東大生がさまざまな本を求めて訪れる東大の書籍部。東大生協本郷書籍部と駒場書籍部に提供してもらった2022年8月~23年7月の1年間の書籍の売り上げデータを、ジャンル別にランキング形式で掲載する。哲学書から理工系の本、古典的名作から世相を反映した最新書まで─このランキングを通して東大生の興味が垣間見える。(以下の表は提供してもらったデータをもとに作成したため同じ書籍が違うジャンルに区分されている場合がある)(構成・峯﨑皓大)
【総合】
國分功一郎教授(東大大学院総合文化研究科)による著作がますます人気を集めている。暇と退屈を名だたる哲学者達の主張を参照しながら考察する『暇と退屈の倫理学』(新潮社)が本郷で1位、駒場で3位。昨年の売り上げでは本郷で2位、駒場で3位だったが、さらに順位を上げた。難解と言われるスピノザ哲学を鮮やかに解説した『スピノザ』(岩波書店)は駒場で5位。昨年10月の刊行以来、学生の高い支持を集めている。
駒場の1位は昨年に引き続き『東京大学「ボーカロイド音楽論」講義』(文藝春秋)。東大の人気講義を書籍化したもので、ボーカロイドをさまざまな視点から分析する。
『拡散モデル』(岩波書店)は本郷で4位。拡散モデルによって実現された画像生成は私たちの身近なものになりつつある。目下爆発的に発し応用される拡散モデルの現在と未来を解説する。
【文庫】
本郷で4位、駒場で2位の『思考の整理学』(筑摩書房)は1986年刊行のロングセラーで過去には同ランキングで1位にランクイン。単に知を集積するだけではなく能動的に考え、行動に移してみることを説き、刊行から40年近く経ってもなお色あせない。
駒場で5位の『政治的なものの概念』(岩波書店)はカール・シュミットの代表作の1932年版と1933年版を全訳したもの。「政治的なもの」を友・敵の区別と論じ、マキャベリ以降の政治を権力の獲得に還元する見方を根幹から覆す不朽の名著だ。
【新書】
『ウクライナ戦争』(筑摩書房)は本郷で4位、駒場で2位。著者はテレビ出演も多数ある小泉悠講師(東大先端科学技術研究センター)。ウクライナ戦争の疑問や論点を明確に整理。昨年に引き続いてウクライナ戦争関連の新書がランクインしており、まだまだ東大生の関心が薄れていないようだ。『世界インフレの謎』(講談社)は本郷で3位。海外諸国と同様に日本でも物価上昇が叫ばれて久しいが、その理由を「物価とはどういうものか」から始まりデータを用いて解説する。『フェミニズムってなんですか?』(文藝春秋)は駒場で3位。リベラルフェミニズムからラディカルフェミニズムまで「フェミニズムとは何か」の答えは人によって違う―その多様性こそに価値を見いだす著者がフェミニズムの過去と現在地を語る。
【文芸、一般】
村上春樹氏の人気は依然根強く、6年ぶりの新作長編小説『街とその不確かな壁』(新潮社)は本郷、駒場でともに2位。高校時代の初恋を忘れられない主人公が初恋の相手と創った街を往来する。デビュー間もない頃の自身の3作目の中編小説『街と、その不確かな壁』を3年かけて書き改めた作品である。
【人文】
国会図書館で15年間レファレンスサービスに従事してきた小林昌樹氏による『調べる技術』(皓星社)は本郷で2位。調べものをするときに効果的な著者の秘技を対象・方法に分けて明らかにする。『歴史とは何か』(岩波書店)は本郷で5位。歴史の主観性を直視した上で歴史と向き合うように促す現代歴史学の原点かつ、全ての歴史を学ぶものにとって欠かせない態度を説く。
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