報道特集

2019年5月28日

東大入学式2019・上野祝辞アンケート分析① 回答傾向の分析から

 4月12日の学部入学式で上野千鶴子名誉教授が述べた祝辞は、学内のジェンダー問題や大学で学ぶ心構えを説き、学内外で反響を呼んだ。東京大学新聞社は、この祝辞について東大内外の全ての人を対象にアンケート調査を行い、東大生(院生含む)603人を含む4921人から回答を得た。東大生以外では87.5%が祝辞を評価した一方、評価した東大生は61.7%にとどまり、祝辞への反応の差が浮き彫りになった。東大生の中でも、性別や学年、文系理系によって回答の傾向に相違が見られた。

(構成・山口岳大)

 

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2019年度入学式

 

 調査では、祝辞について①全文を聞いた、あるいは読んだか②内容をどの程度理解できたか③どの程度評価するか④学部入学式にふさわしい内容だったと思うか─の四つの質問を設け、①以外の三つに関しては回答の理由を聞いた。さらに、祝辞で取り上げられた東大の四つのジェンダー問題について、祝辞以前にどの程度認識していたかも聞いた。

 

◇東大生の回答傾向

 

女性の関心の高さ際立つ

 

 回答した東大生のうち、男性は67.5%、女性は29.9%。祝辞を「たいへん評価する」「評価する」と回答した割合は東大生全体では61.7%だった。性別では、女性で82.2%だったのに対し男性は53.1%にとどまり、女性の方が高く評価していることが示された。祝辞の理解についても、「よく理解できた」「理解できた」を合わせた割合では男女で大きな差はなかったが、「よく理解できた」に限ると、女性が約20ポイント男性を上回り、女性の方が祝辞の内容をより深く理解できている傾向が見られた。祝辞が学部入学式にふさわしい内容だったと思うかについても、男女で約30ポイントの差があった。ただし、女性でも「どちらとも言えない」が13.9%、ふさわしいと「思わない」「全く思わない」が13.3%で、ふさわしいかについては慎重な意見が見られた。

 

 祝辞で上野名誉教授が取り上げた学内の問題については、いずれも「よく認識していた」の割合は女性の方が高かった。特に「研究職・管理職における男女比率の偏り」は、「よく認識していた」「ある程度認識していた」を合わせた割合が、男性では83.3%だった一方、女性では92.8%で、女性の方が9.5ポイント高く、問題の認識に差があることが示唆された。

 

 学部1、2年生に限定し、文科と理科に分けての分析も行った。回答者のうち、文科生は6割に達した。前期教養課程に在籍する全学生中の文科生は4割であることから、理科生に比べ文科生の祝辞への関心が高かったことがうかがえる。さらに性別ごとに文理を比較すると、男女いずれでも、文科生の方が理科生より祝辞を評価した割合が高かった。祝辞を「たいへん評価する」「評価する」とした割合は、文科生の男性で62.4%、女性で80.5%だったが、理科生の男性で52.2%、女性で50.0%にとどまった。祝辞のふさわしさを尋ねた質問でも、同様の傾向が見られた。ただし、理科生の女性は回答者が12人しかおらず、文科生・理科生の女性を単純に比較することはできない。

 

新入生、上級生より高評価

 

 新入生は103人が回答。回答者の女性比率は26.2%で、新入生全体の女性比率18.1%を上回った。祝辞を「たいへん評価する」「評価する」と回答した新入生の割合は74.8%で、新入生を除く東大生の59.3%を15ポイント以上上回った(図1)。ただし、男性で72.4%、女性で81.5%と性別による意識差は新入生にも見られた。この意識差は、祝辞をふさわしいとした新入生の女性が81.5%に上ったのに対し、男性で52.6%だったことにも表れている。学内の問題については、「学生の男女比率の偏り」を除いて、新入生の認知度が新入生以外に比べ低く、今回の祝辞が、新入生が東大のジェンダー問題を知る契機になったといえる(図2)。四つの問題に共通して、「よく認識していた」「ある程度認識していた」を合わせた場合の男女間の差は大きくないが、「よく認識していた」に限ると女性が男性を大きく上回り、新入生の男女間で問題の認識に差があることも明らかになった。

 

 

 

◇東大生以外の回答傾向

 

男女いずれも東大生より高評価

 

 今回は東大生以外にも同様の調査を行い、4318件の回答を得た。うち67.3%が女性であり、特に女性の関心が高かったことが示唆された。世代別では、40代が32.3%で最も多く、30代、50代がそれぞれ22.3%、21.7%と続いた。

 

 祝辞を理解できたかについては、96.6%が「よく理解できた」「理解できた」と回答しており、東大生の92.2%とともに9割を超えた。ただし、「よく理解できた」は東大生以外で73.0%に達し、東大生の50.8%を大きく上回った。

 

 祝辞を「たいへん評価する」「評価する」と回答した割合は、東大生以外で87.5%と、東大生の61.7%に比べ高かった(図3)。性別ごとに東大生と東大生以外を比較すると、女性では東大生82.2%、東大生以外95.0%、男性では東大生53.1%、東大生以外70.9%と、いずれの場合も東大生以外が上回った。

