皆さんは同人活動を知っているだろうか。一般的に同人活動とは、同じ趣味を持つ人々が集まって個人的に行う創作活動を指す。ここでは「学内同人活動・サブカルチャーの活性化」を理念に、東大内の同人誌即売会の企画・運営を行う東京大学コミックアカデミー(コミアカ)実行委員会を取材。東大での同人活動について「ぎんなんまんさん・なるさん・hirametro さん」に話を聞いた。東大ならではの同人創作活動の魅力に迫る。(取材・川端萌)
同人活動のあれこれ
━━コミアカ実行委員会の主な活動を教えてください
ぎんなんまん 簡潔にいうと、同人活動に関連するイベントの準備を行います。メインは五月祭と駒場祭での同人誌即売会(コミアカ)の開催です。同人誌即売会は同人創作活動をする個人あるいは団体が出展し、同人誌、CDなどさまざまな形態の創作物を頒布(はんぷ)する場です。同時に、サークル参加者と一般参加者、そしてサークル参加者同士で交流をする場としても機能します。コロナ禍以前は、東大に関係ある創作系サークルが一堂に会する場を設けたり、また秋には複数の創作系サークルに協力してもらい、創作に挑戦したい人が気軽に創作活動に触れられる機会を提供しました。
なる 「交流の場」という点について話すと、普段別々に活動を行うサークルが隣の席になり、会話や後のつながりが生まれる光景をよく見かけます。その時、このような場を作ってよかったと心の底から思いますね。
━━他の同人誌即売会とコミアカの違いを教えてください
ぎんなんまん コミックマーケット(コミケ)などの大きい即売会はジャンルごとにブースが分かれているため、ジャンルを超えたつながりが生まれることは難しいかと思います。一方コミアカでは、創作活動を行う東大生のサークルでジャンルの異なる団体が一同に会します。このような機会は東大の中でコミアカのみだと思いますね。
なる コミアカでは特定のジャンルに限らない、いろいろなジャンルの作品を頒布する点が特徴ですかね。
hirametro コミケ以外の即売会に参加したことがあるのですが、それらの会場は何だかアングラな感じがして(笑)。「参加しづらい」とか「怪しい」といった印象を受け、 一般的な即売会に参加しない人もいると思います。
ぎんなんまん コミアカは学園祭の場で開催されることから、小学生から大人まで誰でも参加がしやすい形態です。その意味で安心して参加でき、同人活動を始めやすい環境であると思います。
━━コミアカ実行委員会が「東大」というくくりで活動する上での良い点と悪い点を教えてください
ぎんなんまん 学内で創作活動をする学生を近くで見ること自体が創作への刺激になり、いいことだと思います。実は「東大生が参加する」ということ以上の意味は特になくて。東大生が参加する一般的なサークルと同じ感覚です。悪い点は「東大」というくくりで活動をするので、規模が小さくなると継続への不安が一層強まることです。大学の学園祭で行う即売会として知る限り最も大きいものだった早稲田大学の「ワセケット」は2019 年の早稲田祭を最後に活動を終了しました。
東大生の持つ創作活動の可能性
━━東大生による創作物の中で特に印象に残った作品を教えてください
hirametro 基本的にどれも好きですね(笑)。個人的な好みですが、「自由炊事党(自由に炊事を楽しむことを理念に活動するサークル)」の本が印象に残りました。内容は自炊用の料理本ですが、名前が持つ引き付ける力に加えて中身もしっかりしていて素晴らしいと思います。
なる 私は個人サークルのナヴァストーケが発行した『ロシア語警察24』ですね。ロシア人のキャラクターの命名方法を解説するなど、非常に興味深かったです。
ぎんなんまん カードゲームを作るサークル「符亀(ふがめ)」の新作の完成度も高かったです。カードゲーム『ドミニオン』をさらに面白くした内容で、製品として完成されていると思いました。イラスト系の同人誌でも結構凝ったものがあって、表紙から熱意を感じます。
一同 やはり全部いいですよね。
━━東大生による創作物の特徴は何だと思いますか
hirametro 東大生の作品は何といっても緻密ですね。中身が詰まっていて、一般的な同人創作物で見られる「荒さ」がないと思います。
なる 緻密さもそうですが、東大生の創作物から出てくる「好きなものに打ち込んでいる感じ」が好きです。愛が伝わってきますね。
ぎんなんまん 同感です。鉄道に関するものや、評論といった執筆系の創作物が多い印象も受けますね。
━━東大生による創作活動の可能性は
ぎんなんまん 自分の専攻分野と離れた趣味を持つ東大生は一定数いると思います。そういった趣味に対する思いが創作活動につながれば嬉しいですね。また現在創作活動に取り組んでいる東大生には、コミアカを踏み台とし、コミケやコミティアなどの大規模な同人誌即売会に参加していく中で商業の方面に進むのもありだと思います。実際、コミアカに参加した東大生がコミック系の雑誌に声をかけられた例もあります。
hirametro 東大生は真面目な文にアクセントを加えることが得意だと思います。非実用的なことを書きたくなったら、同人誌という形で発表すると気持ちがすっきりすることもあるんですよ。先生に提出しようとしてボツになったレポートにアレンジを加えたものを発表する人もいます。「何か文章を書く、絵を描いてみる」だけで創作活動への入り口になります。
つくる、つながる、つづいていく
━━コミアカの今後の展望について教えてください
ぎんなんまん 活動の幅を広げることではなく、今取り組んでいることを着実に続けていくことに重点を置きたいです。コロナ禍の危機の中でも即売会の開催を重ね、コミアカを引き継いでいきたいです。
なる コミアカを創作物発表の大切な場として捉えるサークルのために即売会の場を継続していくのが一番の課題だと考えます。「同人創作活動の裾野を広げる」を軸に、創作体験会や合同新歓といった、場を広げるための手伝いも続けていきたいです。まさに近年のスローガンである「つくる、つながる、つづいていく」という言葉に集約されますね。
hirametro 電子化が進んでいく中で紙媒体のものを作る良さは、絶対にあると考えます。オンラインでは伝わらない良さを、紙媒体と対面を中心とする即売会で広めていきたいです。
━━同人活動に少しでも興味を持っている東大生に向けてメッセージをお願いします
ぎんなんまん 他の即売会に比べ、コミアカは参加のハードルが低いと思います。興味がある人は気軽に参加してみてください。
なる コミアカをのぞいてみると、「東大生ってこういうこともやっているんだ」といった新しい発見や交流があると思います。それらをきっかけに同人創作活動を始めていただきたいです。
hirametro 東大生かつ何か特定のものに興味があるだけで十分なポテンシャルをもっています。きっと誰でも創作活動をできるはずです。皆さんもコミアカをきっかけとして自らの創作活動の可能性を広げてみてください。
東大で同人活動を行う団体は多数存在する。学内での即売会の場を提供するコミアカ実行委員会をはじめ、東大幻想郷や東大きらら同好会といった二次創作の同人活動を行う団体、東大イラスト研究会、作曲研究会CGTなど一から創作活動を行う団体、そしてインタビューで言及された自由炊事党、符亀といった団体など内容・規模はさまざまだ。
同人活動を行うと自らの創作物を発表することができるだけでなく、新たなつながりもできる。同人活動に少しでも興味があれば、コミアカなどの同人誌即売会や同人活動をする団体に参加し、創作活動への一歩を踏み出してほしい。そして東大生のもつポテンシャルを存分に発揮してもらいたい。