バングラデシュと日本の双方での教員経験を有するマーク・フラニガンさんへ、両国における教育の価値を尋ねた。大学教育の価値について理解する一助となれば幸いである。
English Version: The Universal Value of Education Found in Bangladesh and Japan
マーク・フラニガンさんは昨年夏より、バングラデシュ第二の都市チッタゴンにあるアジア女子大学で、WorldTeach(教育系非営利・非政府組織)のボランティアスタッフとして教鞭を執り始めた。同大学では日本サークルクラブのアドバイザーも務める。それまでは日本国際基督教大学財団でプログラムディレクターを務め、ニューヨーク市インターナショナルハウスでの議長職も歴任していたマークさんは、なぜバングラデシュで教鞭を執ることを決断したのか。現職に至った経緯と、現地での教員生活がご自身に何をもたらしているかについて、尋ねた。
――まずお聞きしたいのは、マークさんがバングラデシュに移った理由です。単なる想像ですが、ニューヨークにいたマークさんは、充分に安定して立派な職に就いていたように思います。また、マークさんがバングラデシュに移る直前の2016年7月、現地ではテロがありました。私だったら、「このままの生活を続けた方がいい」と思ってしまう気がします。
インタビューいただきありがとうございます。確かにここに来る前はニューヨークで暮らして働いていました。2012年に国際基督教大学で平和学の修士課程を修了したあと、マンハッタンにある日本国際基督教大学財団で働き始めました。素晴らしい経験ができましたし、このような機会をいただけたことに本当に感謝していました。
ただ、4年ほどもたつと、ちょっと新しくて違うことに挑戦したいと思い始めたのです。アジア女子大学にWorld Teachボランティアのポジションがあることを知り、出願したのはそんな時でした。嬉しいことにわたしの出願は受け入れられました。恵まれない学生を手助けするチャンスだと思ったし、国際的な教育に携わることで南アジアのジェンダーや開発に関する問題に、より直接的に向き合えるチャンスだと思いました。
しかしながら、わたしがバングラデシュへ旅立つこととなっていた1ヶ月より前のこと、残忍なテロが同国の首都、ダッカで起きました。
もちろん当惑しましたし、今後についても不安になりました。今後何が起きるんだろう。ボランティアなんてできるのだろうか。ただ結果的には、大学のセキュリティレベルに満足し、自分を含めて6人中3人の新しいボランティアスタッフが、現地で教鞭を執る決断をしました。たやすい決断ではなかったし、私の家族や友人が心配していたのも確かです。しかしながら、嬉しいことに、ここで暮らして教えている6ヶ月間、ネガティブな態度には一度も出くわさなかったし、ここに息づく人々は、大変温かく、私を含む来訪者を歓迎しています。
――教員としては具体的に何をされているのでしょう。また暮らしぶりについても詳細に知りたいです。
ちょうど2016年度の秋学期の授業を担当していましたが、ここで献身的でまじめな女性たちのために働けることをとても誇りに思います。Pathway Programと呼ばれる、これまで高等教育を受ける準備があまりできていない学生がその後の学部教育についていけるためにサポートする役割を担っているプログラムです。非常にやりがいの感じられる仕事です。
学生の多くは、バングラデシュの被服縫製工場から来ていて、彼女たちにとってここで学ぶことは、大学の学位をとることができるビッグチャンスなのです。他には、迫害をうけた少数民族ロヒンギャ族の学生、グラミン銀行のマイクロクレジットのローン受領者の娘さんなどがいますね。
Pathway Programでは約1年間、リーディング・ライティング、そしてリスニング・スピーキングの授業を行います。Pathway Programを修了して、すべて試驗の条件をクリアしたら、1年間アクセスアカデミーに進みます。そして追加で3年間学部教育を受けるのです。うまくいけば計5年で学位を得て卒業できますが、容易いことではありません。
多くの学生は故郷から遠く離れたところで、ほぼすべての時間をキャンパスで過ごしています。
寮に済み、ダイニングホールで食事をし、一緒に授業を受けます。したがってプライバシーはほぼ無く、静かに内省する時間もほとんどありません。
そのような環境でも、彼女たちは非常に熱心に学習し、手にしたチャンスを最大限に活用しようとしています。私が受け持つリーディングとライティングのクラスにいる17人の生徒は皆、非常に熱心でひたむきな姿勢で学んでいます。
彼女たちは努力家で、でもまじめなだけじゃなくて面白い子たちです。そして高い視座を持っている。アジア女子大学で教鞭を取り、輝かしい、意志を持った、若い才能と出逢い、教えることができていることは、私にとって大変な喜びです。
――ありがとうございます。マークさんは長崎のJETプログラム(The Japan Exchange and Teaching Programmeの略称。「語学指導等を行う外国青年招致事業」を指し、地方自治体が総務省、外務省、文部科学省及び一般財団法人自治体国際化協会(CLAIR)の協力の下に実施している)に参加したり、東京の国際基督教大学でご自身が学生として学んだりしていたとのことですが、いま教えているバングラデシュと、日本とで、教育の価値にどのような違いがあると思われますか。
日本でもバングラデシュでも教育セクターに直接的に携わる機会を得てきたことに感謝しています。たしかにそれぞれの国に文化や教育のスタイルに違いがあると言えますが、世界中どこでも人は同じように学んでいくのだと感じています。
どこの国でも親は子どもがいい人生をおくること、成功することを願っています。だから親たちは可能なかぎりいい教育を子どもに受けさせたいと思っていると感じます。バングラデシュは物理的なインフラ整備などがまだまだ発展途上にありますが、そこに息づく一人ひとりの「成功したい」という強い願いはすでに確かに充分に存在している。
バングラデシュでも日本でも、学生たちが高い視座を持ち、自身を成長させるために大変な努力をしていると思います。面白いことに、AUWとICUでの自分の経験に、ある種の相似をみつけたのです。AUWとICUは、ともにアジアの、比較的小規模でリベラルアーツにフォーカスを当てた私立大学です。双方ともクリティカル・シンキングを推奨し、多様なアイデア、信条、思想、世界観を歓迎しているという共通点があると思います。AUWの方が創立からの年度はずいぶん短いですが、両大学はともに、高等教育を革新するアジアのハブであれ、という建学の精神を固持しています。
AUWがICUと異なるのは、(ICUもまた、ジェンダーの平等、教育、発展に価値はおいているものの)AUWは若い女性の成長に特別に焦点を当てていることです。さらに、AUWの学生はICUの学生よりも経済的にあまり豊かではないことも違います。そして規模は小さいものの、より多様で、より国際色が強いといえますね。しかしどちらも、若者が大学の外にでて、彼らのコミュニティと世界に、よい貢献ができるように訓練をしているという役割は同じといえるでしょう。
いずれにせよ、私にとってここで働くことができているのが、心からの誇りです。もっと多くの人がAUWの、特にわたしのプログラムにいるような学生のことを知り、支援することを考えてもらえればと思っています。個人的な募金活動でも、より大きい規模での支援でも構いません。どのような支援であっても、それはここに通う女性たちが高い教育を得て明るい未来を実現するための強力なインパクトになると信じています。