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2021年4月27日

「国産ワクチンは必須」 連載・東大のワクチン開発の現状を追う 番外編①阪大寄附講座教授に聞く国産ワクチンの必要性

 

 新型コロナウイルス(COIVDー19)の感染拡大開始から約1年が経過し、各国でワクチン開発競争が激化。ファイザー社(米国)やアストラゼネカ社(英国)、シノファーム(中国)などは既にワクチン開発に成功している。一方で、日本や東大のワクチン開発の現状は。連載番外編の今回は、大阪大学寄附講座教授で、4月9日現在COVIDー19の第2/3相臨床試験を行っているアンジェスの創始者でもある森下竜一寄附講座教授に取材。変異株に対するワクチンの効果や、国産ワクチンの必要性などについて話を聞いた。

(取材・山﨑聖乃)

 

ワクチン開発、変異株に対応できる?

 

 森下寄附講座教授らが現在開発しているワクチンはDNAワクチンという新型の遺伝子ワクチンの一種だ。なぜ今回新型のワクチンが登場したのか。これまで多くの感染症において実績があるワクチンとして、インフルエンザワクチンに代表される不活化ウイルスワクチンなどが挙げられる。不活化ワクチンはウイルス自体を不活化して作製するワクチンである。しかし、未知のウイルスに対しては不活性化の方法や効率的な増殖方法がなかなか分からなかったという。また、ウイルスの慎重な取り扱いが求められるため、不活化ワクチンは作製に時間を要する。

 

 そこでいち早く実用化されたのが、ウイルスの遺伝子情報を使った遺伝子ワクチンである。ファイザー社、モデルナ社(米国)のmRNAワクチンやアストラゼネカ社のウイルスベクターワクチンなどだ。森下寄附講座教授らが開発するDNAワクチンもmRNAワクチンと同じ核酸ワクチンで、両者の仕組みは似ている。違いの一つは、DNAワクチンの方がmRNAワクチンより抗体ができるまでに少し時間がかかること。DNAから転写によりRNAが合成され、さらにRNAが翻訳されることにより新型コロナウイルスの一部のタンパク質ができるのがその理由だ。一方でmRNAワクチンは、不安定なRNAを安定化させる役割を持つ脂質の膜に含まれる成分が、アナフィラキシーや頭痛、発熱の原因になっているのではないかといわれている。

 

 遺伝子ワクチンが初めて実用化されたものだからといって必要以上に怖がらなくても良いと森下寄附講座教授は語る。遺伝子ワクチンは、COVIDー19に関しては流行り始めてから約1年という短い期間で実用化されたが、エボラ出血熱など他の感染症では長年研究されている。「多くの患者の方のデータがあるため予期せぬ副反応が出るのは想定しづらいです」。一部でウイルスの遺伝子情報が人のゲノムに入ることが懸念されているが、そのようなことは基本的に起きないことがこれまでの研究で分かっていると森下寄附講座教授は話す。DNAワクチンは30年以上、mRNAワクチンは20年以上の歴史があり、ウイルスベクターワクチンも30年以上研究されているのだ。

 

(図)各種ワクチンの仕組み(森下寄附講座教授提供)

 

 これらのワクチンは変異株のウイルスに対して効果があるのか。4月9日現在、日本ではイギリス型やブラジル型のコロナウイルスが流行し始めている。イギリス型に関しては、感染力が約1.4倍から1.8倍になっていて、死亡率も若干高いのではないかと危惧されている。しかし、ファイザー社やモデルナ社のワクチンはイギリス型に対して効果があるといわれているため、ワクチンの接種が進めばイギリス型は収束する可能性が高い。一方、ブラジル型に感染すると中和抗体の量が落ちるといわれている。ワクチンを接種しても抗体が生産される量には個人差があるため、抗体が生産される量が少ない人において感染の危険性がある。ブラジル型が流行の中心になると、ワクチンを接種しても新型コロナウイルスに感染する可能性が高い。実際、アストラゼネカ社のワクチンは、ブラジル型に似ている南アフリカ型に対して有効性が限定的にしか示されず、接種が一時中止された。                

 

 ウイルスの変異株とはウイルスの遺伝子情報が変異したものであるため、変異株に対応した新しいワクチンを作ることは当然可能だ。ファイザー社やモデルナ社も既に着手しているが、森下寄附講座教授らも変異株に対応したワクチンを作り始めている。日本の場合は、既存型、新しいイギリス型、ブラジル型のウイルスが流行していて、三つのウイルスに対応しなければならない。森下寄附講座教授らは、セミ・ユニバーサルワクチンと呼んでいるこれらに効果のあるワクチンを開発していて、実験の段階まで進んでいる。「DNAワクチン、mRNAワクチン共に個々の変異株に対応するワクチンを作ることは簡単ですが、同時にいろいろな種類のウイルスが流行すると、どのワクチンを接種すれば良いのか判断することが難しくなります」

 

「ワクチンを供給する側に回らなければ」

 

 今後、日本型に変異したウイルスが発生した場合のことも考えるべきだと森下寄附講座教授は話す。「日本型のウイルスが国内で流行しても、海外の研究開発チームがすぐにワクチンを開発してくれるとは限りません」。その時に自分たちで解決する手段を持っておかないと大変な事態に陥る。日本では今までワクチンは公衆衛生の一環として捉えられてきたが、今回のようなパンデミック下ではワクチンは安全保障の一環として捉えられなければならない。安全保障上、国内で研究開発、治験、生産の全てを行う「純国産」ワクチンを開発する必要があると森下寄附講座教授は強調する。

 

 来年以降、ワクチンの供給体制が窮迫する可能性があることも、日本産ワクチンが必要な理由の一つだ。ウイルスベクターワクチンでは一般的にアデノウイルスという風邪のウイルスを、新型コロナウイルスの遺伝子情報を運ぶためのベクターとして使うが、一度接種すると体内でアデノウイルスに対する抗体ができる。1回目にウイルスベクターワクチンを接種したグループが、2回目以降は他の種類のワクチン接種が必要になる状況が想定される。

 

 さらに、自国だけでなく世界にも目を向けなければならないと森下寄附講座教授は話す。年内にワクチン接種ができるのは、世界中で30億人程度の見通しだという。1年に1回以上の頻度でワクチン接種が必要な可能性が高いため、日本でも来年、2回目のワクチン接種を進めなければならない。しかし、経済力があるからという理由だけでワクチンを購入してよいのかという問題が浮上してくる。発展途上国の多くの人々が一度もワクチンを接種していない状況で、経済力のある国の人が2回目の接種をすることが人道上許されるのか。「日本はワクチンを供給する側に回らなければならない。それを世界に期待されていると思います」

 

森下竜一(もりした・りゅういち)寄附講座教授(大阪大学) 91年大阪大学大学院博士課程修了。医学博士。大阪大学助教授(当時)などを経て、03年より現職。99年に株式会社メドジーン(現・アンジェス株式会社)を設立。

 

 

【連載・東大のワクチン開発の現状を追う】

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なぜ日本はワクチン開発に出遅れたのか? 連載・東大のワクチン開発の現状を追う①mRNAワクチン開発と研究環境

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