寺田行範特別研究学生(医学系研究科)らは、小児の悪性脳腫瘍の病態を解明した。新たな治療戦略も開発しており、他の小児がん治療への応用が期待される。成果は3月5日付の米科学誌『セル・リポーツ』(電子版)に掲載された。
主に3歳未満の小児に起こる非定型奇形腫瘍/ラブドイド腫瘍(AT/RT)は、子供の患者の半数以上が1年以内に死亡する、最も悪性度の高い脳腫瘍。ほぼ全ての患者に、細胞増殖を制御するSMARCB1遺伝子の異常が見られることが知られているが、その原因や治療法は明らかにされていなかった。
寺田特別研究学生らは今回、ヒトの未分化のiPS細胞にSMARCB1遺伝子の異常を加え、免疫不全マウスの脳に移植。ヒト細胞によるAT/RTモデルの作製に世界で初めて成功した。このモデルからは、大人の悪性脳腫瘍患者にも見られる、多様な細胞に分化できる万能細胞に似た遺伝子の発現パターンが確認された。
さらに、AT/RT患者の検体では、この遺伝子発現が成人の悪性脳腫瘍患者より顕著に起こることを発見。別の特定の遺伝子を破壊または抑制すれば、この遺伝子発現を抑制し、AT/RT細胞の増殖を抑えられることを突き止めた。
同様の顕著な遺伝子発現は、他の代表的な小児がんにも共通して見られた。その一つである神経芽腫でも細胞増殖の抑制に成功しており、子供の多様ながんの治療に応用が期待される。