東京大学消費生活協同組合(東大生協)は5月8日、改修前の中央食堂に展示していた画家・宇佐美圭司氏の作品を、改修に際して廃棄していたことを発表し「知識がないため軽率な判断となってしまったことをお詫(わ)びする」と謝罪した。同日、東大も石井洋二郎理事・副学長、小関敏彦理事・副学長の名で謝罪を表明した。東大生協は廃棄に至った経緯について、保存の可能性があったにもかかわらず、設計上保存できないという誤った認識の下議論を進めて処分を決めたと説明している。絵画の所有権を持つ東大生協が、内外で十分に保存可能性や絵画の価値を検討しないまま廃棄したことが明らかになった。
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東大生協によると、展示していたのは故・宇佐美圭司氏の作品「きずな」。東大生協創立30周年記念事業の一環として、1976年に高階秀爾教授(当時)の推薦で宇佐美氏に制作を依頼し、寄贈された。以来東大生協の所有権の下、40年以上にわたって中央食堂に展示してきた。
中央食堂改修工事の監修に当たった東大教員は、作品を保存すべきとの立場から代替の設置場所を指定。しかしこの情報が検討の過程で生協に共有されず、
東大生協は、利用者から寄せられた「(宇佐美氏の)絵画はどうなったのか」との問いに対し今年3月、ウェブサイト上で「意匠や吸音の壁になることから、移設はできないため、今回処分することにした」と回答していた。この回答については今回「理由が事実に基づいていない上、同作品がこの時点で存在していたかのような誤解を与えるもので、極めて不適切だった」として、謝罪の上撤回した。
東大は謝罪に加え「同じ過ちを繰り返さぬよう、学内に存在する数多くの学術文化資産について関係者間での正確な情報共有を徹底し、適切な保存・管理に一層の努力を重ねていく」とコメントしている。