東大生のコンサル人気が止まらない。
東大新聞とNewsPicksが東大生約300人を対象に行った調査では、民間企業への就職を希望する人のうち約16%がコンサルティング・シンクタンク業界(以下、コンサル)を志望しており、IT・通信業界の約17%に次ぐ一大勢力になっている。
また、就活情報サイトONE CAREERが行った調査では、東大生・京大生の間での人気企業上位20位中11社をコンサルが占めていて、これはコロナショック後も変わらない。
大学生一般でのコンサル志望は全体の1.4%にとどまる(マイナビ調査)ことから、コンサル人気は東大生など高偏差値帯の学生に特有な現象だといえるだろう。
このような東大生のコンサル人気はどこから来ているのか。コンサル企業と東大生のマッチングはうまくいっているのか。さまざまな調査や証言から探りたい。
直近5年間で急激な増加
今回の調査によると、民間企業への就職を希望する約200人の東大生のうちコンサルティング・シンクタンクを志望するのは約16%で、IT・通信の約17%に次ぐ2位。これにマスコミ・広告(約14%)、金融・証券(約12%)が続く。
所属する学部の属性によって文理の比率を計算すると、若干理系より文系の方が多かった。男女差は見られなかった。
東大新聞では毎年、その年の卒業者の就職先を集計して上位20位までを公表している。そのデータをひもといてみよう。
2000年3月卒業者から2020年3月卒業者までの約20年間で上位20位までに入ったコンサル業界の企業数を見ると、2016年以降、急激にコンサル企業に就職する東大生の数が多くなったことがわかる。
最新の20年3月卒業者では、学部卒業者で5つ、大学院卒業者で4つがランクインしている。
東大生とコンサルは本当に相思相愛か
ここまで東大生の間でコンサル人気が高まると気になるのが、コンサル企業各社における新卒採用人数のうち、東大出身者がどれほどの割合を占めるのかということだ。
そこで、2020年3月の学部・大学院卒業者のランキング50位までの企業と主要なコンサルの新卒採用人数を調査し、占有率の高い順に並び替えたのが次の表だ(20年3月の新卒採用人数が不明の場合、前年や前々年のデータを準用して概算の数字を用いている)
新卒のうち東大生が1割以上を占める企業は、うち16社となった。
半数以上を東大生が占めるA.T.カーニーやマッキンゼー・アンド・カンパニーをはじめ、三菱総研やPwCコンサルティング、デロイトトーマツコンサルティングといったコンサルが名を連ねる。
占有率5%以上に広げてみると、野村総合研究所やアクセンチュア、大和総研もランクインする。やはり、東大生はコンサル企業にとって需要があり、かつ実際に手に入れている存在だといえそうだ。
では東大生にとって各コンサル企業はどう見えているのだろう。
今回NewsPicksと東大新聞が共同で行った調査ではコンサル志望の東大生のみを対象に、コンサル業界の各企業に対する志望度合いを4段階で聞いた。その平均値をまとめたのが以下の表だ。
この結果を見ると、東大生がコンサル企業ごとの志望度合いが露骨に現れている。まず、マッキンゼー・アンド・カンパニー、ボストン・コンサルティング・グループ、ベイン・アンド・カンパニーといういわゆる「戦略コンサルBIG3」に対する志望度は平均が4点中3点を超え、ずば抜けている。
対して、PwCコンサルティング、アビームコンサルティング、デロイトトーマツコンサルティングといった総合コンサルティング企業に対する志望度は2点台前半と高くない。日本総研や大和総研といったシンクタンクも同様だ。
それにもかかわらずアクセンチュアや野村総研は平均が2.5点を超え、同じ総合コンサル・シンクタンクに分類される他社と比べても東大の就活生に人気があることがわかる。
これを先ほどの東大生占有率と突き合わせてみると、新卒採用者に占める東大生の割合が高いからといって東大生に特に人気があるわけではないことが分かる。
東大生占有率が1割を超えるローランド・ベルガー、PwCコンサルティング、デロイトトーマツコンサルティング、KPMGコンサルティングの4企業は東大生の志望度平均が4点中2.5点に達していない。特にデロイトトーマツコンサルティングは2.06点と調査対象の企業の中で最も志望度が低い。
東大生とコンサル業界全体は「相思相愛」だとしても、業界内の各企業では志望度に違いがある。東大生もいわば「妥協」で企業を選んでいる可能性が高い。
「かっこいいから」コンサル?
