東大入試の結果が発表されて4日がたった。手にした合格を喜ぶ人がいる一方で、合格には一歩及ばず失意に沈む人もいるだろう。ここでは浪人と進学で迷う受験生や、他大学に進学した時の将来を不安に思う方に向けて、「東大不合格のその後」をお伝えしたい。東大に落ちて他大学に進学した3世代の方々に、その後の生活と不合格に対する心境をインタビューした。
(取材・松崎文香)
春藤優(しゅんどう・ゆう)さん
2016年に文Ⅲを受験するも不合格。同年、早稲田大学法学部に入学し2020年に卒業。現在は早稲田大学大学院に所属している。
東大は文Ⅲ[i]を、早稲田大学は法学部を受験されたのですね
文学部と法学部で迷っていたんです。文学部に入ったら、メディアやナショナリズムについて研究したいと考えていました。東日本大震災の後に国中で「絆」ということがしきりに叫ばれましたよね。そんな中、男性アイドルグループ「嵐」の関係性が「絆」や「ふるさと」と重ねられ、「国民的アイドル」の地位を確立したように思えました。私は「嵐」のファンだったので、自分の好きなものがナショナルな象徴として消費されるのが嫌だった。それを機に、東大でメディア研究をしてみたいと思うようになりました。法学部を受験したのは、職業として弁護士を視野に入れていたからです。
早稲田大学に入学してからはどのように過ごされましたか
入学後はセクシュアルマイノリティーやジェンダーに関する活動を始めました。高校時代から学びたいとは思っていたのですが、入学当初はLGBTQ[ii]のLが何を指すかも知らないレベルでした。一年の新歓期に「ダイバーシティ早稲田」という、LGBTQ支援センターの設立を大学に求める団体に誘われ、そこで知識がつきました。5月頃に勉強会を通じて社会問題を扱ったイベントを開催するサークル「qoon」に出会い、本格的に活動を開始しましたね。
大学2年時には、学内にアライ[iii]を増やし、セクシュアルマイノリティーが過ごしやすい環境を作ることを目的に「WASEDA LGBT ALLY WEEK」というイベントをqoonで企画し、トークショーなどを主催しました。
ちょうどその頃、ニューヨークで開かれる国連女性地位委員会(CSW)の会議が若者の参加を募集していることを知り、応募してみたら選考に通って。そこで「ちゃぶ台返し女子アクション」という性的同意[iv]の概念を広める団体に出会い、早稲田にもそうした団体が必要だなと感じました。会議に参加していた若者たちが自分で団体を設立していたことが「自分もできる」という自信につながり、3年の秋頃、早稲田大学における性暴力の根絶を目指す「シャベル」という団体を作りました。
現在大学院で法律の研究をされていますが、どのように進路を決めたのですか
LGBTQの権利保護やフェミニズムの活動をしていたので、4年間社会運動というものとの距離が近くて。社会運動をする立場から見ると、法解釈の授業で学ぶような法律に対して納得いかない点が多々あったので、そうした点について深く考えたいと思っていました。当時はロースクールに進学して弁護士になろうかなと思っていたのですが、4年次のゼミの先生が大学院で法律を研究する道があることを教えてくださり、大学院に進学しました。
仮に東大に進学していたら、大きく違っただろうなという点はありますか
文Ⅲに入ったら今のように法律の勉強はしていなかったと思います。もしかすると、セクシュアルマイノリティーやフェミニズムの活動もしていなかったかもしれない。早稲田で活動する上で、サークルや人との出会いはかなり大きかったのですが、そうした出会いは偶然に左右されるというか。たまたま声をかけられたとか、検索したら上に出てきたとか、そういうことで決まることも多いと思うんです。
法研究の進路を教えてくださった早稲田の先生とも出会ってないし、普通に就職していたかもしれません。だから、東大に進学していたら大学生活も進路も全然違ったんじゃないかな。
東大に入れなかったことに対する気持ちの変化はありましたか
当時はもっともな理由を見つけることで、気持ちに整理を付けようとしていました。「そんなに受かるとも思ってなかったし」とか、「失敗という良い経験だと思おう」とか。でも本気で目指していたのにダメだったわけですから、やっぱりショックだったのだと思います。
受験に限らず挑戦しても結果が出ないことは多々あると思います。例えば小学生の時リレーの選手になれなかったとか、悔しい思いをしたことって多々あると思うのですが、それを引きずりながらは暮らしていない。今は東大受験もその一つとして、「そういうことってあるよね」と受け入れられています。
今年東大に合格した人と不合格になった人、それぞれに向けてメッセージを
合格した人に向けて…。男性諸君にとって東大はすごく楽しいと思いますよ(笑)。女子学生は少ないし大変だと聞きますけど、優秀な研究者や学生がいるとか東大が保有する研究施設などの点では同じなので、そういったリソースを是非使い倒してください。人との出会いや学問的にも、「大学って世界が広がるなあ」と私は感じましたね。
不合格になった方は、なぜ東大に行きたかったのかを考えてみると良いと思います。日本を代表する研究者がたくさんいるなどの理由だったら、東大じゃなくても手に入るものも多いです。自分の望まない大学や学部に進学したとしても、そこで思いもよらなかった出会いがあるかもしれません。
大学受験は12話のドラマだったら最終話に来るようなエピソードだと思います。でも、人生という視点でみると、全然最終回じゃない。恋愛ドラマでは告白のシーンが最後にくるけど、恋愛いうものがそれで終わるのではなく、むしろそこから始まるのと同じです。大学生活のプロローグでもあるし、人生1000話の物語の中ではまだ100話くらいで、道半ばとも言える。
「人生って続くじゃん」と、受験を終えた皆さんに言いたいですね。
第3回は、1977年、78年に理Iを受験するも不合格となり、早稲田大学に入学。卒業後は三井物産に入社された鴨下隆一さんが、東大不合格を振り返ります。
<注>
[i] 文学部や教育学部に進学する人が多い。法学部に進学する人の多くは文Ⅰに入学する。
[ii] レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーをはじめとするセクシュアルマイノリティの総称
[iii] LGBT当事者の支援者、理解者のこと。Ally
[iv] 性的な行為に対して、その行為を積極的にしたいと望むお互いの意思を確認すること
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