駐日フィンランド大使館で6月17日、上野千鶴子名誉教授が、男女平等に貢献した功績でフィンランドから表彰された。感謝状はペッカ・オルパナ駐日フィンランド大使が見守る中、フィンランド初の女性大統領となったタルヤ・ハロネン元大統領から上野名誉教授に手渡された。受賞スピーチでは上野名誉教授が、日本とフィンランドを比較しつつ「なぜフィンランドでは男女平等が進んだのか」などと、フィンランド人やハロネン元大統領を質問攻めにする一幕もあった。
(取材・撮影 小田泰成)
表彰式はフィンランドが今年6月に始めたHän Campaign(ハン・キャンペーン)の第1弾。Hänとはフィンランド語で3人称の彼・彼女を意味し、男女の区別なく用いられることから、性別に関係なく誰もが生存できる社会づくりを象徴する語としてキャンペーン名に選ばれたという。
駐日フィンランド大使館によれば、上野名誉教授が選出されたのは約1カ月前とのこと。従来の功績に加え、今年4月の東京大学学部入学式祝辞で日本社会の不平等について問題提起したことも関係している。Hän Campaign第1弾では上野名誉教授を含め、世界各国の計16の個人・団体が選ばれている。
当日はまずオルパナ駐日フィンランド大使がHän Campaignの趣旨を説明。次いでハロネン元大統領が、現在のフィンランドの閣僚19人のうち11人が女性であることを紹介するなど、平等を重視するフィンランドの姿勢を熱弁した。
上野名誉教授は英語による受賞スピーチの序盤で「私が皆さま方の目にとまったのが、東京大学入学式における祝辞のおかげだとしたら、東京大学も私を選んだという勇気ある選択によって、感謝状に値する」と述べた。次に日本における男女平等の進展具合について、フィンランドと日本を比較しながら「すべての証拠が、フィンランドの女性と若者は日本の女性や若者より幸福だと示しています。なら、その理由は何でしょうか?」と問題提起。困難を乗り越えた方法など、フィンランド人やハロネン元大統領への質問を連発した後「あなたのお答えは、私たちに大きな力を与えてくれるでしょう。というのは、あなたたちにできたのだから、私たちにだってできる!と思えるからです」と締めくくった。
受賞スピーチが終わると、ハロネン元大統領は上野名誉教授の疑問に答えた。例えば「女性の仕事と家庭のバランスを支援するために、どんな政策を実施したのでしょうか」という疑問に対する回答として「国が積極的に育児休暇の取得を進めてきた」。フィンランドで今月発足したばかりの新政権も、夫と妻がそれぞれ6カ月ずつ育児休暇を取れる上、さらに夫と妻が同時に6カ月育児休暇を取れる制度を実現しようとしているという。「でも一番大事なのは、努力とユーモアですね」
授賞式の後には懇親の場が設けられ、ミートボールやサーモンなどのフィンランド料理がふるまわれた。和やかな雰囲気の中、ハロネン元大統領に若い世代へのメッセージを聞くと、Sisu(シス)というフィンランド語を教えてくれた。日本語の「ガッツ」に当たる言葉だという。「何かを変えるまでには時間がかかりますが、諦めずに努力し続けるのが大切です」
2019年6月19日17:47【記事訂正】記事中最終段落で、Sisuの日本語読みを誤って「シズ」としてしまっておりました。心よりお詫び申し上げます。
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