この漫画ほど主人公の魅力を言葉にするのが難しいものはない。主人公の町田くんは、勉強は不得意、運動もダメ、ついでにアナログ人間。特殊な能力があるのでも、壮絶な運命を背負っているわけでもない。それでも主人公たりえるのは、思いやりと純真さに満ちた「町田くんの世界」に周囲の人を導く、菩薩なみの器のデカさがあるからだ。
そんな町田くんの人柄は、街で出会った迷子の女の子と一緒に両親を探すエピソードからも伝わってくる。町田くんが「あの人は?」と聞くと「ちがう! あんなブスじゃない!」「あんな汚いおじさんじゃない」と女の子は答える。さらには、おじいさんが落としたクモの標本を見て「きもちわるい」とばっさり。そんな彼女に対し、町田くんは「誰かがパパとママのこと悪く言ったらどう思う?」と問いかける。「やだ!」と言う女の子に、道端の人を指差し「あの人は今ひとりでいるけど 誰かのママかもしれない 誰かのお姉さんかもしれない そして誰かの子どもなんだ」。「知らない人なんてしらない」と女の子。「そうだね 知らない人だって思うとね 家族だって思うと 大事にしようと思わない?」「あの人も この人も 君にとってのママやパパと同じように 誰かに大事にされるべき存在なんだ」。女の子は何も言わないものの、何かに気が付いた表情を見せた。
登場人物は皆、私たちと同じ普通の現代人だ。「いじられキャラ」の同級生・西野くん、父親から「有能になれ」と言われ続けてきたアオ、結婚できないと嘆く英子先生……。友人や親、恋人、世間とのしがらみの中で、悩みながら生きている。でも町田くんと関わるうちに、目の前の人や自分自身と真っすぐ向き合えるようになるのだ。人は何か特別な能力がなくても、他者や自分と誠実に向き合うことで「漫画みたいな」日常を送れるのかもしれない。
人類愛に満ちた町田くんだが、恋は初心者。クラスメイトの猪原さんが気になるものの「何の取り柄もないどんな俺を見て 好きだと思うんだろう」と、嫌われることを恐れて関わるのを避けてしまう。そんな町田くんに、友人たちは「捉え方を変えてみたらどお? 嫌われたくないじゃなくて 好きになってほしい」とエールを送る。自分の事を想ってほしい……。与えるだけでは満足できない恋に町田くんはどう向き合うのか。もう一つの見どころだ。
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