山下洋平准教授(北海道大学大学院)、森雄太郎さん(同研究院博士前期課程・研究当時)、小川浩史教授(東大大気海洋研究所)の研究グループは東太平洋を中心とした観測を行い、深海熱水域から微生物が分解できない溶存黒色炭素が供給されていることを明らかにした。成果は現地時間2月10日付の米科学雑誌『Science Advances』に掲載された。
溶存黒色炭素とは、森林火災や化石燃料燃焼に伴い形成され、炭素に富む「熱成炭素」の一つ。深海の高温・高圧環境の熱水域でも生成されるという先行研究があった。環境微生物によって分解されづらいという性質から、炭素循環において二酸化炭素の供給を抑える役割があると考えられている。海洋中では太陽光による分解や、沈降粒子と吸着し海底へ沈殿することで除去されることが知られていた。ただ、従来の調査では海洋への溶存黒色炭素の供給量が除去量よりも小さくなっており、山下准教授らは未知の供給源の存在を指摘していた。
山下准教授らは2017、19年に学術研究船「白鳳丸」による北太平洋を東西に、南太平洋を南北に横切るルートで海水試料を得た。試料の内から溶存黒色炭素を採集し「固層抽出法」で濃縮。高速液体クロマトグラフィーで分離・定量をして溶存黒色炭素の濃度や組成を評価した。
これまで溶存黒色炭素の海洋中の分布も不明であった中、研究グループは熱水の影響を受ける深海で濃度が高いことを示した。また、陸上から供給、海中で除去された分を補正し、深海熱水域由来の溶存黒色炭素の濃度を見積もることに成功。マグマ起源の熱水の指標である³He濃度との相関が得られ、深海熱水域で溶存黒色炭素が海洋中に供給されていることを世界で初めて明らかにした。
今回得られた知見は炭素循環における溶存有機物の役割を理解する上で重要だ。今後は、より正確な溶存黒色炭素濃度の見積りのため、深海熱水域の影響を強く受ける熱水プルームでの観測などが望まれる。海洋に存在する微生物に分解できない溶存有機物の量は大気中の二酸化炭素量に匹敵する一方で、起源や生成メカニズムは不明な点が多く、これらの解明に役立つことも期待される。