キャンパスライフ

2016年7月4日

東大卒・キャリアなし。コロンビア大フィルムスクールへ行く【連載:映画留学記1】

 初めまして、米コロンビア大学大学院フィルムスクール1年目在学中の後藤美波と申します。 映画業界での活躍を目指す学生が集まるアメリカの「フィルムスクール」について、今回より連載させていただくことになりました。

 

◆そもそもフィルムスクールって?

 

 「ビジネススクール」や「ロースクール」はよく聞くけど、「フィルムスクール」って何?——と思われた方も多くいらっしゃるでしょう。「フィルムスクール」は、名の通り、フィルムについて学ぶ学校です。ただし、ここで学ぶのは映画研究(フィルム・スタディーズ)ではなく、実際に映画を撮影する「フィルム・プロダクション」です。

 

 私が在学しているのはColumbia University, School of the Arts, MFA Film, Creative Producing(コロンビア大学大学院芸術研究科映画専攻プロデュースコース)になります。コロンビア大学は、アイビー・リーグの中で唯一ニューヨークに位置する総合大学です。有名な卒業生だとオバマ大統領、ウォーレン・バフェットポール・オースターなんかがいます。

 

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 School of the Artsは、映画専攻が属する研究科です。そしてこの”MFA”とは何かと言いますと、“Master of Fine Arts”(芸術修士号)というものです。人文科学の大学院の場合にはMA (Master of Arts – 文学修士号)が与えられますが、MFA は、実際にアートの制作に携わるための学習を積んだ者に対して与えられます。総合大学で「フィルム・スタディーズではなくフィルム・プロダクションを学んでいる」と言うと少々不思議な感じがするかもしれませんね。東大を使って例えてみましょう。“東京大学と東京藝術大学が1つの大学機関になっていて、藝大の代わりに東京大学の中に芸術学部があって、そこで映画制作やアート制作を学ぶと「芸術修士号」を取得できる”という感じでイメージすると分かりやすいのではないかと思います。

 

 さて、コロンビア大学は、USC、AFI、UCLA、NYUとともにビッグ5と呼ばれるアメリカのフィルムスクール群の中の1つ(ちなみに、「ビッグ4」になるとコロンビアは外されます。コロンビアの立ち位置をよく物語っているというか…少し悲しいですね……)。

 

 コロンビア大学大学院のフィルムスクールではプロデュース・監督・脚本の3つのコースに分かれ、一学年約70人が一緒に学びます。コロンビア出身の有名な映画作家はリサ・チョロデンコ(「キッズ・オールライト」、TVシリーズ「Lの世界」監督 )やキャサリン・ビグロー(「ハート・ロッカー」、「ゼロ・ダーク・サーティ」監督・製作)、ジェニファー・リー(「アナと雪の女王」監督)、フィル・ジョンソン(「ズートピア」脚本)、ジェームズ・マンゴールド(「17歳のカルテ」、「ウォーク・ザ・ライン」監督・脚本)といった面々がいます。

 

◆クラスルームはニューヨークの縮図

 

 さて、 コスモポリタン都市ニューヨークのコロンビア大に集まる学生は、出身地もバックグラウンドも年齢も様々。「インターナショナル・スクール」の名前に相応しく、1/3〜半数の学生が留学生となっており、私のクラスメイト約70名は24カ国から集まっています。ちなみに、クラスには中国や韓国、台湾、フィリピンなどアジアからの留学生も多くいますが、日本人は私ひとりだけです。

 コロンビア大フィルムスクールは必ずしも業界経験を必要としないため、入学前のキャリアはかなり多様です。 他の映画学校や映画業界で経験を積んでからコロンビア大に来たという人ももちろん多くいますが、学生たちの学部専攻はビジネスやアート、建築、演劇、国際関係論など多岐にわたります。学部を終えて直接大学院にやって来る人から、40歳代の学生もおり、年齢は幅広いですが平均年齢は25〜27歳ほどでしょうか。男女はおおよそ半々となっております。経歴のすごい人だと、ゴールドマンサックスで勤め、ハーバードビジネススクールを修了し、第二の人生として映画を学び始めたインド人のクラスメイトもいます。

 

 コロンビア大では入学前の業界経験を重視しない代わりに、各個人が「どれだけ強いストーリーを持っているか」を重視します。私は学部から直接の留学生なので、志願エッセイで「自分がどんな人間で、どんな人生を経て、どんな映画を作りたいと思っているのか」に焦点を当てて書きました。

 それでは簡単に、どんな経緯でフィルムスクールに留学したのかをご説明しようと思います。

 

◆「学芸員資格は取ったけれど…」

 

 私は東大の美術史専攻の出身で、もしも学部卒業と同時に就職していたら、現在社会人2年目になっています。

 学部生時代には、もともとはアートに関係のある職に就きたいと考え、学芸員資格を取得するための勉強をし、都内のギャラリーでインターンもしていました。ただ、3年生になって改めて進路を考える時になり、「このまま美術の道に進むのではなく、美術と同じくらい熱を注いでいた趣味の映画を、鑑賞だけではなく製作する人間になるという道もあるのではないか」と考えました。というのも、私は地方都市の出身で、自分で自転車を使って行ける距離には美術館が1つしかない状況で育ちました。18歳になって東京に来るまで、自分にとって「アート」はほとんど手の届かない娯楽であり、「映画」が、一番手軽でありながら、無限大の未知の世界への扉を開けてくれた存在であったのです。

 

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 私は自分と同じように文化的な刺激に飢えている子どもたちに、かつての映画製作者が私にしてくれたように、刺激や夢を与えたいと思ったのです。とは言っても、美大の出身でもなく、絵も描けない、カメラの使い方もろくに知らない私がどうすれば映画製作の道に進めるのか分からず、全く途方に暮れていました。

 

◆ロサンゼルスへ。そして道が開ける(?)

 

 そんな学部3年生の夏、大学の体験活動プログラム「ロサンゼルスで映画を製作する」に参加し、ハリウッドなどカリフォルニアの映画関係の場所を訪れました。その中で東大卒の南カリフォルニア大学(USC)大学院フィルムスクールに在学中の先輩とお話し、「アメリカの大学院はダイバーシティを重視するので、大学で必ずしもアートやフィルムを専攻していなくとも合格することはある」と教えていただきました。日本だと、大学院に進学するときには同分野か隣接する分野への進学が一般的だと思うのですが、アメリカではむしろその逆で、積極的に他分野を専攻した学生を集めようとします。私はその言葉に勇気をいただき、インターネットで調べたり、フィルムスクールを実際に訪れたり、卒業生の方とお話させていただいたりと情報を集めました。そして学部4年の夏、TOEFL iBTで100点を取った後に本格的に出願準備を始め、2015年の春に合格通知を受け取りました。

 

 留学もしたことがなく、英語も満足にできなかった私ですが(ちなみに英語はまだ苦手です……)、コロンビア大学大学院のフィルムスクールで唯一の日本人として、なんとかサバイバルしています。その体験を、皆さんに楽しんでいただけるようお伝えすることができればと思っています。

 次回は、「ニューヨークの摩天楼の中で映画を学ぶとは」をテーマに、「『東海岸=ウッディ・アレン』、『西海岸=ハリウッド映画』といったイメージは本当なのか?」、「ニューヨークでの留学生活は何が大変?」といった話題をご用意しています。お付き合いいただければ幸いです。

 

【連載・映画留学記】

  1. 東大卒・キャリアなし。コロンビア大フィルムスクールへ行く <- 本記事
  2. 摩天楼の中で、映画プロダクションを学ぶ。
  3. 「語るべき物語」を見つける。

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