大学入試センター試験に代わり2020年度から始まる大学入学共通テストで、英語の民間試験利用を巡り東大が揺れている。4月27日、入試を担当する福田裕穂理事・副学長が従来の方針から一転、民間試験を利用する方向で検討を開始したとの文書を発表。これに対し、かねてから民間試験利用に対する危惧を五神真総長らに伝えていた教養学部英語部会が見直しを求めるなど、東大内では民間試験の利用に反発する声も根強い。民間試験利用を巡る議論の行方を探る。
(取材・一柳里樹)
英語部会の中尾まさみ教授(総合文化研究科)によれば、英語部会からの申し入れでは「昨年6月に国立大学協会(国大協)が示した民間試験利用の懸念点が解消されていない状態で民間試験の利用を決めるのは、問題があると主張した」。昨年6月の国大協総会では、民間試験の「認定の基準、学習指導要領との整合性、受験機会の公平性を担保する方法や、種類の異なる認定試験の成績評価の在り方など」について早急に検討するよう文部科学省に求めていたが、文科省は懸念への説明をしないまま7月に共通テストの実施方針を公表。その一方で11月、国大協は懸念が払拭されていない中、民間試験と大学入試センター実施の新テストの双方を全国立大学受験者に課す基本方針を決定していた。
決定から半年以上が経過した今も「問題は解決されていない」と中尾教授。特に、英語圏への留学やビジネスなど異なる目的に基づいて作られた民間試験で「各試験の目的を考えず、点数を取りやすい試験の対策に奔走することには教育的な意味がない。4技能を分割した試験方式や得点配分も疑問だ」。こうした問題の解決策・対応策が示されないまま利用に踏み切ることは「大学での英語教育に責任を負う者として看過できない」と力を込める。
高大接続研究開発センター長として、入試に関する重要事項の最終決定を行う入試監理委員会に所属する南風原朝和教授(教育学研究科)は、11月の国大協の決定を「専門的な検討を欠いた拙速な決定だ」と批判する。基本方針の作成に当たり、国大協から各大学への意見聴取期間はわずか1週間。どの大学も、学部長や教員から十分に意見を聞く余裕はなかったという。
さらに、文科省の実施方針では民間試験・新テストどちらかのみを利用する余地が残されていたにもかかわらず、国大協が全受験生に民間試験と新テストの双方を課すと決めたことについても「アドミッション・ポリシーも異なる多様な大学の存在を無視した強すぎる制約。少なくとも2試験の併用は原則にとどめ、最終的には各大学の主体的判断に委ねるべきだ」と指摘。民間試験を利用するという東大の方針の基盤となった、国大協の決定の正当性に疑問符を付ける。
「根本から主体的・専門的に検討を」
今後、民間試験を巡る議論の場は、4月の福田理事・副学長の発表で設置が公表されたワーキンググループに移る。南風原教授によれば、ワーキンググループの方針は今年の夏から秋ごろに決まる見込みだという。「英語部会の提起を歓迎している。ワーキンググループではただ国大協に追従するのではなく、民間試験の利用の是非について根本から主体的・専門的に検討すべき。他大学の模範となるような議論を期待したい」と南風原教授。中尾教授は「公平性・公正性・教育的意義を全うする選択をしてほしい」、同じく英語部会の伊藤たかね教授(総合文化研究科)は「英語の授業に責任を持つ教員の考え方を反映してほしい」と求めている。
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福田理事・副学長は、方針転換の経緯などに関する本紙の取材に「誤解を解くため説明したいとは思っているが、入試案件は極めて機密性が高く、決定プロセスを表に出せないことになっている」としている。
この記事は、2018年6月12日号からの転載です。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。
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