文化

2024年12月26日

【漫画×論評 TODAI COMINTARY】細胞について楽しく学べる 清水茜『はたらく細胞』

 

 今や日本が世界に誇る文化となった漫画。東大新聞編集部員がぜひ読んでほしいとおすすめする漫画作品(Comics)を、独自の視点を交え、論評(Commentary)という形(Comintary)でお届けする本企画。今回は、『はたらく細胞』(清水茜)を取り上げます。

 

体の中では日々何が起こっている? 

 

 細胞たちが暮らす体の中。今日も細胞たちは健康を守るために働いている。方向音痴でいつも道に迷ってしまう赤血球と、そんな赤血球を助けながら外敵と戦う白血球(好中球)。そして2人を取り巻く個性豊かな細胞たちによって物語は繰り広げられる。本作はアニメ化されていて、12月13日には、実写版の映画が公開された。本作では一つ一つの細胞たちが擬人化され、体内で起こっていることは現実世界に当てはめられている。例えば、くしゃみはロケットで、発熱は、細胞がやかんに入った熱湯を、ウイルスに注ぐことで表現される。このような描写によって、専門知識が無くても、体内の様子を理解することができる。

 

 例えば1巻第2話「スギ花粉アレルギー」。毎年悩まされている人も多いのではないだろうか。このエピソードでは、スギ花粉が体内に入ったときに、くしゃみや鼻水などの症状が起こる仕組みが描かれる。突如上空から落ちてきた球状の物体の中から出てきたのは、スギ花粉のアレルゲン。赤血球たち体内の細胞よりもはるかに大きいスギ花粉が、粘膜と血管をつなぐ排水口を通って血管中に次々と侵入。B細胞によってバズーカから放たれる抗体を使いスギ花粉を倒していたが、侵入するスギ花粉の量が増えるにつれ使われる抗体の量が増え、それに伴い血管内に放出されるヒスタミンの量がどんどん増加していき、血管内はヒスタミンの大洪水に。他にもさまざまな異変が起こり、細胞たちが内輪もめをしている中、体外から届いたのはステロイドという機械で……果たして体内に平穏な日々は戻るのか。免疫に関する知識を得ながら、スピード感のあるハラハラした展開を楽しむことができる。

 

 さらに、本作の特徴として、漫画の中に専門的な内容の解説が付いていることが挙げられる。細胞のことについてほとんど知らない読者にとっては、初めて見る細胞や現象が多く描かれているが、この解説によって難なく読み進めることができる。そして漫画を読むことで、体内について気軽に学ぶことができるのだ。われわれが普通に生活している中でも、細胞たちは絶えず働いてくれている。体に異変が起こった時は命を懸けて守ろうとする。そんな細胞たちの姿を垣間見てほしい。一番身近な自分の体内の様子を知ると、細胞たちに感謝の気持ちを持つようになる。その細胞たちも紛れもなく自身の一部であることに気付いたとき、自分の体に負担をかけない生活を心がけよう、と思える。本作を読んで、われわれの生活を絶え間なく支えてくれている細胞たちに思いをはせてみよう。【桃】

 

清水茜『はたらく細胞(1)』講談社、税込み759円

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