山県出身なので周りにそういうことをやってる人もいないし、高校生のうちから行動するってことは、夢のまた夢だと思っていたんですね。
ですけど、実際、当時高校生だった先輩たちは、国会議員と高校生を100人集めてディスカッションをしている。そこで日本の現在や未来について話すことによって、将来の社会について考えていく人材を育成したり、社会に対して実際にアクションを起こしていく仲間をつくったりしている、という話を聞いたときに、めちゃめちゃ感動したんですよ。
そのままずっと憧れてはいたんですけど、なかなかきっかけもなく時間が過ぎていく中で、大学2年生の時、キャンパスで「ぼくいち」の代表にお会いしたんです。そこで、ぼくいちのビジョンや思いに心惹かれ、その日に入りました。
――古井さんは「票育ディレクター」という肩書きをつけていらっしゃいますが、これはどういったものですか?
「票育」というのは「ぼくいち」が唱える22歳以下の若者による政治教育のモデルです。票育授業は、「自分の住んでいる地域や社会の課題を発見する力」、「その課題に対する選択肢を見出す力」を養うことができます。分かりやすく言うと、街のことをテーマにして、その街の課題とか、その解決策について、中学生や高校生に学んでもらう授業なんですね。
例えば井手さん(記者の名前)、出身はどちらですか?
――東京の東村山市です。
その東村山市の中学校や高校で授業するとしたら、東村山出身の学生とか、東村山にある大学の学生にまず集まってもらうんですよ。この22歳以下の若者を「票育CREW」と呼んでいます。それで、東村山の学生の皆さんが、まず東村山について学ぶ。東村山って、こういう良いところと悪いところがあるんだってことを勉強する。
その上で、東村山の課題をピックアップするんですね。例えば、実際はわからないですが、少子高齢化が進んでいるとか、人口が流出しているとか、すごく道幅が狭いとか。その上で、課題の解決策を票育CREWが調べるんですよ。その解決策全部を通したものを、票育授業という形に変換して、自分たちが住んでいる高校と中学校にお届けするんです。この 22歳以下の若者による政治教育モデルを、票育CrewShip事業と呼んでいます。
そうしたら授業を受けた高校生は、「うちの街って、こんな問題があるんだ。こうやったら解決できるんだ」ということを学べる。それを皆でディスカッションして、最後に投票したり予算をつけるワークショップをやったりして、何かしらのアウトプットに落とし込むことによって、皆が街について学べるし、解決策もセットで学べる。それが、票育プログラムなんです。
――それは、直接学校に交渉しに行くのですか?
2パターンありますね。直接学校と交渉して学校1校単位で票育授業を受ける場合と、地方自治体の人材育成事業として業務委託を受けて、その自治体内の全部の中高で実施する場合があります。
―― 一年で何校くらい回られるんですか?
去年の7月から始めたんですけど、前者のパターンでは、これまでに20校くらいですかね。春休みは月に6校お話をいただいた時もありましたが、最近は少し落ち着いて4校ずつくらいになっています。
後者のパターンでは、宮崎県の日南市と長崎県の大村市と岐阜県美濃加茂市で、今年度の中高生の人材育成事業として票育が予算化しています。先ほど説明したように、票育の授業では地元の学生、つまり票育CREWが授業をつくって地元の生徒に届けます。そうすると、地元の学生が学ぶことになるんですよ。地元に興味も持つし、関心も持つし、そのために実際に動いていける。
「ぼくいち」は、人材育成をずっとやらせてもらってきたので、すごく研修に自信があります。その研修を受けた地元の学生が地元のお墨付きをもらって、日南市なら日南市の名刺を持って、票育授業をつくるんですよ。するとそのうち、彼らは街の担い手になっていくんです。彼らはただ授業をつくるだけじゃなくて、街の課題を知っているし、その解決策も知っているので、街の政治に入っていって街の課題を解決する担い手になっていく。
それで実際に、その自治体の中に若者の居場所ができていくっていうプログラムが徐々に進んでいます。これをどんどん発展させていくことによって、若者と政治の間に新しい出会いを届けていきたいし、若者の本当の意味での政治参加を実現したいというビジョンを掲げて活動しております。
「ぼくいち」の紹介動画
――今の学生に対して、メッセージがあったらお願いします。
僕は、僕たちが将来を担う世代だと思っているんですよ。だから、一緒に頑張っていきたいなっていうのが一番言いたいことなんですけども。
いま、少子高齢化も進んでいるし、財政も赤字が膨らんでいって、行政ができることってどんどん減っていくと思うんですよ。だから僕は、民間とかNPOとか、非政府、非行政の主体がやっていかなきゃいけない部分がどんどん増えていくと思っているんです。
いろんな社会問題がこれから山積みで増えていくというか、僕たちに残されてしまう。残されて、俺らが解決しなきゃいけない。でも、どんどん行政には任せられなくなっちゃってるという時に、やっぱり僕たちが、自分たちのできることを少しずつやっていくってことが大事になってくると思っているんですね。
農業も二次産業も三次産業も、資源や人がない中で、日本が右肩上がりじゃなくなっていく中で、自分たちに何ができるかってことを考えて、それをアクションに移していくことで、社会がよくなっていくと思うんですよ。
僕たちがNPOとして、「中立的な政治教育って行政でも学校でもやりにくい」という隙間を担わせてもらっているように、ゴミ拾いの団体があったり、保育サービスをやっているNPOがあったり、いろんな社団法人だとか非政府主体が、いま、どんどん勃興していると思います。これがどんどん広がって、皆がこれは変だなとか、ここがおかしいなと思ったときに、そんなにハードルを感じることなく、問題の解決に取り組んでいけるような社会ができたらいいなと思っています。
僕たちは、票育を通して、そんな社会に出た時に自分に何ができるのか、どんな選択肢を取れるのか考えられるような人材を増やしていければいいと考えています。僕たちが次の世代の主役だと思うので、僕たちで頑張っていきたいなって思っていますね。
――とはいっても、今の学生さんは政治には興味ないよっていう人も多いじゃないですか。
そうですね。
――そういう人たちに対しては、どんなことが言いたいですか?
