インタビュー

2017年8月10日

【東大教員から高校生へ】藤原帰一教授インタビュー 映画と国際政治を語る

 8月2日と3日に東大でオープンキャンパスが開催された。これを機に受験勉強に一層の熱を入れようと決意した高校生も多いことだろう。藤原帰一教授(法学政治学研究科)は、国際政治学を専門として数々の著書を執筆する一方、映画についても造詣が深い。藤原教授に、高校時代の過ごし方や現在の研究に向き合う態度、高校生に向けてのメッセージを聞いた。

(取材・石井達也 撮影・一柳里樹)

 

 

自らの分析を疑う

 

──高校時代までの生活を教えてください

 映画を見ていました。小学生のころから見始め、中2のころからは幼なじみに恋に落ちるようにしっかりたくさん、年に200本は優に超えていました。高校時代は、親の海外勤務のために東京の寮で暮らしていたのですが、節約したお金を映画代に回していました。

 

 映画研究会にも所属していて、業者から借りた16ミリのサイレント映画などを学校で上映していました。当時はとにかく本数を稼ごうと考えていて、3本立ての映画を見に通ったりして、浴びるように映画を見ていた時代です。

 

 ただ、勉強なんかしなくてもいいやと開き直る勇気はなかったので、勉強を全くしないわけではありませんでした。悪い成績のテストを親に見せるときには良い成績のものを一緒に送るなどして、帳尻を合わせていましたね。

 

──東大でも映画中心の生活でしたか

 やはり映画ばかり見ていましたね(笑)。東大を志望したのは、周りで受ける人が多かったからという主体性に欠けた動機なので、大学に入った後の進路選択に苦労しました。

 

──映画業界に進むという考えはありましたか

 才能がありません。黒澤明監督の『野良犬』を見たとき、自分にこんな映画は作れないと感じました。カットのつなげ方、光の使い方、展開やリズムがとにかく素晴らしい。自分にできるのは「優れた映画を優れた映画だと理解すること」に尽きると実感しました。

 

──国際政治学の道に進んだ理由は

 将来設計がほとんどなかったのですが、政治学の授業は比較的面白かった。結果的にはそのまま国際政治学の道に進むことになりました。学部在学中は映画ばかりで勉強できていなかったので、もっと勉強しなくてはという思いがありました。振り返ってみても、大学院の間は映画を見る数が激減しています。

 

 当時の大学院には、研究者になるのが当たり前という風潮がありました。自分にそんなことができるのかと疑っていましたが、やってみるとそれなりに面白い。分からない問題に対して答えを探り当てていき、以前よりもはっきりした形を与えていくことは、やはり魅力のある仕事です。

 

 私の専門分野は、国際政治の中で常に大きな割合を占めてきた戦争と平和の問題についてです。近代国際政治は、大規模な戦争のたびに軍事力縮小を目指してきた歴史があります。軍事力は、「平和を破壊する手段」と抑止力の意味での「平和を維持する手段」という両義性を持ちますが、軍事力の緊張関係がどのように紛争に発展していくかは場面ごとに異なるので、状況を丁寧に分析していくことが必要です。

 

 人は、好みと合致した白黒付いた分かりやすい意見に偏りがちです。それを防ぐために、冷静な分析力を養っていく必要があるでしょう。この点は、学生への指導でも注意している点です。自分の分析が正しくないのではないかと感じる「怖さ」が、研究や指導の上での原動力ともいえますね。

 

──現在、関心ある国際問題は

 第一にイラク・シリアでの内戦、第二に北朝鮮のミサイル問題についてです。事件自体の重要性は言うまでもないのですが、国際関係に与える影響を考える上でも重要です。東西冷戦終結以来の国際秩序の動揺と結び付くことで、話が大きくなってきます。

 

 この種の話をする際には、日本の国内政治の場に移して議論されることが多いです。「北朝鮮の脅威は大したことない」「軍事的な強硬策を取ればこの今の状況は生まれなかった」といった意見が聞かれます。しかしこれらの考えは、どちらもはっきりとした間違いです。ただ、このような話の方が理解しやすい。見える所だけ切り取って都合よく解釈することに問題がありますね。

 

 

「東大を利用して」

 

──大学とはどのような場所か

 学びたいことを自分で見つけていくのが大学。大学側が指定する必修科目があるとはいえ、何について知りたいかを設定していかなければなりません。

 

 単位を取りやすい授業ばかり履修して卒業することもできます。それでも、大学はこれから何をするかという大きな課題を抱える中で多くのことを学び、自分で問いを立てなくてはならない環境だと思います。私の授業でも、学生に問いを立てさせることを意識しています。

 

──東大はどのような大学か

 東大は抜きんでて優れた大学です。素質のある学生が多く、図書館も良く、研究だけでなく教育に重きを置いている教員が多い。ただ、学んでいる側にも教えている側にも「東大は偉いと考えるお馬鹿さん」がいることは残念です。そんなことでは、学生も教員も、そして東大も発展がありません。

 

 私は大学の国際連携の仕事もしているのですが、海外の大学では、学生が日本の小学校での授業のように、競って発言しています。海外の学生と比べた東大生の特徴は、一言でいうとシャイ。発言をネガティブに取られてはいけないという気持ちがあるのでしょう。非常に受動的な状態になってしまいます。東大生には内に秘めた力があるので、それをいかに引き出していくかが教員の役目ですね。

 

 優れた大学は、研究も教育も意味を基礎からしっかり考えており、必要ならばやり方を全部塗り替えても構わないという意識を持っています。私自身も、東大にいる間にできる限りの改革をしていきたいと考えています。これまでは、海外の大学とオンライン上で課題に連携して取り組む授業などを実施してきました。東大の教室の在り方を変えることができます。このような実験やいたずらのようなことをするのは面白いですよ。

 

──高校生にメッセージをお願いします

 東大は、自分の進路に向けたトレーニングをするための場として、優れた機会を提供してくれます。ぜひとも東大を利用して、自分自身の人生を作ってもらいたいと思います。

 

藤原 帰一(ふじわら・きいち)教授 (法学政治学研究科)

 84年法学政治学研究科博士課程単位取得中退。千葉大学法経学部(当時)助手・助教授、社会科学研究所(当時)助教授などを経て、99年より現職。著書に『戦争の条件』(集英社)、『映画のなかのアメリカ』(朝日出版社)など。

 

【関連記事】

【東大教員から高校生へ】水島昇教授インタビュー 研究者とはどんな存在か

タグから記事を検索


東京大学新聞社からのお知らせ


recruit
koushi-thumb-300xauto-242

   
           
                             
TOPに戻る