厳しい寒さが続く中、運動は健康に良いと分かっていながらも、なかなかやる気が出ないという人も多いのではないだろうか。今回は日常的な運動の重要性について鎌田真光助教(医学系研究科)に話を聞いた他、東大やその周辺で手軽に運動できる施設を併せて紹介する。
(取材・藤田創世)
リフレッシュとして習慣に
「私の仕事における第一のミッションは、運動不足を世界からなくすことです」と語る鎌田助教。どうしたら人々の生活習慣の中に運動を取り入れてもらえるかを、行動経済学など専門外の学問領域の知見も生かしながら研究している。日本人は、世界各国と比較すると運動習慣がある方で、歩数が多い人と少ない人の格差も小さいという。しかし、この20年程度で歩数にして1日あたりおよそ1000歩の活動量の減少が見られる。「運動不足は喫煙などと同様に健康への危険性があり、がんや心臓病のリスクを高めます。世界の死因の9%が運動不足であるという推計もあります」
今年は東京でオリンピック・パラリンピックが開かれる。最近では五輪開催のレガシーとして、開催地の人々が五輪をきっかけに運動習慣を身に付けることもIOCの目標に含まれるようになった。ところが、過去の開催地における調査の結果、五輪の前後でスポーツ実施率に変化が見られないことが明らかになっている。理由として考えられるのは、スポーツを「見る」ことと「する」ことのギャップ。このギャップを埋めるような取り組み、例えば「スポーツ実施率に応じて参加国・地域にメダルを授与する」など、五輪が国民全員でスポーツに参加するイベントになることが理想だという。「国民一人一人の運動につながる大会への変革が望まれます」
運動は病気が増える中高年になってからではなく、やはり若いうちからの習慣付けが重要だ。その点で、東大の前期教養課程の中で身体運動・健康科学実習が必修化されていることは非常に価値があると話す。若い人全体に向けては、アプリを活用した取り組みも広がっている。その一例が、鎌田助教が学術的なサポートを行うプロ野球パ・リーグの公式アプリ「パ・リーグウォーク」だ。このアプリはスマートフォンの歩数計と連動しており、各球団のファン同士で歩数を競ったり、歩数への報酬として選手のプロフィール画像を獲得したりできる。こうした「ゲーム化」によって、人々の運動に対するモチベーションを上げることが狙いだ。
日常生活に簡単に取り入れられる運動の具体例としては、まずは散歩が挙げられる。それに加えて、ジョギングやストレッチを実践できるとさらに良い。ただ背伸びをするだけでも効果的で、肩こりや腰痛の予防にもなるという。「大学生の皆さんは、まずは手軽な運動を、作業効率を上げるためのリフレッシュとして習慣化してみてはいかがでしょうか。社会人としてさまざまな場で活躍するためには、自分の心身のコンディショニングをしっかりできることが大きな力になります」
初心者でも味わえる達成感
ボルダリングは、岩壁や人工の壁を登ることを楽しむスポーツ。運動しやすい服装さえ用意すれば、シューズや滑り止めとして用いるチョークはレンタルして簡単に始められる。NOBOROCK渋谷店では、登るコースの「課題」を初心者でも登りやすく設定したエリアの他、到達度を記録するチェックシートや缶バッチを用意。誰でも楽しめる環境が整っており、初心者も多く訪れている。
NOBOROCK渋谷店には、大会での活躍を目指す選手に加え、学校や会社の帰りに立ち寄ってフィットネスとして楽しむ学生や会社員など、さまざまな人が集う。加えて、年齢にも制限がない。そんな仲間たちとの交流も、ボルダリングの魅力の一つだ。「全然知らない人とも声を掛け合うんです。取り組んでいた課題ができた時、周りの人も喜んでくれるのが最高に気持ち良いですね」と副店長の髙橋珠美さんは話す。一方で「誰かと時間を合わせる必要もなく、1人で気楽に取り組める」点も気に入っているという。状況によって多様な楽しみ方ができるのが、ボルダリングの長所だ。
ボルダリングの楽しさを一言で表すと「達成感」。課題を攻略するために、減量やトレーニングを行う人もいる。同じ課題に何度も挑戦した末「自分ができなかったことができるようになる達成感」に多くの人がとりこになってきた。最初は登れなくて当たり前。レベルが上がってくると、一歩先に進むための足場すらおぼつかない絶妙な状態になる。だからこそ、できなかった時に落ち込む必要は全くなく、むしろほんの少しの前進でも達成感を味わえるように自分を褒めることが大事だという。「ゴールだけが全てではないですからね」
ボルダリングでは筋力だけでなく、体幹やバランス感覚も鍛えられると語る髙橋さん。「ボルダリングは始めやすいスポーツですし、登ったときの達成感を是非味わってほしいです。若い人ほど上達は早いですから、始めるのも早い方がいいですよ」
東大の運動施設
駒場ⅠキャンパスのQOMジムでは、さまざまなマシンで「動作の質」を高めるトレーニングが可能。本郷キャンパスの御殿下記念館には、マシンの他プールやダンススタジオが備えられ、運動プログラムも開講されている。
この記事は2020年1月28日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を掲載しています。
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