部活・サークル

2023年12月17日

サークルペロリ➡︎東大運動会航空部「知力を総動員した非日常の体験を」

 

経験と支え合いに裏付けられたフライトの魅力

 

 熊谷駅からバスで20分ほど。のどかな丘の向こうにいくつかグライダーが並んで見えるその場所は、航空部の妻沼訓練所だ。ここでは東大を含むいくつかの大学の航空部が活動している。

 航空部と聞くと、なんとなく空を飛ぶのだろうということは想像できるが、実際の飛行の迫力は想像以上だ。入部した部員は訓練所で飛行のサポートを行うグラウンドワークを学び、まず自動車の仮免許のようなものを取得する。そして教官と2人で搭乗し操縦を学びながら訓練を積んだ後、1人でグライダーに乗るファーストソロを迎える。このファーストソロは個人の活動への参加頻度によっても異なるが、1年の春に入部した部員は2年の春から夏にかけての期間に行うことが多い。

 入部当初はグライダーに乗れる機会が少ないのかと思いきや、1年生は早いうちに経験を積むため、優先して乗せてもらえるのだという。1人で乗り始めてから一定の経験を積むとライセンスを取得できる。これは3年の終わり頃から4年にかけて取得する部員が多いそうだ。ライセンスの取得は大会への出場要件の一つであるため、多くの部員の目標であり、取得後は大会に挑戦し活動の幅を広げるきっかけにもなる。

 

毎月開催される合宿で互いのフライトをサポートする部員たち(写真は東大航空部、堀内元貴さん(法・3年)提供)
毎月開催される合宿で互いのフライトをサポートする部員たち(写真は東大航空部、堀内元貴さん(法・3年)提供)

 航空部員にとって、グライダーで空を飛ぶことには非日常的な魅力があると教えてくれたのは、3年の魚住一晴さんだ。グライダーからは飛行機とはまた違った景色が見え、特に初めて1人で飛ぶファーストソロでは格別の喜びを味わったそうだ。「航空部員として最初の大きな目標であり、興奮したのを覚えています」とうれしそうに語る。初めは緊張感を持ちながら丁寧な操縦を心がけるが、徐々に楽しむ余裕も生まれ、ライセンスを取得した後は自分の理想の操縦を追い求めるチャレンジ精神でスキルを上げていく。速いスピードで飛行できる人や高度を維持したり上昇気流を目的地近くで探し出したりといった粘り強さが持ち味の人など、おのおのの操縦の特徴を生かしたフライトの研究が重要になる。

 大会では、決められた周回コースを、安全性を維持しながらいかに速く飛ぶことができるかを競う。ライセンスを取得して経験を積めばすぐに一人前のパイロットとして大会出場、というわけではない。安全に競技を行うためには、その場の気流・風向や他の機体との位置関係を見定める力が必要になる。雲の様子から上昇気流の位置や風向を予想したり、同じ上昇気流の中で他の機体と近づきすぎないようにしたりする。グライダー競技は膨大な知識や論理的思考力が求められる「空のチェス」でもあるのだ。

 

 個人競技であるためおのおのが自らの目標に主眼を置いて活動していく一方、練習で技術を磨いていく際には先輩が後輩に教える場面が多く、飛ぶ時にも周りの部員のサポートが必要不可欠になるなど部員間のつながりも強い。「部員の献身的な協力が不可欠なんです。(自分が空を飛べるのは)機体を押しにわざわざ大会の会場まで来てくれたりするクルーのみんなのおかげ」と堤宇叶さん(文・4年)は語る。堤さんは先日の関東大会で優勝を果たしたが、その背後には経験量や粘るフライトの意識に加え、部員の手厚いサポートがあったようだ。「出場していなくてもサポートしてくれる部員やインストラクターの方、家族に喜んでもらえたのが嬉しかったですね」と感謝の言葉があふれ出る。

 

堤選手が優勝を果たした関東大会で(写真は東大航空部、 石橋明香里さん(理II・2年)提供)
堤選手が優勝を果たした関東大会で(写真は東大航空部、石橋明香里さん(理II・2年)提供)

 

一度、グライダーで空を飛ぶ開放感を

 

記者の体験搭乗時の離陸の様子
記者の体験搭乗時の離陸の様子

 

 今回の取材では記者も体験搭乗をさせてもらった。2人乗りの複座機に乗り込んだ後、緊急時の脱出方法や機内での注意点の説明を受けた。グライダーにはエンジンが備え付けられていないため、滑走路までは部員に機体を押してもらい、両方の翼を地面から離した状態でウインチに取り付けられたワイヤで機体を引っ張って離陸した。離陸後は基本的に上昇気流を見つけてその中に入り込むことで、機体が降下しないよう高度を維持する。体験搭乗は10分ほどのフライトで、ある程度高度を得たら同じところを周回して飛び続けた。グライダーから見える景色には、普段陸上では感じることのない開放感がある。飛行機とは違って周囲にほぼ死角のない不思議な感覚だった。他では出会えないこの感覚、航空部に興味を持った人なら味わわないでいるのはもったいない。新歓時期には新入生向けの体験搭乗イベントも行われている。理論的に考えることの楽しさと空を自由に飛ぶ感覚、この二つを得られる航空部の活動を一度のぞいてみてはいかがだろうか。

(取材・小倉陽葵)

koushi-thumb-300xauto-242

タグから記事を検索


東京大学新聞社からのお知らせ


recruit
koushi-thumb-300xauto-242

   
           
                             
TOPに戻る