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2023年1月22日

【コロナと試験@東大】②不正行為疑惑も? オンライン試験の功罪を問う

 

 活動が対面主体に戻りつつある東大。しかしコロナ禍前に回帰しているわけではなく、オンラインの方が高い教育効果が見込まれる授業や成績評価に関わる小テスト、定期試験の一部は今もオンラインで実施されている。学生も教員も自宅でできるため、体調が悪くても試験を実施・受験することが可能だ。一方で、プライバシーの確保や不正行為の防止などの難しさがある。「コロナと試験」を考える企画第2弾。(取材・原亘太朗)

 

公平性とプライバシーに難か

 

 2020年に新型コロナウイルスの流行が始まると、東大は全学的にオンライン授業を導入するとともに試験をオンラインで実施することで、パンデミック下でも教育を継続することに成功した。

 

 20年Sセメスターの定期試験時には、教養学部が公平な試験を実施するためのガイドライン「オンライン定期試験クイックガイド」を学生向けに公表した。「試験前後で学生証・UTAS学生情報画面のプリントアウト・入試の受験票のいずれかを提示」「パソコン画面・手元・横顔の3点を常時モニタリング、科目により手書き答案の画像送信(提示された三つの方式のうちの一例)」などを求めた(写真)

 

クイックガイドA方式に示された受験方法。①パソコン画面でのアプリやタブの状態②手の動き③横顔の3点を写す必要がある

 

 オンライン試験の導入については20年当初から是非に関する議論があった。公平性の点で対面試験と同等の条件で行うことが難しいこと、教養学部の試験で行ったようにカメラをオンにしてオンライン試験を受けるのではプライバシーの問題があることが問題として挙がり、教養学部は成績が進学選択に使用されることも踏まえ、学びの成果を公平・公正に評価するために適切として20年度のA2ターム・Aセメスターの本試験から原則として対面試験を再開していた。22年に入り、東大はオンライン主体の授業体制から対面主体の授業体制へと移行をする中でパンデミック以前の姿への完全な回帰はせずに、オンラインの方が教育効果が高いと見込まれる授業はオンラインで開講し、成績評価に用いられる小テストや定期試験の一部もオンラインで実施するなど、対面授業にオンラインの要素を吸収した新たな授業形態の確立を進めてきた。

 

間違え方含め酷似した答案も

 

 東京大学新聞社は21年度と22年度のS1タームに経済学部で開講された「日本経済I」のオンライン定期試験で受講者の一部に不正行為疑惑があったという情報を得た。同授業を非常勤講師として担当した原田喜美枝教授(中央大学)に話を聞いた。大講義室で授業が行われる本務校では不正が起き得ることを想定し、不正が起きないよう対策するという。

 

 「日本経済I」での不正行為疑惑について「東大では(不正行為をする人が)いないと思っていたので残念でした。オンライン試験だったからでしょうか」と話す。同授業では複数回にわたって試験を行い、それらの点数を総合して成績を決めた。試験は文章問題を中心としたテイク・ホーム型。問題発表から3日以内に他人と協力せずに答案を作成し、東大の学習管理システムITC-LMSにアップロードする形式だった。経済学部は22年度のSセメスターまで、原則として試験をオンラインで実施するよう教員に求めていた。不正疑惑は採点を担当していたティーチング・アシスタント(TA)が似通った解答に疑いを抱いたことを発端に浮上した。相談を持ちかけてきたTAと共に原田教授が確認をし、複数回の試験にわたって間違え方を含めて答案が酷似した学生を特定した上で、事実関係の確認のためにそれぞれの学生に連絡をしたという。中には試験勉強に使った教材を子細に説明することで不正行為を行っていないことを示した学生もいたが、その他の学生からは返信がなかった。

 

 

 最終的に21年度と22年度のそれぞれで、履修者およそ100人のうち、連絡を返さなかった10人程度の学生の成績を疑わしさの度合いに応じて調整した。不正の対策としては初回の授業や各授業の中、さらにITC-LMS上で「協力しないで、自力で問題を解かなければいけない」というアナウンスを繰り返した。そのことで、不正と思われる解答は減少したが、完全には無くならなかったという。

 

「日本経済I」の履修者全員に送られた不正疑惑に関する通知文(画像は履修者による提供)

 

 20年度にオンライン試験の方法を詳しく定めた教養学部とは異なり、経済学部としてはオンライン試験を行う上での厳格なガイドラインはなかったという。オンライン試験のメリットについて「自動採点ができるような試験だと少なくとも採点する側の負担が軽減されます。複数の試験の結果を合わせるといった作業も一瞬でできます。このようにITを利用したオンライン試験は、不正を排除できないという観点を置いておいて、その他のところで効率的です」と話す原田教授。「しかし、オンラインだと(不正を)やってはいけないという意識が下がってしまうのかもしれないですね」

 

 進学選択や留学、大学院進学といったさまざまな局面で用いられる成績評価には一定の厳格性が必要だ。メリットを認識しつつも、オンライン形式の試験・小テストを成績評価に使っていく上では慎重な検討が求められる。

 

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