政治っていった時に、皆が国会議事堂で野党と与党がべーべー言っている委員会をイメージするのであれば、それに興味を持つのはまず無理だと思っています。
例えば、サッカーを好きな人って日本人の3割しかいないんですよ。でも、4年に1回のワールドカップってあれくらい盛り上がるんですね。井手さんは、サッカー好きですか?
――そうですね。私はたぶん、普段は残りの7割だけどワールドカップは見る方だと思います(笑)。
ですよね。でも、そういう人って別に非難されないじゃないですか。それと同じで、政治って一つの分野でしかなくて、政治を好きな人が政治について語ることができて、熱く意見を交わせるような空気感さえ世の中にあれば、4年に1回の選挙も十分盛り上がると思うんですね。そういう意味での政治だったら、3割の人が自由闊達に語れるような環境がつくれれば十分だと思うんです。
僕たち大学生は、今、政治のことを考えなくても幸せに生きていける訳ですが、いざ自分たちが考えなきゃいけなくなった時に手遅れかもしれないよ、という思いはちょっとあります。自分の子どもが保育園に行けないとなった時に、じゃあその問題今からどうこうしよう、じゃあ5年後に解決しましたとなっても、保育園はもう卒業する年ですから。
でも、そんなに意欲を出せないんだったら、今は僕たちが「若者と政治に新しい出会いを」と言っているように、きっかけを持つというか、関心を持つ機会すら世の中にはないので、まず政治と出会うところから始めるしかないし、それで十分かなと思いますね。
だから、急に「18歳選挙権あるからお前ら投票行け」っていうのは絶対違うと思うんですよ。だってわからないし、習ってないし。公民の授業で「衆議院議員の任期は何年で参議院議員は何年で」ってことは習ったけれど、今の社会問題とかそれに対するアプローチって全然習ってないですよね。
それで、いきなり「お前ら主権者だから」って言われても困るのは当たり前で、その中で少しでもこれも政治なんだ、これも社会なんだっていうきっかけを僕たちは「票育」を通して増やしていきたいし、そういう社会環境が整備されるのが先決だと思います。「若者が政治に歩み寄れ」って言うより、社会の側から歩み寄るってことが先かなと思って、僕は活動しています。
取材を終えて
経済停滞、財政赤字、少子高齢化…。いま大学生として暮らす私たちの世代は、そんな重苦しい言葉にあふれた、いわゆる「失われた20年」の中で育った。私たちが大人に近づく一方で、日本の人口は2008年頃に頭を打って減少を始め、2015年には「地方消滅」と題した新書が本屋大賞を獲得するということも起きた。
しかし、そんな日本の地方出身の若者と思えないほど、古井さんは明るく自分の活動や考え、これからの政治や社会に対する希望を語ってくれた。高齢化や人口減少に伴って行政が疲弊していく中で、NPO団体の真価が問われるのはまだまだこれからだろうが、彼のような行動力と情熱があれば、逆境を跳ね返すことも難しくないかもしれない。
一人の同世代の若者として、「ぼくいち」の今後に期待したいと思った。
(聞き手・文:井手佑翼 写真:「ぼくいち」毛利裕一さん撮影)
公益財団法人東京大学新聞社は、2016年の五月祭で「7月の選挙の話をしよう」と題したパネルディスカッションを主催します。今回インタビューにお答えいただいた古井さんの他にも、自民党の小林史明議員や民進党の柿沢未途議員など多彩なゲストをお招きして、学生・若者に関わりの深い大学教育や奨学金といった問題について議論します。18歳選挙権実現後、初の国政選挙を前に、「若者と政治」について一度じっくり考えてみませんか?
企画詳細は以下の通り。事前申し込みは不要ですが、参加をご希望の方はFacebookページから「参加予定」または「興味あり」ボタンを押していただけると嬉しいです。皆さんのご来場をお待ちしています!
日時:5月15日 10:30~12:30
場所:安田講堂エリア 法文1号館(東)22教室(キャンパスマップはこちら)
主催:東京大学新聞社
協力:GEIL
【関連記事】