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2023年6月5日

建築学生による五月祭企画をレポート!

 

 工学部1号館4階にあるデジタルファブリケーション(デジファブ)施設T-BOXで、建築学科の学生たちが五月祭で展示企画を行った。作品展示、ワークショップに加えて世界的建築家の伊東豊雄氏、デザイナーの野老(ところ)朝雄氏らを招き、トークセッションも開催された。今回は、トークセッションの模様や展示についてレポートする。(取材・佐藤万由子、安部道裕)

 

世界的建築家が語る「エゴと柔軟性」

 

 13日のセッションでは、野老氏と池田靖史特任教授(東大大学院工学系研究科)の対談が行われた。野老氏は手を使ってデザインをつくることにこだわりを持つ一方、池田特任教授はデジタル技術を駆使した研究を行っている。対照的とも言える「つくる手段」をテーマに、今回の議論は交わされた。

 

野老氏(左)と池田特任教授(右)
野老氏(左)と池田特任教授(撮影・佐藤万由子)

 

 学生から「手作業と機械作業の違いは作るものにエラーが生じるか否か、ではないか」という問いが上がった。池田特任教授は、コンピューターが人間と対をなすものとして語られがちな現状を踏まえた上で「人間の能力を、より高精度でエラーが少ない形に拡張できるアイテムの一つだと考えている」と話した。一方で、ひたすらコンピューターの作業を見張る仕事と、ノミで削る仕事では圧倒的に後者に人気があるとし、エラーが起きるたびに「今度はこうしよう」と工夫できる楽しさが手作業にはある、と評価した。

 

 また野老氏は人工知能の性能の高さは目を見張るほどで、「良い」写真やデザインの制作もうまい、と話す一方で、成果物が「皆同じに見える」ことの弊害も指摘した。「つくる」行為の特別性も指摘し、パフォーマンスとしての創作にも面白さがあると話した。トークセッション終了後には、参加者が野老氏の作品を手に取って眺めたり、組み合わせたりして楽しむ様子が見られた。

 

野老氏の作品。「つなげる」をテーマに創作活動をしている
野老氏の作品。「つなげる」をテーマに創作活動をしている(撮影・佐藤万由子)

 

 14日のセッションでは、建築家の伊東氏と佐藤淳准教授(東大大学院新領域創成科学研究科)の対談が行われた。

 

 伊東氏は明治維新後の近代化によって「日本の建築は自然から乖離(かいり)していった」とし、その壊れた関係を修復できる建築とは何だろう、と考え続けていると述べた。マンションなど、壁でくっきりと囲まれ均質化された場にいることで、動物としての本来の感覚を失っていくのではないか、という懸念も示した。佐藤准教授は「文明の発達は窮屈な社会にもつながる」とした上で、現状を鑑みると、自然を再現するには技術を駆使することが最適解だと感じると述べた。具体的には、木漏れ日を数学的に分析し再現することで、森の中のような空間を表現できないか研究しているという。

 

佐藤准教授(左)と伊東氏(右)
佐藤准教授(左)と伊東氏(撮影・佐藤万由子)

 

 話題は建築界の柔軟性にも及んだ。伊東氏が主宰する子ども塾や、佐藤准教授の行ったワークショップでは、子どもの発想力が非常に豊かで驚かされるのだという。伊東氏は合計点で競われる建築のコンペティションには、感覚を尊重する姿勢が欠けているように感じると話した。合理的な良さだけでなく「なんとなく良い」という感性を大事にできる社会には良さがあると語った。

 

 また、学生から「建築は建築家のエゴであって良いのか」という鋭い質問が見られた。伊東氏は自身を「結構エゴイストだと思う」と評し、建築には正解がない分、自らのロマンを信じて活動する必要があると話した。一方で、その姿勢は行き過ぎたエゴにつながりかねないとし、建築家は社会に何を還元できるか考えることが重要だと指摘した。

 

 「エゴイストでありながら柔軟でなければならない」。建築家を志す学生のみならず、現代社会に生きる一人ひとりの心に深く刺さる言葉だった。

 

軽やかさ際立つ展示

 

 大小八つの作品がT-Box、多目的演習室に並んだ。その中で目玉として展示されたのは「Fazzy Nest」と「Stand and Sway」だ。

 

 「Fazzy Nest」は、複雑な曲面を学生たちの考案した「4つ又テンセグリティ構造」を用いて実現させた作品だ。テンセグリティとは引っ張る力がかかる部材をひもなどに置き換えた構造のこと。浮遊感のある見た目が特徴で、本作品も軽快で不思議な空間を演出した。

 

T-BOXの中央に展示された「Fazzy Nest」
T-BOXの中央に展示された「Fazzy Nest」(撮影・佐藤万由子)

 

 構造としては非常にチャレンジングな作品だったと責任者の金子照由さん(工・4年)は話す。模型製作ではうまくいったが、実寸大でつくる段階では、五月祭当日までで計4回も失敗し「正直だめかと思いました」。幾度の失敗で心身ともに疲れ切っていたが、部材寸法の変更や補強と「気合い」で何とか乗り越え、前日の設営で完成させることができた。五月祭当日ではスタッフがぶつかってしまうなどのトラブルもあり、支えが必要になってしまったが「困難に打ち勝って自分たちの設計したものを実際に立てられたことは、何よりもうれしいことです」と金子さんは振り返った。

 

 「Stand and Sway」も、学生たちの考えた「たわみ柔構造」を用いた作品だ。たわみ柔構造は、あらかじめ曲げた細い部材を組み合わせてつくった構造で、自立しながらもゆらゆらと揺れ動く。本作品はお客さんも自由に触って揺らすことができる。設計した森野僚太(工・4年)さんは「展示にありがちな『お手を触れないでください』というものではなく、手で揺らして楽しめることを目指した作品です」

 

多目的演習室に置かれた「Stand and Sway」(撮影・安部道裕)

 

 本作品の展示された多目的演習室はトークセッションの会場としても使用された。この作品を見た伊東氏は、設計した森野さんに「すばらしいですね。ぜひ建築構造の設計者になってください」と期待の言葉を送った。

 

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