国内トップレベルのリーグ・東京六大学野球連盟にあって、昨秋は7年ぶりの「2勝」を挙げた硬式野球部。3人のベストナイン経験者をそろえるなど充実した戦力で迎える今春の目標は「勝ち点獲得」だ。強敵を前に、どのように立ち向かっていくのか、大久保裕監督に聞いた。(取材・宇城謙人、溝口慶)
昨秋の法大2回戦でサヨナラのホームを踏んだ杉浦(撮影・五十嵐崇人)
──2024年の秋季リーグでは、0勝に終わった春季リーグから7年ぶりの2勝まで成績を伸ばしました。秋季リーグに向けて、どのようなことを意識しましたか
春季リーグでは投手が四球を多く出すし、内野手がエラーして大量失点するというパターンが多くて、力が上の相手にいわば自滅するような形になってしまいました。投手はストライク先行で打者と勝負できるように、捕手や内野手は守りという点に強化ポイントを絞って、春季リーグ終了後から強化したところが、勝ちにつながったのだと思います。
──秋季リーグで2勝をあげられた要因として、どのような点が大きかったですか
投手がちゃんとストライクを取って勝負して、打ち取るのが2試合作れました。
というのも、この春卒業した鈴木太陽選手と渡辺向輝選手(農・4)と、2人の完投してくれる投手がいたんです。相手に捕まらずにうまく芯やタイミングを外したピッチングをしてもらい、失点しないうちにチャンスで点をとって、うまく投打の歯車が噛み合った試合が二つできました。やっぱりバッテリーがしっかり役割を果たしてくれたのは大きかったと思います。
──鈴木選手のインタビューで、球速を抑えてでもコントロールを上げたと聞きました
遅いボールでストライクを取るとか、バッターのタイミングを外すみたいなのを覚えたんですよね。夏場に、ブルペンだけでなく、バッティングピッチャーを1、2日おきぐらいに100球とか150球ぐらい投げて、インコースの投げ方やゆるいボールのタイミングを掴んだと言っていました。体が強かったので、たくさん投げてもへたらなかったんですよ。
──それは監督が指示を出したのですか
そういうことでもしたら、とピッチャーみんなに言って、別に鈴木選手だけに何か指示を出してはいないです。たくさん投げないとコントロールはつきません。
投げ方を覚えるには、ブルペンで毎日100球投げるよりも、バッターを立てて、バッティングピッチャーとして、打たせようと思ってストライクを投げられることがまずは基本なんです。そのうちに、どうやって打たせまいかと変化球とストレートの使い分けを、覚えていてもらわなきゃいけない。ストライクゾーンに投げる体の動きを身に付けるというのは、バッティングピッチャーでたくさん投げればいいんじゃないかとは、ピッチャーにアドバイスはしました。鈴木選手はそれをちゃんと実践してくれたんですね。
──秋季リーグでは酒井捷選手(経・4)が復帰しました
(酒井選手が)1番に座ると、塁に出てかき回してという攻撃の形ができます。慶大戦では四球から相手のミスで一気にホームまで戻ったこともありました。1番で足を使って攻撃してもらうと、チームの持ち味が出ます。
そのぶん春季リーグ戦にはいなかったので、苦しかったですね。ただ代わりの大原海輝選手(文・4)が打って、ベストナインも取ってくれて、それは良かったと思います。ベストナイン経験者といえば、センター酒井選手と、大原選手がライト。中山太陽選手(経・4)の3人がそろえば東大としては立派な外野陣なので、彼らの活躍に期待したいですね。
──先日の横浜高校戦では工藤雄大選手(文・4)が3番・一塁で出場。外野では荒井慶斗選手(文Ⅲ・2)も起用され、リーグ戦未出場の2選手がスタメンでした
工藤選手は、当たれば良い打球を出すのですが、去年まではボール球も振っていて。今年は少し球を見極められるようになって、ちょっと期待しています。オープン戦でも打席の内容も悪くないです。四球も選べています。
荒井選手も体付きが良いし、当たると飛ばす力があるので、経験のために出しました。外野は彼と酒井選手と大原選手が出ました。引き続き、レフトで誰を使うかは競争です。
──去年の柱だった4年生の皆さんは引退しました。特に二塁を守った山口真之介選手や4番・三塁での出場が多かった内田開智選手の穴は大きいと思います
