2020年に世界を震撼させた新型コロナウイルス感染症は、医療分野だけでなく教育や情報テクノロジーなどさまざまな分野で問題を浮き彫りにした。21年にはどのような発展が見込まれ、我々はどのように対応していくべきなのだろうか。都市工学分野の研究者に聞いた。
(取材 山崎聖乃)
人を巻き込むまちづくりを
羽藤英二教授(東京大学大学院工学系研究科)
大学生に焦点を当ててまちづくりを考えると、キャンパスという空間の重要性が改めて分かります。現在、東大のキャンパスは、コロナ禍の影響で学外者・学生の入構が共に制限されています。3年生以上の学生はコロナ禍の前に同級生や先輩と関係を築いている場合が多いため、人間関係を大学のキャンパスに依存しない形で展開できています。一方、1、2年生の交流の起点となるはずだったキャンパスでの活動が制限されている影響は学びの初期段階で大きいと感じます。
キャンパスの役割は学生同士の交流の拠点となることだけではありません。長い期間先輩たちが勉強してきた伝統の教室で、現在の学生たちが今の問題に取り組むことができるのもキャンパスの良さです。戦時下においてさえ学びの場であり続けた教室で、共に学ぶことこそがキャンパスだけが持っている正統な場所性です。オンライン空間や他の場所が代替することは決してできないと思います。人間性や知識の根幹を作るような体験をするには、リアルなキャンパスで学ぶ機会は必須と考えています。
しかし、大学のキャンパスが従来のように機能するのが難しいのが現状です。キャンパスでの学びの他に私たちが重視しているのは現場との対話です。授業では実際に問題の起こっている地方の都市について、学生と一緒にオンライン上で議論をする機会を設けています。困っている現地の人と接することや自分も当事者であると認識を持つことによって、熱量のある姿勢や内発的な動機が生まれているように思います。
一方、受動的な人々にどのように活動の場を提供するのかは、現実のまちづくりで重要な論点です。カフェなどにワーケーションスペースを充実させても、能動的に人との交流を求めない人はあまり利用しないでしょう。そのような人々を巻き込むまちづくりの例として、私も関わっている愛媛県の松山市駅周辺の花園町通りのまちづくりがあります。アーバンデザインセンター周辺の道路を使って、路上でディスタンシングを保ちながらプラネタリウムや読書会、土のうでプールを作るなどのさまざまなプログラムを開催しています。路上で行っているので誰でもプログラムを見たり、参加したりすることができます。家に閉じこもりがちな人をまちに連れ出すには別の仕掛けも必要ですが、まちにいる全ての人々から見える路上は今後まちづくりにおいて重要な舞台装置になっていくでしょう。