キャンパスライフ

2025年3月16日

第二外国語はどれを選ぶ?~中国語・ロシア語・フランス語・スペイン語編~

 

 合格を勝ち取った新入生の多くが最初に行う手続きの一つに、初修外国語の選択がある。少なくとも1年間は必修で学ぶ科目のため、慎重に選択する必要がある。英語の成績が優秀な新入生には、英語・日本語を含む3カ国語を使いこなす人材を育成する「トライリンガル・プログラム(TLP)」(2025年度からはプログラムの履修条件・修了要件などの変更が見込まれている)の受講資格が与えられる。どの外国語を選ぶにしても、その外国語が使用されている新たな世界に触れることになるだろう。授業を担当した経験を持つ教員と実際に履修した学生に、それぞれが持つ魅力や特徴を寄稿してもらった。(海外研修などのプログラムには変更の可能性があります)(構成・山本桃歌)

 

中国語 ~日本語話者にとって親しみやすく、学びやすい言語~

读万卷书,行万里路。

万巻の書を読み、万里の路を行く

 

 中国語は英語と同じように「動詞+目的語」の順で発話します。だから英語と文法が似ていると言われますがそれは完全な誤解です。そもそも類似性なら大量の漢字語彙(ごい)を取り入れて成り立っている日本語との類似性こそ真っ先に挙げられるべきなのに、なぜ6年以上も苦しんで勉強してきた難しい英語とわざわざ比べる必要があるのでしょうか。幼いころから日本語を使って成長してきた皆さんにとって、中国語は漢字を共有しているというただ1点のみを取っても、圧倒的に親しみやすく学びやすい言語なのです。そして、東大で中国語を学べば、実は中国語における文生成のメカニズムが日本語話者にとって極めてなじみやすいものであることも体得できるはずです。発音が難しいという声もありますが、それも実態とは異なります。中国には日本の約26倍もある広い国土に約14億もの人が住んでいますし、中国語を母語としない少数民族もそこには含まれます。東南アジアなどにも華人が多く暮らしています。したがって、中国語の発音には途方もなく多様な地域差が存在しています。中国語の発音が難しいのではなく、標準音を身につけるのが難しいのであって、中国語は本来音の多様な差異に対して無限に寛容なポリフォニーの世界なのです。英語に次いで重要な言語を簡単に学べる皆さんが中国語を選択しない理由はないのです。上の1文はどうですか?見慣れない字が二つだけ、あとはすぐにわかりますよね。

(石井剛・総合文化研究科教授)

 

履修生の声

 今後日本で最も有用性があり、また日本語の漢字を知っている分習得しやすいだろうという自分の先入観から中国語を選択しました。しかしその予想に反して、微妙な違いがある簡体字や日本語の読みとは全く異なる発音をピンインという記号でたくさん覚えなければならず、そこが一番大変なポイントです。ただ、今や観光スポットを中心に日本のあらゆる場所に付されている中国語をある程度読めるようになると面白く、やりがいを感じやすいと思います。

(文Ⅲ・2年)

 

ロシア語 ~壁の先に待つ広大な空間と歴史にアクセス~

Нет войне!

戦争に否(ノー)!
(2022年2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵略への抗議として使われるスローガン)

 

 ロシア抜きに世界は語れない時代となった今、ロシア語の知識は今後長期にわたり世界の動きを理解するための重要な手がかりとなります。一方、ロシア語が日本のすぐ隣に暮らす人々の重要な言葉であることは今後も変わりません。さらに、ロシア語が築いてきた文化、芸術の強きょうじん靭な力も圧制やプロパガンダに損なわれるものではありません。それどころか、革命に全体主義、国家崩壊、戦争という激動を生きた人々のメッセージに直接向き合うのを可能にするロシア語の知識は、一生を通じての財産となるはずです。

 ロシア語が難しいかどうかについては学習者の間でも諸説あります。ただ「文字が難しい」というイメージは必要以上に強調されています。あの文字(キリル文字)には英語等でおなじみのラテン文字と共通する文字も多く、全てを一から覚える苦労はありません。また冠詞がない、名詞の性の多くは語尾で判別可能、語順が比較的自由、など英語や欧州の他の言語より楽な面もあります。覚えるべき文法事項が初めのほうに多くて集中力を要するのは確かですが、その分半ば強制的にモチベーションが与えられる「授業」という場を利用できる学生ならではのチャンスを生かす意義が大きい言語でもあります。

 前期教養課程では文法や会話、作文の授業を通して基礎を固めます。特にTLPでは高度な運用能力が育成され、2年目にはメディア記事や文学作品の読解も可能になります。またロシア語を習得すると別のスラヴ系言語を学ぶのが容易になるので、ポーランド語やセルビア・クロアチア語の授業を取ってみるのもよいでしょう。

(鳥山祐介・総合文化研究科教授)

 

履修生の声

 ローマ字と混同しやすいキリル文字のアルファベットの習得と、主語の性や数、文中の格などに応じて変化する単語の正確な運用が大変です。しかし、ロジカルに進む作文プロセスと完成した文の美しい韻律は学習者を楽しませてくれます。
 昨今の情勢で留学などが難しいロシア語圏ですが、言語学習を通してその歴史や文化に触れてみませんか。

(文・3年)

 

フランス語 ~初修外国語、人生の選択~

Choisir, c’est vieillir.