相思相愛の企業に進めないとしても、東大生はなぜコンサル業界を志望するのだろうか。
東大生がコンサルを志望するのは「かっこいいから」「みんなが目指すから」といった漠然とした理由なのではと指摘する向きもある。本当にそうなのだろうか。
調査では自由記述式でコンサルを志望する理由について聞いている。そこには「いろいろな業界に携われる」「BtoBを知る(ことができる)」「大企業の経営課題解決に携わることができる」といったコンサルの業務に関する志望理由もある一方で、「能力があれば相応の収入を約束され、また転職もしやすい」「自己の成長の機会がある」「転職ができる」といった、自らの成長機会や転職のしやすさを挙げた志望理由も目立っていた。
そこで今回は、コンサル志望の東大生2人を直接取材し、志望する理由やきっかけについて聞いた。
Aさんは「30歳までに経営的なセンスを磨いて個人として付加価値を与えられるようになる」ための有力な選択肢として、Bさんは「ベンチャー企業の支援という将来関わりたい事業に進むための第一歩」としてコンサルを見すえている。
コンサル後の業界について明確か不明確かという違いはあれど、2人に共通していたのはコンサルをあくまでファーストステップとして捉える考え方だ。
データを見ても、転職ありきのファーストステップとしてコンサルを捉えていることが確認された。定年退職まで同じ企業で働くことを見すえるとする割合は9.4%にとどまる(非コンサル志望では30.1%)ほか、就職活動の時にセカンドキャリアを意識する割合は93.8%にのぼる(同75.3%)。
つまり、新卒で入社した企業を最初のステップとみなす傾向は他業界志望より強い。
また、コンサル志望学生の志望度、業界理解度はともに非コンサル志望より統計的に有意なレベルで高い。最優先業界としてコンサルを選ぶ人は、他業界志望者より仕事に対する明確なビジョンを持っていると考えられる。
より踏み込んで分析すると、コンサル志望の東大生は自らを何らかの仕事で専門性が高い”ジョブ型人材”に転換するための場所としてコンサルを捉えていると考えることができそうだ。
コンサル志望の東大生のうち、社員の配属や異動は基本的に会社が決めるメンバーシップ型と比べて、自ら特定の職を志願するジョブ型が魅力的だとする人の割合は75.0%(非コンサル志望では51.8%)にのぼっている。
大学でジョブ型人材となるための教育が受けられるかどうかという設問に対し、コンサル志望は59.4%が否定的(非コンサル志望では54.8%)、キャリアにとって大学教育が有用か聞いた設問では30.3%が否定的(同23.2%)で、コンサル志望は大学教育の役割に対して否定的な立場をとる傾向にあった。
企業選びのポイントとして「自分の成長が期待できること」を挙げる人の割合がコンサル志望ではそれ以外より約30ポイント高いことからしても、コンサル志望の東大生はジョブ型人材として生き残っていくために成長を求め、その場を大学ではなくコンサル業界に求めていると考えられる。
いわば、東大生のコンサル志望は「ジョブ型雇用の申し子」なのだ。
コンサルは「安定」か「挑戦」か
この見方は、東大生全体の傾向とも符合する。
連載第1回では、東大生のキャリア観が変化しつつあることを取り上げた。大企業に入ってその従業員として安定的な人生を歩むというこれまでの「東大生」像とは違い、東大生は自分のやりたい仕事をするために働こうと考えていて転職や起業といったキャリアチェンジをいとわない。いわば、ジョブ型が広がる中で「新たな安定」を得ようとしている。
コンサルはこれを実現するために格好の業界だが、自らの能力を発揮できないリスクも伴う。人生にとって安定と挑戦のどちらが重要か聞いた設問では、コンサル志望はそれ以外に比べて有意に挑戦を志向していたが、これはリスク選好的であることと密接につながっている。リスクなくしてリターンもない。「新たな安定」というリターンを得るために、東大生はリスクを取っていると言えるだろう。
「みんなが目指す」言説の構造
