東大では、1年次に主に学ぶことを希望した外国語二つに基づきクラス分けが行われる。このうち初修のもの(以下、二外)の学習で、単語を調べるツールは必須だろう。紙辞書、電子辞書、ネット検索の長所・短所は何か。入学前に購入する必要性は。それぞれをメインで使う1年生3人に話を聞いた。さらに東京大学新聞社内でアンケートを実施した。(取材・渡邊詩恵奈)
○○語一列(二列):文法や読解などの基礎を固める。クラスごと開講
○○語初級(演習):○○語一列・二列を踏まえ、発音や作文、初歩的な会話練習、文法や読解の応用練習などを行う。クラスごと開講
○○語インテンシブ:意欲をもつ学生向けの初修外国語特別コース。「読む」「聴く」「書く」「話す」の四つの能力を総合的に高めることが目標
フランス語でしゃべランチ:昼休みに開催される、生徒や教員と会話しながら昼食を食べる任意参加のイベント
「焦って入手する必要なし」 紙辞書派・電子辞書派・ネット検索派に聞く辞書の選び方
3人が所属する「文III20組」に関する基本情報
・フランス語選択
・教員により辞書の選び方に関する指導あり
・10月中に文法終了、読解中心
・初級演習で持ち込み可の試験あり
──枝川龍之介さん 紙辞書(電子辞書も併用。必修+初級会話)
紙辞書は長文読解時に他のページと定義を比較できる利便性があると思います。活用表も一覧で載っているため見やすく、頻繁に引く単語はページ内の位置で記憶に定着しやすいです。ただし、動詞の活用形から原形を推測して辞書を引く必要があるので、面倒に感じる人もいるかもしれません。重さや収録してある例文の少なさも欠点です。電子辞書の方が便利に感じることもありますが、私は画面を長時間見ると疲れるので紙辞書をメインで使っています。
紙辞書の購入は授業開始後、担当教員に紙辞書の選び方についての指導を受けるまで待ちました。電子辞書は入学前に人から譲り受けたものです。高額なので、誰かに譲ってもらわなければ入手しなかったと思います。
紙辞書の使用頻度は週に3~4回で、一列の授業では電子辞書を、家で長文読解などの課題をやるときは紙辞書をというように使い分けています。必修とは別に履修しているフランス語の初級会話の授業では辞書を使用しないように指導されており、つづり字の確認以外ではほとんど利用していません。紙辞書にも発音記号は載っていますが、発音はネットで聞くようにしています。
自分は紙辞書が好きで、紙辞書の利用が二外学習のモチベーション向上に寄与しています。担当教員が中級以上のレベルとして薦めている辞書は電子辞書には収録されておらず、二外をしっかり学びたいと思っている人には紙辞書がおすすめです。また二外の授業が開始してから少なくとも1カ月間は基礎中の基礎しか扱わず、辞書は必須でないため、入学前に焦って購入する必要はないでしょう。教員によっては授業内でおすすめの辞書の紹介があるので、授業開始まで購入を待つのが良いと思います。
──釜賀健太朗さん 電子辞書(必修+インテンシブ)
調べたいと思った瞬間に手軽に情報を得られるのは電子辞書の最大の強みだと思います。音読練習の際には発音の確認もでき、活用形で引いても原形がすぐに分かることも便利です。電子辞書を紛失した際にネット検索を利用したこともありますが、信頼性のある情報が得られるという点でやはり電子辞書が頼りになると感じています。一方、紙媒体の方が記憶に残りやすいというのは常々感じることで、電子辞書だと紙辞書よりも覚えにくいのではないかと不自由に感じる場面もあります。また、ネット検索と比べると、電子辞書の方が定型表現を収録していないことが多いです。高校まで使用していた電子辞書にはフランス語が含まれていなかったため、大学入学と同時に新規購入しました。
文法の演習をする時も少しでも不安な箇所があれば即座に辞書を引くようにしており、辞書の使用は毎日の習慣となっています。インテンシブの授業では先生に聞くように指導されることが多く、授業内での辞書の活用機会はあまりありません。しゃべランチでフランス語を話すときは、辞書を使用することもありますが、知っている単語だけで作文できるように言い換えるか、周りに座っている自分よりフランス語が得意な友達に質問するよう心掛けています。さらにフランス語をより深く勉強するために、将来的には紙辞書も購入することを考えています。
電子辞書は音声機能などが充実している上、スマホとは違って勉強以外のことに気がそらされることもありません。電子辞書を積極的に利用することで、勉強モードへの切り替えがしやすくなり、集中して語学学習に取り組むことができると思います!