選択することは、老いること。(フィリップ・スーポー)

 

 多くの学生が、入学後の自分のやりたい勉強や今後のキャリアデザインにとって、2番目の外国語の選択はとくに重要ではないと思っていることでしょう。しかしそれは、自分の人生は自分で決められる、と思いこんでいる人です。実際に生きてみると、そんなことはまったくありません。人生を支配しているのは偶然と運です。そして、偶然も運もいわば何気ない選択がもたらすものなのです。

 

 フランス語を選んだことが人生に何をもたらすかは個々のケースによりますが、フランス語を選んだことで得られるメリットをここではあえて列挙してみます。歴史的経緯からフランス語の単語はかなりの数、英語の中に入っているため、英語学習者はすでにフランス語の語彙(ごい)をある程度持っているといえます。ゼロからの出発ではないのでモチベーションが保てる上に、英語と併せて学習することで、両言語の能力を効率よくあげられます。また、フランス語の基礎をやっておけばスペイン語やイタリア語の学習も容易になりますし、仮にフランス語を途中で挫折したとしてもスペイン語やイタリア語への変更はスムーズに行えます。カナダ(ケベック)、スイス、ベルギー、セネガル、コートジボワールなど、フランス語を使う国はたくさんあり、英語とともにフランス語がいくらかできれば文化交流の範囲やビジネスチャンスはずいぶん広がるはずです。留学に関して言えば、英語圏とは違って、フランスの大学の授業料は登録料として年間数万円かかるのみで、かなりお得です。皆さんにどんな人生が待っているのかは誰も知りません。フランス語を選択したがために、15年後のアフリカで多国籍企業のCEOになっているかもしれませんし、ファッション・ジャーナリストとしてパリで暮らしているかもしれないのです。ひとつひとつの選択を、自分のものにしていきましょう。

(桑田光平・総合文化研究科教授)

 

履修生の声

 国連の公用語として用いられていることやフランスの文化、歴史に興味があったことを理由に選択しました。発音、代名詞による置き換え、名詞や形容詞が持つ性の概念など英語と違う部分で学習に苦労しました。ただ英語と似た単語も多いため、文法事項をきちんと学習すればあらゆることを表現できるようになります。ネイティブの先生と楽しく会話することもできるようになります。フランスのことに少しでも興味のある人はぜひ選択してみてください。

(文Ⅲ・2年)

 

スペイン語 ~めくるめく世界への誘い~

Esto hay que tomarlo sin ningún apuro.

焦っちゃだめだ。じっくりとだ。
(ルイス・フォンシ、ダディー・ヤンキー『デスパシート』より)

 

 スペイン語は、スペインに加えて、メキシコ、コロンビア、ぺルー、アルゼンチンなどのラテンアメリカ諸国でも使用されています。米国にもヒスパニックやラティーノと呼ばれる6000万人(総人口の20%)のスペイン語話者がいると言われており、スペイン語の総母語話者数は5億人を数えます。日本においてスペイン語圏の認知度は低いかもしれませんが、文学、歴史、社会、文化、自然、宗教、建築、音楽、美術、スポーツなどなど、めくるめく世界が拡がっています。スペイン語はその世界へのパスポートです。

 

 スペイン語の発音は比較的簡単です。日本語と同じく母音は五つで、発音が難しい子音もわずかです。文字と発音の対応も規則的です。その反面、文法の習得には大きな努力を要します。その筆頭は動詞の活用です。何と、スペイン語では時制や主語に応じて一つの動詞が78変化(!)するのです。例えば、英語には三単現のsがありますが、スペイン語には一単現のoや二単現のas/esや三複現のan/enのようなものが多数あるのです。でも、安心してください、必ず習得できますよ。

 

 初修スペイン語の授業は、文法・講読・演習(理科生は選択)の三本柱からなります。動詞の活用を中心に覚えることが膨大なので、毎回の小テストを通じて知識の定着を図ります。しっかりと学習すれば、1年後には辞書を片手に本やニュースが読めるようになっているでしょう。必修科目だけでは物足りない方には、中級・上級・インテンシヴコースやTLPの授業も用意しています。

(川崎義史・総合文化研究科准教授)

 

履修生の声

 スペイン語は発音や文法が比較的易しいと言われており、1年でより深く学べると考え履修しました。動詞の活用が多く、暗記量が多いことや、主語、述語の順番が明確でないことに由来する読解の難しさには苦労しました。しかし、単語は英語と共通するものも多く、言語同士のつながりを感じられるという面白さもあります。また、性数一致が行われ、単語同士の語尾がそろうことも多いため、リズム感が良く、話すのも楽しい言語だと思います。

(文Ⅲ・2年)

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