文化

2023年1月5日

【漫画×論評 TODAI COMINTARY】高校生のパワフルで 甘酸っぱい青春劇『スキップとローファー』

 

 今や日本が世界に誇る文化となった漫画。東大新聞編集部員がぜひ読んでほしいとおすすめする漫画作品(Comics)を、独自の視点を交え、論評(Commentary)という形(Comintary)でお届けする本企画。今回は、『スキップとローファー』(高松美咲)を取り上げます。

 

高松美咲『スキップとローファー(1)』講談社、税込み748円

 

 1学年8人の過疎地域から、東京に上京してきた高校生の岩倉美津未(みつみ)。官僚になって地方問題を解決する夢をかなえるため、勉強や生徒会に全力で取り組む。一方で、自己紹介で官僚になりたい理由は「人の上に立つべき人間だからです!」と言って滑るなど、勢い余って空回りすることも。そんな彼女の周りには、それぞれの色を持った高校生たちが集まっている。優しくて気が利くがどこか達観している志摩くん、努力して「カースト上位」になったけど自分を好きになりきれないミカ。傷つけ合い、笑い合いながら少しずつ大人になっていく。

 

 バレーボールのクラスマッチ前のひとこま。バレー経験者のミカと一緒に自主練習をするみつみに、先輩2人がぶつかってきた。別の先輩が注意してくれてことなきを得たが、ミカはムカつく2人の名前を覚えようとしたのに対し、みつみは助けてくれた人の名前を覚えていた。ミカは「私がムカつく奴の名前をふたつ覚えている間に岩倉さんは親切にしてくれた人の名前をひとつ覚えるんだろう」と自分の小ささに落ち込みいら立ちをみつみにぶつける。クラスで居場所を得るために、容姿もバレーも努力してきたが、みつみのような素直さは自分にはない……。しかしみつみは、ミカの努力家で不器用な側面を見抜いてか、バレーについて「すごく練習してじょうずになったんだなってわかるよ」と伝える。2人の関係性はここから深まってゆく。

 

 この漫画を読むと、自分もみつみたちの高校生活に参加している気分になる。グループが固まる前に大人数で食べる昼ごはん、文化祭前の忙しさともめ事、バレンタインデーの日の浮ついた教室……。そんな誰もが経験した「学校の空気」が、登場人物たちの制服の着こなしといった細かな描写からも伝わってくる。

 

 そんな空気に共感する一方で、大人になるにつれて彼らが持つエネルギーを失いつつあるのかもしれないとも思う。友達とケンカした後に「ごめん」と口に出して伝えることも、デートに失敗したと落ち込む親友の元に駆け付けることもない。彼らの全力さや初々しさを少しうらやましく思うが、恋・友人関係・自分自身についての悩みが尽きない思春期に戻るのも大変そうだ。だからこそ本書で、みつみの天然に笑い、志摩くんの優しさに癒やされながら高校時代を懐かしむくらいがちょうど良いのかもしれない。【松】

 

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