自主映画を作るためにクラウドファンディングを行い、824,000円の支援を集めた東大生がいる。文学部美術史コースを卒業し、現在コロンビア大学大学院フィルムスクールに留学している後藤美波さんだ。
後藤さんは、「自主映画『父は父である』を制作し、海外映画祭に出品したい!」と題したクラウドファンディングで、映画制作費と映画祭への出品費を募集し、43人の支援者から80万円を越える資金を集めた。クラウドファンディングの成功から9ヶ月が過ぎた今、後藤さんにクラウドファンディング成功の秘訣と、その経験が現在の学びにどう活かされているかを聞いた。
(企画の詳細についてはこちら:東大生のクラウドファンディング。海外映画祭への出品を目指して)
――クラウドファンディングの成功、おめでとうございます。
ありがとうございます! 映画の趣旨に賛同して、応援してくれた皆様のおかげで、なんとか目標金額を達成できました。
――映画製作は順調ですか?
はい。完成一歩手前といったところです。ラフカットを完成させた上で作曲家にサウンドトラックを作曲してもらいました。現在、監督が最終編集をしています。
撮影自体は、クラウドファンディングを行った2015年8月に終えたのですが、その後の作業に約半年かかってしまいました。私がアメリカに留学していることもあって、日米間で監督と顔が見えないまま、映画を作り上げていくのは、思っていたよりも大変なプロセスでした。
――クラウドファンディング成功の秘訣は何だったと思いますか?
友人や家族、先輩方が応援してくださったからというのが一番大きいのですが……。その他に重要だなと思った秘訣は3点ほどでしょうか。
・Facebook、SNSでの拡散
これは基本ですが、もっと活用ができたのではないかと少し悔しく思っています。私はFacebookに普段あまり投稿をしないので、「クラウドファンディングをやる時にだけ投稿を何度もするとしつこく思われて逆効果では……」と思って、最初は恐る恐る投稿していたんです。でも先輩や友人には、「多少うるさいくらいでもいいから積極的に投稿しなよ!」と言われて、キャストやクルーの皆さんにも拡散をお願いしました。
その結果、私の友人だけでなく、キャスト・クルーのフォロワーさんやお知り合いが拡散してくれて…といった形で、私は存じ上げない方や、思いもよらなかった知り合いの方が 映画プロジェクトを応援してくださったこともありました。ただ、監督がSNSを全くやっていない人だったので、それは残念だったなあと思います。
・ウェブメディアへの掲載や拡散
クラウドファンディングをしている時に、東大新聞オンラインで掲載してもらったインタビュー記事は反響が大きかったです。記事を読んだことをきっかけに、サポーターとして参加してくださった方も何人かいらっしゃいました。
また、それ以外にも、映画に出演した女優さんがMCをしているウェブラジオがあったので、そちらにお邪魔して映画とクラウドファンディングの宣伝をさせていただきました。話すのが得意なタイプではないのでかなり緊張しましたが、私の力だけではリーチできない方々にプロジェクトを知っていただくことができたと思っています。
・進行状況の更新
クラウドファンディングのウェブサイトには、ブログ形式でプロジェクトの進行状況等を書き込める機能があるのですが、できるだけ多く更新するようにしました。そのおかげでSNSにも書き込みやすくなりますし、プロジェクトがどれだけ進んだのか文章化しながら客観的に確認することができて、自分の励みにもなりました。
――やはり地道な宣伝が重要なんですね。クラウドファンディングの出資者へのリターン(支援者が出資額に応じて得ることのできる特典)に、「東大生のスタッフやキャストによる何でも相談」というのがありましたよね。とてもユニークだと思ったんですが、評価はどうでしたか?
残念ながら「東大生のスタッフやキャストの何でも相談」を目当てに出資してくださった方はいなかったように思います。と言うのも、こちらのリターンを組み込んだ券を購入してくださった方はどなたも私の親類や先輩、友人で、「何でも相談」を申し込む必要のない方ばかりだったので(苦笑)。
一番好評だったリターンは「映画エンドロールへのお名前掲載」だったと思います。映画完成後には、サポートしてくださった皆様のお名前をエンドロールに載せさせていただきます。
――後藤さんは現在、コロンビア大学大学院フィルムスクールに留学していますが、クラウドファンディングでの経験は今の学びにどのように影響していますか?
クラウドファンディング、そしてその映画制作を経験したおかげで、授業で習うことが腑に落ちるということが何度もありました。
今それなりの学習を経た上で反省してみると、「映画製作では絶対にやってはいけない」と習うようなことを、昨年の映画制作ではいくつも実践してしまっていました。例えば、「未成年を安易にキャストしてはいけない」ということ。幼い子役さんは可愛いし、画面でも映えるのですが、やはり演技をつけるという面では難しく、スケジュール通りにはいかないことが多い。この映画のプロダクションでは、多い時には子役を含んで1日に5人〜6人のキャストを撮影することがあったのですが、その際の進行はかなりめちゃくちゃでした。
「部屋の乱れは心の乱れ」と昔から言うように、進行の乱れは、作品の乱れにつながります。余裕のあるスケジュールを組んで、子役の俳優さんたちと時間をかけて演技に取り組むことができればもっと納得のいく作品にできたのではないか…と、悔しく思う点もあります。
また、例えばキャストやクルーの休憩場所を用意する、リフレッシュメントを用意するといった基本的なことになかなか気が回らないこともありました。食事で言えば、アレルギーやベジタリアンであるかどうかといったことでも、用意するお弁当は大きく変わってきます。
そういった、画面には現れないプロダクションの様々な裏仕事を、自分で考えながら失敗して学んだことで、現在のフィルムスクールでの学びがより自分のものになっていると思っています。本製作を通して経験値を上げることが出来て本当に良かったと思っています。
――ありがとうございました。映画の完成を楽しみにしています。
ありがとうございます!
(取材・文 須田英太郎)