古澤明教授(東大大学院工学系研究科、理化学研究所)をチームリーダーとする国際共同研究グループが、光量子コンピューターで「掛け算」を可能にするために必要な光電場の非線形測定を初めて実現した。成果は7月12日付でオンライン科学雑誌『Nature Communications』に掲載された。
量子コンピューターは、波と粒子の性質を併せ持つ量子の性質を使うコンピューター。従来のコンピューターより高速で計算が可能だと期待され、研究が進んでいる。中でも光の量子的な性質を用いる光量子コンピューターは特に高速な計算が可能で、既存の光通信との親和性も高いが、掛け算などの非線形な計算を実行することが課題だった。
測定型量子計算と呼ばれる手法では、波の重ね合わせで表現される量子状態に対して測定と測定値に基づく動的な操作を繰り返して量子状態を変化させ、計算を行う。しかし、測定方法は定数倍や加算・減算を扱う線形なホモダイン測定に限られ、2乗などの非線形計算に必要な非線形測定は実現していなかった。
非線形測定のモデルは2001年に提案されていた。このモデルでは、測定したい光に補助的な光を干渉させ、光を2本に分割する。片方はホモダイン測定の後に通常のコンピューターによる電気的な非線形計算を行う。他方の光は計算結果に従って位相が回転され、そこにホモダイン測定を行う。電気的な非線形計算と線形なホモダイン測定を組み合わせることで、非線形測定を実現する仕組みだ (図1)。しかし、電気による非線形計算を行う時間が長く、光信号との同期が困難なほか、補助量子光の生成が困難なことから、実現されていなかった。
今回の研究では、専用のボード(図2)を作成し、デジタル回路と光信号を組み合わせて高速に非線形計算を行う手法を提案。デジタル回路では、ルックアップテーブルと呼ばれる計算表を利用し、計算時間の短縮に成功した。これは回路内のメモリに事前に入出力の対応を書き込んであるもので、入力された値に対応する結果を高速で出力することを可能にした。計算に伴う遅延は約26.8ナノ秒と、CPU(中央演算処理装置)と比べ100倍程度の高速化を実現した。
このボードを用いて、216万通りの光を入力し非線形計算を測定したところ、入力光と測定結果の関係や測定結果の状態が理論値とほぼ一致し、非線形測定が実験的に可能になったことが確かめられた。非線形測定の原理実証の成功は、非線形計算も可能な汎用光量子コンピューターの実現につながると期待される。