学術

2020年1月22日

国境越えた中国茶の世界 歴史や味わい方をのぞき見

 東大中国茶同好会(Twitter:@utzhongguocha)の茶会に参加すると、中国茶の六大茶類という分類や各種の茶器の取り扱い方、お茶の入れ方が学べ、文化の交流を実感できる。中国茶同好会初代代表・磯尚太郎さん(養・4年)と現代表・三浦駿人さん(法・4年)に取材し、中国茶の歴史的な伝承や社会的な機能の変化、中国茶同好会の設立の思いや取り組みを聞いた。

(取材・劉妍)

 

薬用から娯楽へ

 

 漢代には既に人々がお茶を飲んでいたという記述が見られるが、現在の飲み方にたどり着くまでには紆余曲折を経ている。中国神話の中で最初にお茶を飲んだとされるのが、約5000年前の神農だ。100種類の薬草を試し、茶葉の解毒効果で中毒状態から回復した。当時は茶葉をかみ、エキスを吸っていたという。魏晋南北朝時代(220〜589)になると、茶葉をしょうがや穀類と一緒に煮た茶がゆという料理が多数の文献に見られる。

 

 最初に体系化されたお茶の指南書は、8世紀の唐代に「茶聖」と称された陸羽による『茶経』とされる。『茶経』にはお茶の効用・製法・飲み方・物語などが記されており、「茶」という文字もこの本が書かれた頃に統一された。唐代までは荼・茗などといった約30の呼び方が併用されていたが、現在はお茶の雅称である茗以外はほとんど使われなくなった。

 

 魏晋南北朝時代には既にお茶の社会的な役割が現れていた。「お茶で友を招待する」「お茶を酒の代わりにする」といった役割だ。元来の薬用から嗜好用になった点がお茶の社会的な機能の飛躍であるといえる。門閥貴族がぜいたくな暮らしを送り、社会の風紀が緩んでいた当時、士大夫である桓温・陸納は宴会の際に酒代わりにお茶を飲んでいた。それは、過度にぜいたくな風潮を批判し、お茶こそが質素かつ清廉な品格や精神を反映しているとする考えによる。

 

 中国の茶館は唐代に生まれ、宋代に隆盛期を迎えて元代には一時衰退していたが、明代の後期から再び徐々に増えるようになった。同時期には茶葉が英国・フランス・インドなどにも輸出されるようになり、国外でも愛飲されるようになっていった。清代から茶館は演劇や講談、マージャンを行う娯楽の場として定着。宋代の詩には、茶館に四季折々の花を飾り、文人墨客の書画や『茶経』の内容の書き写しを壁に掛け、茶室を装飾していた記載が見受けられる。今日の中国では、国内屈指の入館者数を誇る茶館が成都に残る。

 

自由さも「味わい」

 

  お茶を飲むお茶席の準備は、六大茶類と呼ばれるお茶の種類の選定(表1)、茶器(表2)とお茶請けの用意、場づくりに分かれる。場づくりは小物(盆栽、掛け軸)の設置やお香をたくこと、伝統的な民族楽器(琵琶、二胡)の音楽を流すことを指す。

 

 

 

 このような非日常的な空間を設けつつ参加者に気楽に楽しんでもらい、固定的な礼儀作法にとらわれない点が中国のお茶会の特徴といえる。「長嘴壺茶芸」(口の長い茶壺を使った茶芸)、「工夫茶」(福建省や広東省潮汕地区から流行した特別な礼法が必要な茶芸)といった茶芸は存在するが、主に茶人が演じる所作や入れる姿を楽しむのみだ。

 

 中国茶は数千種類にも及ぶため、それぞれのお茶の特徴に基づき自らの好みの入れ方を探すことが必要となる。中国茶の作法では、まず茶葉の形や香りを楽しんでからお茶を入れる段階に入る。中国茶の茶葉は20~30煎もする黒茶のように何煎もするものが多く、煎を重ねるごとに味わいや香り、色も変わっていく。1煎目から順にお茶をゆっくり吟味することが大事だ。使用するお湯の温度は、緑茶・白茶・黄茶という発酵度の低い茶葉は80~90度、烏龍茶・紅茶・黒茶という発酵度の高い茶葉は90度以上が一般的だ。また、蒸らし時間は茶葉の量・お湯の温度・水の質によって変わり、お茶が染み出す様子を観察しながら調整することが必要だ。例えば1煎目がやや苦い場合、2煎目は短めに入れるように工夫することがある。

 

 お茶を飲むことは、お茶自体の良さを飲む人に感じさせることに加え、人々に新たな交流と発想を生じさせる。飲んでいくうちに、リラックス感と酔ったような感覚が生じ、話が弾みやすくなる。中国茶同好会が2018年9月に設立された当初、磯さんらは「中国茶」に興味がある少数の人たちの集まりになると予想していたが、茶会を開いてみたところ、お茶への興味がある人にとどまらず、気軽におしゃべりをしたい人や留学生と交流してみたい人、中国の文化に関心がある人などが集まってきたという。中国以外の留学生も多く参加し、茶会も文化交流の場に変化してきた。多様な人々が参加し、いろいろな人と出会えるのが茶会の意義でもある。

 

 中国茶同好会の主な活動は、月に2~3回の定期茶会やお茶の専門家による講座、紅茶同好会との合同茶会の開催のほか、中国茶店の訪問、学園祭の出店などがある。茶会では中国各地の各茶種を可能な限り満遍なく楽しめるよう努める。学園祭では貴州省日本観光センターや日本雲南聯誼協会と連携し、中国の少数民族の伝統衣装・民芸品の展示や、自然や生活風景を写した写真展を行った。今後は、茶学科が存在する浙江大学のお茶サークルと合同イベントを開く予定だ。

 

 中国茶同好会は中国茶の愛好家を増やし、日本における中国茶の輸入量の増加と単価の低減を目標の一つとする。中国の花の香りと甘味が特徴的な緑茶や、酸味が効き渋味が少ない紅茶などがほとんど日本に輸入されていないのが現状だ。

 

 中国茶は型にはまった入れ方にこだわらないからこそ、愛好家一人一人の調整が醍醐味になる。中国茶同好会が貴重な交流・探究の場を提供してくれた。

 

磯 尚太郎(いそ・しょうたろう)さん (養・4年)
三浦 駿人(みうら・はやと)さん
(法・4年)

この記事は2020年1月14日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を公開しています。

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