──細川英佳さん ネット検索(必修+インテンシブ)
荷物をできるだけ少なくしたいことと、電池切れが嫌なことがネット検索を使っている一番の理由です。電子辞書のためだけに乾電池を購入するのは大変だし、充電式のタイプもすぐ充電が切れそうで面倒に感じました。常にスマホかタブレット、パソコンは手元にあり、そのいずれでも同じサイトにアクセスできます。紙辞書や電子辞書と違い、ネットでは熟語やスラング、活用形を検索しても何らかの結果にたどり着くことが多いのも利点の一つです。内容の信頼性は懸念点ですが、それを補うために教科書に戻って活用表などを確認し、自分の知識と齟齬(そご)がないか慎重に確認するように工夫しています。
辞書の使い分けはしていませんが5月ごろ、辞書の持ち込みが許されている初級演習の試験のために紙辞書(仏和辞典)を購入しました。試験のためだけに高額の電子辞書を購入することには抵抗がありましたね。試験中でも問題文中のフランス語の意味や動詞の活用しか調べなかったため、紙辞書でも事足りていました。
ネット検索の使用頻度はほぼ毎日です。週3回の授業時と課題に取り組む時に使っています。
携帯する物を少なくしたい人やいつでも気付いた時に調べたい人、お金をかけたくない人にネット検索はおすすめです。ネット検索のみを使うのではなく、必要に応じて他のツールと併用して足りない部分を補う形が良いと思います。辞書は内容だけでなく、字の大きさやカラフルさ、活用表の一覧性などのも人によって好みが分かれるので、実際に購入する前に図書館や生協などで確認して自分と相性の良い辞書を探すのがおすすめです。また書いて覚えるのが好きなら紙辞書が、聞いて覚えるのが好きなら電子辞書が向いているでしょう。
2年次以降の使用頻度は? 二外辞書に関するアンケート
フランス語以外の二外を選択した学生や2年生以降の辞書の利用に関してはどうだろうか。東京大学新聞社の1年生10人、2年生以上11人を対象にアンケートを実施。当初想定した辞書の使い方と現時点(2年生以上の場合は1年次)の辞書の使い方の違いなどを聞いた。
【紙辞書】
紙辞書を主なツールとして用いている学生は、1年次の第二外国語の学習において毎週辞書を引く習慣があった。欠点として辞書の訳や例文を見ても文のイメージが理解できない時は自然に訳すのが難しいという点があるものの、収録語数の多さ・記憶に定着しやすい点は長所だと指摘された。重くて持ち運びがしづらいのも欠点だが、入門から中級者向けの語数がさほど多くない辞書であれば持ち運びにそれほど不便だと感じないという意見もあった。日中辞典で調べてから、中日辞典でニュアンスを確認しているという人もおり、単語のニュアンスに慎重になりながら作文したい人は日○辞典と○日辞典の両方を購入する必要がありそうだ。授業等で担当教員が紹介した辞書を購入している人も複数いるため、初回授業を待って購入するのがおすすめと言えるだろう。
【電子辞書】
電子辞書を購入した人が、1年次の第二外国語学習で辞書を利用した程度にはばらつきがあった。利点としては持ち運びの利便性や動詞を活用形で検索した時に原形と思われる単語の候補も表示されることがあった一方、ドイツ語のウムラウトのような通常のキーボードでは入力できない特殊な文字の入力法が分かりづらいというマイナス面もある。購入時には収録語数や壊れた際の保証、音声での単語読み上げ機能の有無を意識したという意見があった。補助的なサービスや機能の充実さがうかがえる一方で、授業内では紙辞書の使用が推奨されて損をした気がするという学生もいた。また、東大のアカウントでジャパンナレッジ(辞書・事典サイト)が無料使用できるので電子辞書購入の必要性はあまり高くないと感じるという回答もあった。2年次以降はほとんど利用しておらずもったいないという声もある一方、真面目に勉強するようになったから使用頻度が上がったという意見もあり、長期的な視点で検討した方が良さそうだ。
【ネット検索】
第二外国語の学習開始時点からネット検索を辞書として用いている人は1年次の第二外国語学習における辞書の使用頻度が少ない(少なかった)傾向が見られた。高校時代に使っていた電子辞書を使い続けようと考えていたが、二外のコンテンツを追加する方法が分からずネット検索にくら替えした学生もいるという。ネット検索では利用していたサイトが突然閉鎖される可能性もあり、そのリスクを考慮する必要もありそうだ。2年次以降に電子辞書などの他のツールからネット検索に移行した人もいる。必修の外国語の授業がなくなり学習をやめたために第二外国語で辞書を引く機会が減ったことや、電子辞書の利用が面倒になったことが要因としてあるようだ。