新戦力では秋元諒選手(文Ⅰ・2)が、サードやセカンドを守っていて、おそらく山口選手の後釜としてセカンドになると思います。肩も強いし、足も速いし、セカンド向きかなと思っています。バッティング面も思いきりスイングするので、期待しています。
門田涼平選手(文・3)は内野の守備は卒なくやれます。この前の3月10日の國學院大學とのオープン戦では門田選手がサードで堀部康平選手(法・3)がファーストかな。最近は堀部選手は調子がいいのですが、肩が不安なので、堀部選手をファースト、門田選手をセカンド、という感じで考えています。
堀部選手は足も速いですし、長崎合宿では長打も出るなど調子が良いです。1番・酒井・堀部の1、2番も検討しています。仮にダブルプレーコースでも併殺崩れやその後の盗塁も見込めますからね。守備も捕球には心配ないので、一塁を任せられます。
━━投手では鈴木太陽選手・平田康二郎選手の穴が大きいと思います
先発投手では渡辺選手以外に、増田滉生選手(育・4)、江口直希選手(工・3)・前田理玖選手(文・3)あとは新2年の松本慎之介選手(理Ⅱ・2年)辺りが先発になってくるかなと思っています。特に江口選手・前田選手はオープン戦でも印象に残っていますね。5回ぐらいまでを2点、3点ぐらいに抑えて試合を作ってくれれば良いんですけれど、誰がそれをやれるか。みんなやれるんなら、それに越したことは無いのですけれどね。ただ、渡辺選手以外の投手はあまりリーグ戦の経験がありません。その点が一番の課題ですね。今年はなかなかピッチャーが難しいです。
ただ、どうしても4年生が卒業するのはしょうがないですね。毎年のことですし、次に出てきそうな子たちもいないわけではないのでね。先輩以上の実績を残せるポテンシャルのある選手も何人かいるので、期待したいです。
江口選手とか、前田選手とか、松本選手とか。彼らも4年になる頃には、完投できるような先発になってほしいんです。松本慎之介選手はそのくらいの高校時代の実績(國學院久我山高校時代に2022年春のセンバツに出場しベスト4)でもあります。
──松本慎之介選手は、高校時代と比べてストレートで押し切れるようになってきた、と
そうかもしれないです。ただ、六大学のバッターは、そのまっすぐと緩い球を組み合わせていかないと。これからまだまだ時間もありますし、期待しています。

──最近のオープン戦で期待以上だなという選手は
合宿に行った中ではピッチャーで言うと、武田琳太郎選手(法・3)。野球部は2年目なんですけど、大学は3年生。独特なフォームで上手に投げます。
野手では成瀬悠人選手(理Ⅰ・2)。遠投は120mで、東大ではダントツ。肩も足も良い。バッティングが課題と思っていたのですが、オープン戦では結果を残しています。成瀬選手は遊撃もやっていますが、肩とか足の良さを考えると、守備範囲の広い外野の方が相応しいと思っています。将来的には外野の後釜かなと。
━━新潟明訓高校の長谷川優選手が東大に合格して、しかも野球部に入部希望とのことです
東大の硬式野球部に入ってくる選手は、神宮でプレーするために、他のチームでは中々試合に出られなくとも、東大ならばレギュラーになれるだろうと勉強を頑張ってきました。私自身もそういう思いで東大に入りました。松本慎之介選手もそうですが、甲子園に出るようなチームから来てもらうのは良いことだと思います。誰か1人いると、先輩の姿を追ってついてきますからね。彼がパイオニアとして、後輩を連れてくる。うちにとっては良いことだと思います。長谷川選手にも期待しています。
(※東大新聞編集部注:長谷川優さんは無事に文科Ⅰ類に入学し、野球部に入部したとのことです)
──最後に、今年のリーグ戦の目標は
チーム目標で掲げた通り「勝ち点獲得」です。去年慶大戦と法大戦で勝利して2回チャンスがあったのに勝ち点を取り損なっているので、なんとか勝ち点を取りたい。そのためにはまず一つ勝たなければいけないので、とにかく一つ勝って、そしてもう一回気を引き締めて、喜ぶのではなくさらに次の勝ち点に、正面から集中していく。そういうリーグ戦にしていきたいです。エースの渡辺投手も土曜日に投げて、月曜日行く、そのつもりで調整しています。
今年度の東大野球部を率いる主将・杉浦(左)とエース・渡辺(右)(撮影・五十嵐崇人)