
発売元:TBS 発売協力:TBSグロウディア 販売元:TCエンタテインメント
(C)2022 映画「ラーゲリより愛を込めて」製作委員会 (C)1989清水香子
『ラーゲリより愛を込めて』は、辺見じゅんのノンフィクション小説『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』を基に作られた2022年公開の映画。第二次世界大戦後、シベリアの強制収容所(ラーゲリ)に抑留された実在の日本人抑留者・山本幡男(二宮和也)が主人公だ。
本作前半では、零下40度にもなる過酷な環境のシベリアで、わずかな食糧で重労働を強いられる山本ら日本人抑留者たちの苦悩が描かれる。命を落とす者が続出し、自暴自棄になって脱走を試み、銃殺された者もいた。そんな中、山本は「生きる希望を捨ててはいけません。帰国(ダモイ)の日は必ずやって来ます」と周囲の人々を励まし続ける。彼はハルビンで別れた妻と子どもたちに日本で再会できると信じていた。その姿に心を打たれ、彼に引きつけられる者たちも出てくる。
しかし、ラーゲリで体調を崩した山本は、ソ連から大病院に行く許可をようやく得たものの、喉の末期がんだと診断され、非情にも余命3カ月を宣告される。さすがの彼も絶望するしかなかった。仲間は彼に家族宛ての遺書を書くように勧め、彼はそれを受け入れる……
この作品を通して、苦境の中でも強く優しくあり続ける山本はとてもまぶしく感じられる。ロシア文学の素晴らしさを教えてくれた同郷の先輩・原幸彦(安田顕)に自身への裏切りを自白されても、「生きるのをやめないでください」と励ます。軍人時代に「軍曹」だったことにこだわり、一等兵だった山本らを見下し邪険に扱う相沢光男(桐谷健太)に対してもひるまず自身の主張を貫き、粘り強く向き合う。苦しい状況にあると、信念を貫いたり優しさを持ち続けたりするのは難しく、自身の心にふたをした方がきっと楽だ。山本のような精神で振る舞える人はわずかだろう。それでも、彼の姿に周囲の人間が感化され、思いやりを取り戻し団結していく様子からは人間の美しさを感じ、苦しみも多いこの世界にも意外と救いがあると思える。
山本は周りの人々に多くを与えたが、実は周りから与えられていたようにも思える。山本は仲間に愛されていたし、仲間を愛することが山本の生きる意味となり、山本を救っていたのではないか。また、彼は自身の好きな歌や俳句を広め、仲間たちと楽しんでいた。苦しい中でも世界に面白さや美しさを見出していく姿勢は素敵だし、文化は人間が人間らしく生きる上で大きな支えになると痛感させられる。
日々の暮らしになんとなく閉塞(へいそく)感を感じている人にこそ特に見てほしい作品。山本のまっすぐな姿勢は私たちにやる気や希望を与えてくれる。【莉】