 

 祝辞が入学式にふさわしい内容だったかについても、「大変そう思う」「そう思う」の割合が東大生で51.7%、東大生以外で82.8%と異なった。男女別でも東大生以外の方が東大生よりも男性、女性でそれぞれ22.0ポイント、18.0ポイント高かった。

 

 

20代、30代以降で評価高まる

 

 年齢別(以下、回答者が3人以下の9歳未満、80代、90代を除く)に見ると、祝辞を「たいへん評価する」「評価する」と回答した割合は10代の72.9%を除き、20代以降になるとどの世代も80%を超えた。祝辞がふさわしい内容だったかについても、「大変そう思う」「そう思う」の割合は、10代で60.6%、20代で74.1%だった他は、いずれの世代も軒並み8割を超えていた。男女別で見ると、男性は10代、20代では評価する割合がそれぞれ55.6%、60.3%なのに対し、30代以降は7割を超える。女性の場合は、10代で86.2%、20代以降は90%以上と、世代に関係なく祝辞を評価している傾向があった。

 

 上野名誉教授が取り上げた東大のジェンダー問題に関しては、全体的に東大生に比べ認知度が低く、特に「東大女子が入れないサークル」の問題は44.1%が「あまり認識していなかった」「全く認識していなかった」と回答。一方、「研究職・管理職における男女比率の偏り」については、認知度が東大生で86.2%、東大生以外で83.6%と、2.6ポイントの差にとどまった。

 

 この調査では、東大生の保護者か否かも聞いた。祝辞が入学式にふさわしい内容だったかに「大変そう思う」「そう思う」と答えた割合は、新入生の保護者で78.9%、東大生の保護者以外で84.9%だった。新入生以外の東大生の保護者では81.7%であり、新入生以外の保護者の方がふさわしいと考える傾向がわずかに強いことも明らかになった。

 

◇結果の分析から

 

 東大生については、男性に比べ女性の方が、全学生に占める回答者の割合が高く、祝辞を肯定的に捉える傾向が顕著だった。さらに、学内のジェンダー問題にもより強い関心を持っていることが示された。女性はこの問題においてマイノリティーの立場にあり、祝辞の問題提起をより切実に捉えていたことがうかがえる。

 

 新入生と学部2年生以上の学生で比較したところ、新入生の学内の問題への認識度が相対的に低かった。このことから、今回の祝辞は、新入生が東大内の問題を知る機会として大きな役割を担ったということができる。学生の男女比は容易に認識できるものの、東大の女性が入れないサークルは今回の祝辞によって初めて問題として認識された可能性がある他、2016年の集団強制わいせつ事件は今後風化する恐れもあった。さらに、研究職・管理職における男女比率の偏りは、他の問題と比べると学生には身近でなく、この問題については、新入生に限らず学生全体にとって新たな問題提起となったと考えられる。

 

 学部2年生以上の方が新入生に比べ祝辞への評価が低いことも明らかになった。ここで学部2年生以上が批判を向けたのは、祝辞の主張それ自体よりもむしろ、周辺的な事柄に対してだった。まず、主張を裏付ける根拠が必ずしも説得力を持っていなかった点が槍玉に挙げられることが多かった。祝辞冒頭で触れられた、理Ⅲにおける女子学生の合格率に対する男子学生の合格率1.03倍は統計的に意味を持たないのではないか。他の大学との合コンで東大の男子学生がもてるというのは必ずしも正しくないのではないか。祝辞の趣旨を認めつつも、こうした議論の弱さを指摘する声が多かった。さらに、内容の正否や意義とは別に、それが入学生が祝われるべき「祝辞」という枠組みで捉えられる限りでは評価できない、という意見も多数あった。

 

 東大生以外は、全体的に東大生よりも祝辞を肯定的に捉える傾向があった。東大生の女性も祝辞を評価しているが、東大生以外の女性はさらに高く評価しており、男性の場合も、3人に1人が祝辞を評価していない東大生の男性と比較すると、かなり高い評価を下している。この違いは、東大生以外の中で多数を占めた社会人の方が、社会での経験が豊富であり、問題がいかに深刻であるかを目の当たりにしてきたことに起因していると考えられる。これは、東大生を除いた集団の中で、10代、20代の若い世代よりそれ以上の世代の方が祝辞を評価している割合が高いことからも裏付けられる。

 このアンケートは、4月18日〜5月10日にかけ、東大生に限定せず全ての人を対象に実施した。Googleフォームで回答を受け付け、東京大学新聞の紙面及びオンライン、SNSで回答を呼び掛けた他、東大生向けにはLINEなどを通じて周知を図った。

 

 属性に関しては、全ての人に年齢(10歳区切り)、性別、学生か否かを聞き、学生でないと答えた人には職業も聞いた。学生と答えた人のうち、東大以外の学生には通学している学校の種類を、東大生(院生含む)には学年と所属を尋ねた。いずれも回答者自身の申告にのみ基づき、実際と異なる可能性がある。

 

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