加藤一希特任講師(東大先端研)らは、マサチューセッツ工科大学との共同研究で、原核生物の生体防御機構に関与するCas7-11-Csx29複合体が、標的RNAとの結合により活性化してCsx30タンパク質を切断するRNA依存性タンパク質分解酵素(プロテアーゼ)であることを発見した。標的RNAが結合するとCsx29タンパク質の立体構造が変化することも明らかにした。標的RNAの検出などさまざまな技術への応用が期待される。成果は11月3日付の米国科学誌『Science』オンライン版で発表された。
ウイルス由来のRNAやDNAを分解する原核生物のIII-E型CRISPR-Cas酵素のCas7-11は、標的RNAと相補的な配列を持つ短いRNA断片(ガイドRNA)と複合体を形成し、それを元に標的RNAを切断するRNA依存性RNA切断酵素(ヌクレアーゼ)としてはたらく(図1)。
原核生物の遺伝子にあるIII-E型CRISPR-Cas領域からは、Cas7-11に加えてCsx29、Csx30など抗ウイルス防御に関係すると示唆される5種類のタンパク質が作られている。Csx29は既知のプロテアーゼと似たアミノ酸配列を持ち、Cas7-11と複合体を形成することが分かっていたが、その機能は不明だった。
研究では、Cas7-11はガイドRNAおよびCsx29と複合体を形成することを発見。ガイドRNAと相補的な配列の標的RNAが複合体に結合するとCsx29が活性化され、Csx30を二つに切断して機能を制限することを示した。
また、クライオ電子顕微鏡を用いて「Cas7-11-ガイドRNA-Csx29複合体」および、そこへ標的RNAが結合した「Cas7-11-ガイドRNA-Csx29-標的RNA複合体」の立体構造を明らかにした。それらの比較から、標的RNAが結合するとCsx29の立体構造が変化してCsx30を切断する活性を持つことが示唆され、Cas7-11-Csx29複合体がRNA依存性ヌクレアーゼとして機能する分子機構が明らかになった。
ガイドRNAと相補的な標的RNAが存在する場合のみCsx29がCsx30を切断することを利用して、標的RNAの存在を蛍光として検出することにも成功。ヌクレアーゼとプロテアーゼの二つの性質を持つRNA依存性酵素は前例がなく、新規技術への応用が期待される。
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