春爛漫の候、暖かな日差しを感じる季節となりました。本日は、未曾有の緊急事態の中、私たち卒業生のために式典を催していただき、誠にありがとうございます。また只今五神総長より告辞のお言葉を賜りましたことに、深く感謝申し上げます。
前期教養課程を経て、私は医学部健康総合科学科に進学し、公衆衛生学から分子生物学、統計学から看護学まで、健康にまつわる包括的な学問を学ばせていただきました。昨今、医学とは、病院の中で完結するだけのものではありません。紀元前5世紀、医学の父ヒポクラテスが、著書である「空気・水・場所」に健康と環境について議論され、公衆衛生学の起源とされています。現代社会は、かつて無いほどに人口と移動が増え、人類が誕生した以来、最大の環境変化の真っ只中にいます。昨年末、私の生まれ故郷でもある中国武漢市に始まった新型感染症は、今や世界中の社会・経済に暗い影を落としているように、国や地域を隔てて医療を論じることは不可能です。
私は学業の傍、医療通訳として医療の現場に携わっていますが、日々医療環境の国際化を感じております。旅行者を対象とする渡航医学だけでなく、異文化医療に関わるメンタル・フィジカルな問題は日に日に多様化しています。このように、益々と複雑化する医療現場では、様々なコンフリクトも起こりやすくなっています。他人に自らの常識を押し付けても、自分自身がまた他人の常識を知らずに、誤った道に進んでしまう可能性をはらんでいます。
私たちはとても幸運です。東京大学で過ごした4年間または6年間の間、私たちは周囲から手厚いサポートを受け、深い教養と自由な発想力を身につけました。多様化する現代社会では、正解の無い難問に直面することもあれば、納得の行かない理不尽な批判を受けることもあります。溢れかえる情報と主観の中においても、節度ある社会の一員として、冷静且つ思いやりのある行動を心がけ、益々と変化して行く国際社会に、優しさと平等さが溢れることを祈って、それぞれの得意分野を活かし、卒業生一同、一人ひとりに託された使命を精一杯果たします。
最後になりますが、本日までご指導、ご支援して頂いた諸先生方、職員の皆様、支え合い、励まし合ってきた友人たち、そして、一番近くで支えて下さった家族に、心より感謝申し上げます。皆様方のご健康と東京大学の燦然たるご発展をお祈りし、答辞とさせて頂きます。
令和2年3月24日
卒業生総代 医学部健康総合科学科 鄭 翌( てい・よく)