1月16日、17日に実施された大学入学共通テスト。大学入試改革として、従来のセンター試験から多くの科目で出題方法や出題内容の変化が見られた一方、国語の記述式問題導入も決定されていたが、見送られた。見送りの経緯と今後の記述式の在り方について、国語教育を研究している間瀬茂夫教授(広島大学)に話を聞いた。
(取材・池見嘉納、情報は5日午後6時現在)
測定の妥当性が問題に
国語における記述式問題導入が初めて提言されたのは、2014年12月の中央教育審議会での答申においてのことだった。審議会では、従来のセンター試験で問われていた「知識・技能」に加え「思考力・判断力・表現力」も新テストで問うべきとされた。背景には生徒の表現力・記述力の低下がある。「研究的な裏付けはないものの、大学の教員として、また研究者として学校現場に赴く中で、表現力の低下を感じることがありました」と間瀬教授。作文の授業のウェイトが小さく、十分な時間が取れていないことが原因の一つだと推測されるという。
共通テストには二つの役割があると間瀬教授は指摘する。一つは大学の入学者を決める選抜システム、そしてもう一つは高校における学習到達水準の指標だ。特に後者の点において、表現力の到達度を記述式で評価することに意義があるという。
16年3月に高大接続システム改革会議の最終報告が行われ、後の試行調査などに見られるさまざまな条件を付した設問形式が提案された。条件が増えるほど解答として許容される記述の幅が狭まるため、採点の正確性は増す。一方で解答の自由度が狭まるので、表現力を測るという本来の目的から外れてしまう。「例えば英国のGCSE(義務教育修了時の統一試験)では『次の文章を読んで、理解したことを書きなさい』という出題があり、他に条件はありません。それでも採点できるのは、義務教育を通じて『理解したことを書くとはこういうことだ』という共通理解が徹底されており、その枠組みの中で自由に記述しているからです。日本ではそうした枠組みがないので、条件という形でその場の枠組みを与えるしかありません」
記述式の採点に関する議論は、記述式の実施時期に関する議論と同時並行で進められた。間瀬教授は「模範解答に近いものに丸を付けるのは難しくないが、誤りと言えないものをどう評価するかが問題となるでしょう」と話す。
その後17、18年に2度の試行調査が行われた。従来と異なる新形式の問題としては、実用文、つまり実生活で見られる文章の出題が注目された。しかし採点結果の補正が必要となったケースが見られたこと、自己採点の不一致率が国語で約3割だったことなどが問題となり、記述式導入に対する反対運動などが発生。この試行調査を受け、間瀬教授は「平等性や信頼性が問題となりましたが、むしろそのことで思考力や判断力、表現力を測るという妥当性が損なわれたことが一番大きな問題だったと思います」と指摘する。19年12月、文部科学省はこれらの問題を解決して受験生の不安を払拭することは現時点では困難だとし、記述式導入の見送りを決定した。
変わりつつある国語教育
記述式がいつ、どのように行われるかは現時点で発表されていない。しかし、教育の在り方は記述式導入の決定、新学習指導要領の発表によって変わりつつある。22年度から実施される新課程の学習指導要領では、高校の現代文の選択科目として「論理国語」「文学国語」、さらに表現力を養うものとして「国語表現」が新設。こうした変化を受け、高校ではアクティブ・ラーニングに基づいた活動も増えている。記述式が見送られたからといって、後戻りはできない。
それではどのような形を採用するべきか。「共通テストを選抜試験と見たとき、平等性を重要視する日本では記述式は文化に合わない」と間瀬教授。その上で、共通テストとは別に特定の教科で高校教育の到達度を確認する試験を整備し、そこで記述式を用いるのも良いと主張する。「日本の国民に求められる表現力や、それにつながる思考力を身に付けて卒業することが、高校教育の保証となります」。共通テストの前に高校教育の到達度を確認する「達成度テスト」が計画されていたが、現在は高校1・2年生対象の「高校生のための学びの基礎診断」という民間の試験などを用いた自由参加型のシステムが運用されている。こうした入学者選抜の前段階の試験で十分な分量の記述を時間をかけて評価し、全国一律の大学入学者選抜試験である共通テストは平等な選択式とするという形も考えられる。
記述式の導入、そして見送り。新型コロナウイルスの流行も合わせて、今後の共通テスト、そして入試改革の在り方は不透明だ。受験生たちの将来に関わる大学入試。受験生のためにもより早く方針を定めることが求められる。