では、なぜ東大生が「かっこいいから」、「みんなが目指すから」コンサルを目指すと思われているのか。それは、選考時期や内定付与時期の都合上「力試し」として受けているからである可能性が高い。
2019年3月に東大新聞が独自に、当時就職活動中だった2020年3月卒の東大生を対象として行った調査によると、民間企業への就職を希望する学生の約4割が「就活解禁日」とされる3月1日時点で企業から内定を付与されていた。そしてそのうち4分の3はコンサルから内定を付与されている。
ここで特筆すべきは、コンサルから内定を付与されていた人の約3割は志望業界(この調査では複数選択が可能だった)にコンサルを挙げてすらいないことだ。
また「コンサル」だけを志望業界として挙げている人はコンサルから内定を付与された人の約1割にすぎず、過半数にとってコンサルはあくまで他の業界と併願する業界にすぎない。
このような状況を生み出しているのは、コンサル業界の採用活動が特異だからだ。ある企業では「就活解禁日」より半年以上前の夏休みに実施されるインターンシップ(学部卒の場合、3年生の夏に参加することになる)からのみ採用する職種が存在するほか、同時期のインターンシップ経由でしか採用を行わない企業さえ存在している。
実際、同調査で聞いた夏のインターンシップ平均参加社数はコンサルの内定を付与された人で5.8社、そうでない人で2.9社と大きく差がついている。コンサル内定者は比較的早い時期から就職活動を本格化させていることがうかがえる数字だ。最初に内定を付与された時期を聞いた設問でも、コンサル内定者の約3割が大学3年生の夏休み中までに内定を付与されたと答えている。
つまり、就職活動の動き出しの早い層が「力試し」としてコンサルのインターンシップに参加し、実際に内定獲得にまで至っている。そして、それに影響された周囲の東大生もコンサルの選考に参加する。コンサルを東大生「みんなが目指す」構造はこんなところだろう。
この調査で志望業界(複数選択可)としてコンサルを選んだ人は全体の39.8%で、就職活動を行っている人の約4割がコンサルを選択肢に入れていることがわかっている。また、コンサルを志望業界に入れていなくても内定を付与されている人がいることは先に紹介した通りだ。しかし、今回の調査では第一志望業界としてコンサルを選んだ人は16%に止まっていて、両者の差分にあたる全体の2割強は「流行に乗っているだけ」と言われても否定はできまい。
「とりあえず」コンサルは本当か
今回話を聞いたAさんのように「自らのやりたいことが明確ではないからいったん新卒でコンサルに」と考える東大生は確かに多い。
将来について不安なことを聞いた設問(複数選択可、上限なし)では「やりたいことが見つからない」と答えた人はコンサル志望の40.6%にのぼり、非コンサル志望の30.3%より約10ポイント高い。将来やりたい事業領域が明確であるBさんでさえ「コンサルでロールモデルを探したい」と語っている。
やりたい仕事の明確度について1〜5の5段階で聞いた設問でも、コンサル志望の平均は3.09、非コンサル志望の平均は2.88で、一見コンサル志望の方がやりたい仕事が明確に見えるが、統計的に有意な差ではない。
これらのデータや調査に基づくと「とりあえず」コンサルを目指すという層の存在は、確かに否定できない事実だろう。やりたいことが見つからなかったり将来の仕事像が明確でなかったりするものの成長の意欲はある、そんな人がコンサルを目指すのだ。
やりたいことやロールモデルを見つけながらジョブ型雇用を生き残るスキルを身につけられる……。そう考えれば、やりたいことのない新卒にとってこれ以上の環境はない。
しかし、本当にやりたいことはコンサルで見つかるのだろうか。結局のところ、入ってみないとわからない。
コンサル志望の東大生の迷いが消える日は来るのだろうか。
※この記事は2020年11月に経済メディアNewsPicksで公開した記事を再編集したものです
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