大学入試センター試験に代わり2021年から始まる大学入学共通テストでの英語民間試験の利用を巡る議論の末、9月に入試監理委員会が決定した21年度一般入試の出願要件追加(表)。CEFRの対照表でA2レベル以上に相当する民間試験の成績か、それと同等の英語力を示す高校による調査書などの証明書類、またはいずれも提出できない事情を示した理由書の提出を出願要件とし、受験生が民間試験を利用しない余地も残した。大きな反響を呼んだ東大の決断の意義を、入試担当理事の福田裕穂理事・副学長に聞いた。(取材・一柳里樹)
「今回の決定の最大の意義は、読む、聞く、書く、話すという英語の四つの能力(4技能)全てを総合的に、高校でも大学でもしっかり学ぼうというメッセージを出したこと」と語る福田理事・副学長。民間試験利用の是非に終始していた議論を引き戻し「グローバル化の中、今後の英語教育はどうあるべきか」という本来の課題に立ち返って下した決定だという。
本来は東大受験生に高い英語力を期待したいが「4技能を測定する方法論は未熟。受験生に過度な負荷をかけないよう、二つの選択肢を設けた」と福田理事・副学長は説明する。「A2レベルはあくまでも入り口。高校でスピーキングやリスニングに少しでも触れておけば、大学入学後に必死で勉強しても遅くない」
しかし、A2レベルの英語力さえ付けておけばよいと受験生に勘違いされては元も子もない。そこで、高大接続研究開発センターが今年10月に立ち上げた高校生・受験生向けサイト「キミの東大」を活用し、東大での英語教育の模様や短期留学に必要な英語力などを発信する予定だ。福田理事・副学長は「単に受験のためだけでなく、自分自身の将来のために英語力を付ける勉強の必要性を高校生に伝えていきたい」と意気込む。
福田理事・副学長自身もドイツに留学していた頃、英語を全く聞き取れず苦労した経験がある。「大事な事項は全て紙に書いてもらい、何とかコミュニケーションを取りました」。一方、韓国人や中国人は「意識的、戦略的に勉強していて」英語を話すのがうまいという。「日本の英語教育は読み書きに偏っていないか。日本人は英語で論文を書くのは上手だが、実際に採用されるのはポスター発表やプレゼンテーションをしっかりできる人。英語を話せないと損してしまう」
民間試験は問題含みだが「4技能全て満遍なく勉強することは大事だというメッセージは伝えたい」。入試としての妥当性を保ちつつこの要請を満たすため、文部科学省が入学者選抜への活用を求めている、高校の調査書に目を付けた。「高校の先生は生徒をしっかり見て、客観的に英語力を評価する力があると信じている。東大としては、そうした現場の先生の的確な判断を期待している」
「民間試験も調査書も、入試の判断基準としては発展途上。どちらがより英語力の評価にふさわしいかの判断は、本格的に入試が切り替わる段階でも遅くない」。両者を併用した上で、合格者への調査などで民間試験結果や調査書の内容と英語力の相関を確かめ、将来の判断につなげる構えだ。
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この記事は、2018年11月20日号からの転載です。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。
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