シン・ゴジラの衝撃から約6年。日本アカデミー賞の7部門で受賞した異端作を作り出した庵野秀明氏、樋口真嗣氏が再び世に送り出した作品が『シン・ウルトラマン』である。2021年夏に公開予定だったものの、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、公開延期に。満を持して2022年5月13日に公開された。
「禍威獣(カイジュウ)」に対する対策を行う「禍威獣特設対策室専従班」、通称「禍特対(カトクタイ)」が設立された日本。禍特対(カトクタイ)は、なぜか日本だけに現れる禍威獣の脅威から社会を守っていた。田村君男(西島秀俊)ら禍特対が任務を行っていたある日、突如表れた銀色の巨人。何者なのか分からない巨人を禍特対の分析官、浅見弘子(長澤まさみ)は「ウルトラマン」と名付ける。ウルトラマンは敵か、味方か。そして、禍威獣(カイジュウ)からの攻撃の裏で新たに訪れた宇宙人たち。政治的にうごめく宇宙人に対し、ウルトラマンはどう立ち向かうのか。
シン・ゴジラでは、政治と国難を描いた庵野秀明氏、樋口真嗣氏だが、今作ではそうしたメッセージもさることながら、ウルトラマンの外見や、外見ににじむウルトラマンの精神の美しさを中心に置いた作品作りがなされていた。今作でも従来通り、ウルトラマンの地球上での活動時間は制限されているが、制限時間が近づいていることを示す「カラータイマー」は今作のウルトラマンの胸にはない。というのも「ウルトラQ」や「ウルトラマン」で怪獣やウルトラマンなどのキャラクターをデザインした、成田亨氏が描いた絵画「真実と正義と美の化身」をデザインコンセプトとして、今作のウルトラマンは生み出されている。そこには製作上の問題から設けられたカラータイマーや眼の部分ののぞき穴はない、完璧に美しいウルトラマンの姿がある。「真実と正義と美の化身」はその後50年以上続くウルトラマンシリーズの核となった作品だ。さらに、主題歌は米津玄師の「M八七」。ウルトラマンの生まれの星はM78星雲であったが、制作段階では、M87星雲の予定であったとか。それを受けた主題歌のタイトルである。こうしたことからも徹底した原点回帰が今作のテーマであったと思われる。
まさに「美しい」ウルトラマンを見ることができる新たな特撮映画だ。庵野秀明氏、樋口真嗣氏をはじめとしたスタッフ、キャストの特撮映画への愛が感じられる2時間になる。特撮映画を怪獣が倒される勧善懲悪の幼稚なストーリーと侮るなかれ。ウルトラマンには悲しみと強さが秘められている。ウルトラマンのファンも、そうでない人も、特撮映画という美しい世界の虜になるだろう。【黒】
【記事修正】2022年8月18日午前9時17分 句点の抜けなどを修正しました。