「三度の飯より勉強」、それが受験生のあるべき姿だと思っていませんか? しかし、実際は「食事」の内容や方法こそ、みなさんのコンディションを支え、合格へと導く鍵かもしれません。今回は、受験直前の体調管理に「食事」がいかに大切か、食育専門家・浜田峰子さんにアドバイスをいただきました。
(取材・曽木悠美)
浜田峰子(はまだ・みねこ)さん (食育専門家)
「美味しく楽しく 笑顔は食卓から」をコンセプトに、食の専門知識を生かし農林水産省の各種委員や学校にて産学連携特任教授を務める他、本の執筆やTVコメンテーターとして各メディアで活動。生涯食育セミナーや食を通じた地域活性化にも精力的に取り組んでいる。著書に「浜田峰子のらくらく料理塾」など。
──受験生にとって「食事」の重要性は
受験生は、常に脳をフル回転させていますから、「脳に必要なエネルギーを切らさない」ことがとても大切です。「食事」は脳に栄養を届け、集中力・記憶力・やる気に大きく影響しますから、食べる間を惜しんで勉強に励むのは、実は効率が悪いことです。世界保健機関(WHO)も「食事の中身で、人間の知的生産性が大きく変わる」というレポートを出しているくらい「食事」の内容や方法はとても大切です。
──受験生が最高のコンディションで試験を迎えるためにはどうすれば良いのでしょう
「1日3食」を欠かさないことが重要です。当たり前のように思われるかもしれませんが、これにはとても合理的な理由があります。
体の免疫や機能を調節するビタミンやミネラルは体内に8時間ほど滞在します。また、消化に必要な時間も8時間ほどです。つまり、3食×8時間=24時間。1日の体を支える栄養を効率よく充足させるためには3回の食事が必要です。朝食べたものが日中の体を動かし、日中に食べたものが夜の体を作り、夜食べたものが寝ている間と翌朝の身体を支えるのです。
脳を健康的に働かせるためには、「炭水化物」「タンパク質」「脂質」とそれらが効率よく機能するために必要なビタミン・ミネラル類をバランス良く含んだ食事をとることが大切です。よく言われている「頭を使う=甘いものが良い」は必ずしも正解ではありません。パンやお菓子を食べ過ぎると、栄養の偏りでかえって体調を崩してしまいます。
──コンディションを保つために効果的な「食事」の工夫は何ですか
「よく噛んで食べること」です! 意外かもしれませんが、実は噛むことは、脳にとても大切な刺激なのです。
よく噛むことそれだけで大きく三つの効果が得られます。まず一つ目は、脳内の神経伝達物質の働きが良くなり、高いリラックス効果を得られるため、ストレスが緩和されることです。二つ目は、歯が噛み合わさる刺激で脳が活性化し、集中力・記憶力・やる気がアップすることです。三つ目は、唾液がよく出るので消化・吸収が良くなり免疫力が上がることです。
多くのプロのアスリートも「よく噛むこと」を徹底しています。受験生の皆さんは言わば「勉強界のアスリート」ですから、ぜひよく噛むことを意識してコンディションを整え、試験当日に最高のパフォーマンスを発揮して下さい!
◆自然に噛む回数が増える食事のポイント◆
・かみごたえのある食材を使う(硬い・繊維が多い・弾力性がある物)
・素材を大ぶりに切る
・加熱調理する
・水分を少なめにする
・複数の素材を組み合わせる
・薄味にする
──夜遅くまで勉強することも多い受験生に、おすすめの「夜食」を教えてください
夜遅くまで勉強をしているということは、夜遅くまで脳がエネルギーを消費し続けているということ。受験生が夜に「お腹が空く」と感じるのは、実は「脳がエネルギー切れを起こしている」サインです。夜食はお腹を満たすためではなく、少量で脳へ効率良くエネルギーを補給することを目的にしてください。
このような組み合わせの夜食がおすすめです。「脳に必要な栄養(「炭水化物」「タンパク質」「脂質」とそれらが効率よく機能するために必要なビタミン・ミネラル類)をバランス良く含んだ消化しやすい食べ物+噛み応えのあるもの+温かい日本茶」です。例えば、ご飯と魚と野菜とごま油を使ったお粥に、あえて歯ごたえと酸味のあるお漬物を添え、茶葉から急須で入れた温かい日本茶(緑茶)といった組み合わせです。おにぎりやうどんなどが夜食の定番ですが、カロリーが高かったり、栄養が偏ったりするので、おすすめはしません。
ちなみに、温かい日本茶は、茶葉から急須で入れたもののほうがペットボトルより約5倍のお茶本来の栄養が取れます。すぐに眠りたいときはカフェインの少ない「ほうじ茶」が良く、まだ勉強を続けたいときは眠気が覚めるカフェインと風邪予防にもなるビタミンCを含む「緑茶」を飲んでリフレッシュするのが良いでしょう。
──受験直前に注意すべきことを教えてください
消化不良の要因になったり、食あたりのリスクも高いので、受験の時期の生ものには注意が必要です。なるべく火を通したもので、消化しやすい食事が良いでしょう。
また、便秘にも注意が必要です。受験期には男女関係なく便秘に悩む人が多いのです。便秘が続くと腸内の栄養吸収が悪くなり、血行不良や自律神経の働きの乱れから、集中力・記憶力・やる気の低下につながります。冬場は、寒さが内臓の働きを鈍くし、乾燥が体から水分を奪います。試験中にトイレに行きたくないからと水分をとらないと、かえって便秘になります。便秘を防ぐには、体を温め、こまめに水分補給をし、食物繊維の豊富な旬の野菜を食べることがおすすめです。
──最後に、受験生へのメッセージをお願いします
自分の体は、自分が食べたものでできています。食べるものの選択、その繰り返しが、明日と未来のあなたを作るのです。あなたの合格の先にある叶えたい未来、そのために今日食べるものを鋭意選択してください。あなたの明日と未来のために、このアドバイスが少しでもお役に立てることを心より願います。受験生の皆さんへ、幸多からん事を。
※この記事は、2018年公開の東大新聞オンライン記事からの転載です。
【受験生応援2019】