緑会合唱団は東大法学部に起源を持つ、70年近い歴史を誇る合唱団だ。1月に開いた定期演奏会では、合計7楽章の「ドイツ・レクイエム」など計3ステージを披露。特に同曲の合唱には卒業生も招き、総勢100人超えで歌い上げたという。演奏会の様子などについて、同団から寄稿してもらった。(寄稿=緑会合唱団・西岡君恵、写真は全て緑会合唱団提供)
緑会合唱団は、1月21日に、大宮のソニックシティ大ホールにて第67回定期演奏会を行った。全3ステージにわたる演奏会の模様をお届けする。
1956年発足 東大法学部から他大学まで拡大
緑会合唱団は、東京大学、お茶の水女子大学、日本女子大学の学生を中心とする混声合唱団である。
1956年、東大法学部の自治団体である「東京大学法学部緑会」の中の男声合唱団「東京大学法学部緑会合唱団」として発足した。その後活動の幅を広げ、法学部生以外の東大生や東大以外の学生も多く受け入れる形となった。卒団後は緑友会として現役団員との交流がある。2022年に団名を「東京大学法学部緑会合唱団」から「緑会合唱団」へ変更した。
1時間越え大曲「ドイツ・レクイエム」を演奏 卒業生も出演
緑会合唱団は毎年、オーケストラ付き外国語曲を演奏している。東京大学合唱団連盟に属する合唱団の中でも特徴的な点だ。今年は、ブラームスの「ドイツ・レクイエム」を定期演奏会の第3ステージで演奏した。全7楽章一時間越えの大曲である。
「レクイエム」は「鎮魂歌」と訳され、通常死者の魂の安息を願うカトリック教会の典礼音楽である。しかし、プロテスタントのブラームスは、「生者への慰め」をテーマに演奏会用楽曲として作曲し、10年かけて完成させた。歌詞には、ルター訳によるドイツ語版の旧約聖書と新約聖書からブラームス自身が選んだ文言が使用され、人間の苦悩と儚(はかな)さ、そして慰め、報い、喜びが提示されている。
写真から100名を超える合唱団の迫力が伝わるだろうか。今年は特例で、現役団員約60名に加え12期〜68期のOBOGが44名出演した。実は二年前、現役とともにドイツ・レクイエムを演奏することを目的として、OBOG合唱団(=緑友会合唱団)が特設されたのだ。常任指揮者の永井宏のもと、月二回の練習を重ねた。現役団員は、新歓期から練習を始め、夏合宿で初めて指揮者指導を受けた。その後、昨年9月からは緑友会合唱団との合同練習を積み重ねた。
本番は、練習の成果を存分に発揮し、緑会の歴史に残る素晴らしい演奏ができた。代表の大牟禮恒樹(工学部3年)は、「現役とOBOG、そしてオーケストラの3つ音が合わさり、ステージ上ですらその圧倒的迫力を感じられました。個人的には、ドイツ・レクイエムに出てくる数ある楽器の中でもハープが大好きです。この曲は途中で様々な顔をみせますが、第Ⅶ曲最後のハープが女神のごとく、曲を締めくくってくれます。現世に残された者への慰めなのだなと肌で感じます。曲を歌いきった歌い手を労ってくれてるのかな(笑)とも思います。実際、観客の皆さんにどう聞こえていたのかは、DVDをみてみないとわかりませんが、私としてはすごく充実した演奏をさせてもらったなと感じています」と語る。
高い技術が求められ、体力的にも大変な曲だが、9か月間真摯に向き合い、一糸乱れぬ集中力で夢中になって高らかに歌い上げた。この曲が私たちの人生に深く根ざすには時間がかかるだろうが、その長旅の始まりが、今回の定期演奏会となった。それでも、巨匠の大曲を通して芸術の真骨頂に触れる経験は貴重なものとなった。
全ステージで11曲 週2の練習重ね磨いた繊細さと力強さ
続いて、学生指揮者二名による第1、第2ステージを振り返る。
第1ステージで演奏したのは、ともに山下祐加作曲の「風よ」(作詞 フルリーナ)と「うたう」(作詞 工藤直子)。自然に対するあたたかいまなざしが特徴的な二曲だ。
第1ステージを指揮した丸山ひかり(お茶の水女子大学・3年)は「両曲が持つ爽やかさやあたたかさを含んだ綺麗(きれい)なハーモニーが本番の会場に響いていたのを聴いて、また歌っている団員の晴れやかなのびのびとした表情を見て、今の緑会合唱団で演奏する曲としてこの曲を選んで良かったと強く感じています。7月から半年以上、このステージの曲を練習していくなかで、改めて歌う楽しさや喜びを感じることができました。聴いてくださったみなさまにも、そのような前向きなエネルギーが届いていたら幸いです」と語る。
第2ステージで演奏したのは、ともに三宅悠太作曲の「学ぶ」 (作詞 谷川俊太郎)と「Vocalise/風のうた」 (作詩 安水稔和)。感覚が研ぎ澄まされる詩と力強くも胸を打つ旋律が印象的な二曲だ。第2ステージを指揮した鷺坂怜子(お茶の水女子大学・3年)は「一曲目はシンプルな旋律なので、音の重なりや言葉を観客の方に届けられるよう細かな演奏を心がけました。来場者アンケートの中で、「言葉が伝わってきた」「歌詞が良い」などのお言葉をいただき、目指していた演奏ができたのではないかと思っています。二曲目は、切なく、しかしながら力強く美しい詩を歌いました。変拍子やテンポの緩急が多く、とても難しい曲でしたが、本番では練習以上の演奏ができたと感じています」と語った。
第1ステージと第2ステージの日本語曲は、駒場祭と徽音(きいん)祭(お茶の水女子大学文化祭)での発表経験も活かし、四声の和音を丁寧に響かせながら、流れるような曲調を爽やかに歌いあげ、繊細さと力強さを生き生きと表現することができた。
第3ステージも合わせると計11曲。平日週2回の練習で仕上げるのはとても大変だったが、各人の努力が実り、本番悔いなく歌い切れた。この経験を今後の糧としていきたい。
ご来場いただいた皆様に改めて感謝申し上げます。現在は、新歓合唱祭で披露する民謡や、六月のコンサートに向けた練習をしています。東京学芸大学混声合唱団との合同演奏があります。是非お越しください。
6/29(土) 緑会合唱団・東京学芸大学混声合唱団ジョイントコンサート2024
ひの煉瓦ホール 大ホール 午後3時 開場 午後3時半開演
緑会合唱団 混声合唱とピアノのための組曲『みやこわすれ』
東京学芸大学混声合唱団 五つの混声合唱曲『飛行機よ』
合同ステージ 混声合唱とピアノのための『くちびるに歌を』