東大生協本郷書籍部と駒場書籍部の提供による2023年8月〜24年7月の1年間の書籍の売り上げデータを、ジャンル別にランキング形式で掲載する。東大関連の書籍や哲学系の書籍が多く見られる結果となった。気になったものはぜひ手にとって読んでみてほしい。(以下の表は提供データを基に作成したため同じ書籍が違うジャンルに区分されている場合がある)(構成・岡嶋美杜)
【総合】
駒場では、高校数学の定番参考書『チャート式』の大学数学版である『チャート式シリーズ 大学教養 線形代数』『チャート式シリーズ 大学教養 微分積分』(いずれも数研出版)が1位と2位に。本郷では、今年文庫化され話題になった『百年の孤独』(新潮文庫)が1位となった。1967年に刊行されたこの作品は世界的ベストセラーとなり、20世紀文学の傑作ともいわれている。著者のガブリエル・ガルシア=マルケスは1982年にノーベル文学賞を受賞。蜃気楼(しんきろう。光が空気中で屈折することにより、離れた景色が実際とは違う形に見える現象)の村「マコンド」を開墾しながら生きる孤独な一族の百年間の物語が描かれている。
國分功一郎教授(東大大学院総合文化研究科)による著作『暇と退屈の倫理学』(新潮文庫)は駒場・本郷ともに5位以内にランクインした。暇と退屈について哲学の観点から読み解き、現代の消費社会における気晴らしと退屈の問題点を指摘している。
【文庫】
駒場で2位、本郷で3位となった『思考の整理学』(筑摩書房)は刊行から40年以上にわたり学生やビジネスマンなどを中心に圧倒的な支持を得ており、287万部突破のロングベストセラーとなっている。今年は、2009年に著者の外山滋比古氏が東大で行った講義「思考の整理学を語る」を収録した新版が出された。
本郷で4位、駒場で5位に入ったのは、ドラマ化もされている『三体』(早川書房)。中国のSF作家・劉慈欣によるベストセラー小説だ。一方本郷で5位、駒場で4位にランクインしたのは『正欲』(新潮社)。2013年に『何者』で直木賞を受賞した朝井リョウ氏が、作家生活10周年を記念して書き下ろした小説で、昨年映画化された。
【新書】
言語にまつわる本が二つ、本郷・駒場の両方にランクインした。『言語哲学がはじまる』(岩波書店)は駒場で1位、本郷で2位。言語哲学の源流を形作ったフレーゲ、ラッセル、ウィトゲンシュタインの3人の哲学者の考え方を辿り、普段何気なく使っている言葉の本質を探求する名作だ。『言語の本質』(中央公論新社)は、オノマトペ(擬音語と擬態語の総称)とアブダクション(仮説形成)推論という人間特有の学ぶ力に着目し、言語の誕生と進化の謎を紐解きヒトの根源に迫る。駒場で3位、本郷では1位に入った。
『なぜ東大は男だらけなのか』(集英社)は、矢口祐人教授(東大大学院総合文化研究科)による著作で、駒場で5位、本郷で3位に。東大生の男女比の偏りを入り口として、日本の大学そして日本社会のあり方そのものを問い直している。
【文芸・一般】
東大に関連する書籍が多くランクインした。本郷では、東大地理部による街歩き本『発見! 学べるウォーキング 東大地理部の「地図深読み」散歩』(マイクロマガジン社)が2位。東京とその近郊の地形や地理を楽しく学べる散歩コースが紹介されている。本郷で5位に入った『東大教授が語り合う10の未来予測』(大和書房)は東大の理系教授らによる対談形式の本。情報・通信や宇宙、生命などにまつわるテクノロジーの最先端に迫る。また、2019年に東京大学教養学部創立70周年を記念して出版された『東大駒場スタイル』(東京大学出版会)が駒場で5位に。さまざまな研究で最先端を走る駒場の現在を紹介し、変革し続ける教養学部の全容を伝えている。
【人文】
『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』(岩波書店)が本郷・駒場ともに1位に。ナチスの行った政策を中心に、功績とされることの多い事象を取り上げてそれらの事実性や文脈を検証。多角的な視点で歴史を考察することの大切さを訴えている。
駒場で2位、本郷で3位となった『センスの哲学』(文藝春秋)は、東大教養学部卒の千葉雅也氏による芸術入門書だ。音楽や絵画から音楽や映画まで、さまざまジャンルを横断しながら、「センス」の言語化と説明に挑んでいる。
『訂正可能性の哲学』(ゲンロン叢書)は駒場で3位入り。「正しさ」が求められる時代に、誤ることの価値を考え、「訂正可能性」の必要性を指摘している。