文化

2023年12月12日

キャンパス清掃を担う影の仕事人 環境整備チームの活動に密着

東大 銀杏

 

 キャンパスに敷き詰められた黄色いじゅうたんに、辺りに立ち込める銀杏のにおい。毎年見られるおなじみの情景だ。東大の名物ともいえるイチョウや、ケヤキなどの落葉樹。その落ち葉を回収する人たちの存在を気に掛けたことはあるだろうか。キャンパス内の清掃を担うのは知的障害者のスタッフとそのサポートを行うコーディネーターからなる施設部保全課環境整備チームだ。彼らの仕事に密着し話を聞いた。(取材・佐藤健)

 

1年で25メートルプール2杯分! 落ち葉の清掃活動

 

 「周りを見て、気を付けながら今日も清掃に取り組みましょう」。本郷キャンパス工学部3号館横の建物の外で声が響く。午前9時半。環境整備チームの仕事はミーティングから始まる。声を掛けながらストレッチを実施し、清掃場所の確認、ゴミ袋やちりとり、ほうきなどの清掃道具を用意して自分の道具ほうきがあるかを確認すると清掃に出発する。出発後、チームは中央食堂近くのローソン裏の倉庫からリヤカーを取り出し、グループごとに分かれて持ち場へと向かう。

 

ストレッチ
朝のミーティングでのストレッチ

 

 大学病院が並ぶ龍岡門(たつおかもん)に通じる通りを担当するグループに同行した。コーディネーターが道端に落ちた包装紙などを拾いながら龍岡門まで歩いていく。道中、コーディネーターの比田井真(ひだいまこと)さんに話を聞いた。

 

 本郷キャンパスの環境整備チームは15名の知的障害者のスタッフと、そのサポートを行う9名のコーディネーターからなる。清掃はチームを三つほどのグループに分け、平日の午前と午後の2回行う。環境整備チームが清掃を担当するのは本郷キャンパスの建物外などの共用部が中心。清掃場所は毎日落ち葉の量などを見てバランス良く決定され、落ち葉が多い正門から安田講堂にかけての通りやキャンパス外の大通りの清掃は週に1度程度実施されているという。業務は落ち葉の清掃だけではない。キャンパス構内に設置されたゴミ箱のゴミの回収と分別や三四郎池の排水口の清掃なども行い、夏には落ち葉拾いの代わりに草むしりもするなど1年を通して清掃活動を行う。「最近は観光客も戻ってきていて、邪魔にならないように清掃しなければならないので気を使います。ゴミ箱に捨てられているゴミの量も増えましたね」

 

 龍岡門に到着後、清掃が開始された。清掃は龍岡門近くから来た道を戻りながら実施される。コーディネーターがスタッフに指示を出し、皆でほうきを使って落ち葉を回収していく。落ち葉の量が多い場所を担当したスタッフをグループの他のメンバーが手伝い、20分ほどで一段落ついた。休憩を挟みながら2時間ほどかけて清掃が実施される。

 

清掃中のスタッフ

 

 休憩中のスタッフの1人にも話を聞いた。障害者グループホームで生活し、好きな作業は赤門の石庭作り。週末は仲間とドラムやバスケットボールをすることが楽しみだ。昔はスペシャルオリンピックスという障害者向けのスポーツ団体でボウリングに参加していたこともあったという。

 

 毎回の清掃で落ち葉はどのくらいたまるのだろうか。去年の11月には落ち葉を集める90リットルのゴミ袋が1日で平均して50枚ほど使われ、昨年度の1年間では落ち葉や銀杏などを合わせて、25メートルプール2杯ほどのゴミを回収した。落ち葉は基本的に業者によって廃棄処分されるが、並木道の土の上など、通行人の邪魔にならず落ち葉が分解される場所に捨てることもある。駒場キャンパスではバイオネストという堆肥に再利用する仕組みも導入されているという。

 

ゴミ袋
回収した落ち葉は第二食堂前に集められる

 

障害者雇用を担うチーム 「定年まで気持ちよく働ける環境を」

 

 環境整備チームは障害者雇用を増やすために2006年に設置された。障害者雇用促進法によって各企業は常用労働者に対する障害者の労働者の雇用の割合を一定以上にすることが定められている。東大は2004年以降、国立大学法人化に伴う算定方法の変更もあり障害者雇用率が約1.4パーセントと基準値以下に落ち込んでいた。その改善のため雇用実績のなかった知的障害者の雇用施策として環境整備チームが発足した。年を追うごとに障害者雇用率は上がっており、東大には現在2.6パーセント以上が求められる。重度の障害者の場合は雇用率の算定人数を増やせられるということもあり、環境整備チームには重度の知的障害者のスタッフも多い。東大には、環境整備チームと同じように障害者が施設内の清掃や交通整理などを行うチームがあり、障害者雇用の一端を担っているという。

 

協力して清掃を進める

 

 清掃終了後、ミーティングを行った建物の内部を訪れた。清掃終了後のスタッフたちが午後の業務に向けて休憩を取ったり、コーディネーターがスタッフの話を聞きケアをしたりする様子が見られた。「くまなく掃除できているかを気にするのではなく、スタッフや周りの人たちの安全、体調管理を気に掛けて彼らができる範囲で心地よく仕事に取り組めるように意識しています」。午前の清掃開始時のミーティングや午後の清掃終了後のあいさつなどのルーティンが心の安定につながって大切なのだという。チームの発足当初から働いている人が多い。「定年まで気持ちよく働ける環境が続くようにしたいです」

 

環境整備チームの拠点

 

 「普段取り上げられることなんてめったにないですから」。キャンパスの清掃を担う環境整備チームは、スポットが当たることが少ない影の仕事人だ。この記事を読んだ人が、東京大学環境整備チームと背中に書かれた青い作業着を着た人が清掃をしている場面を見かけたときはその活躍をぜひ思い出してほしい。

 

比田井 真(ひだい まこと)さん

東大施設部保全課環境整備チーム(本郷地区)特任専門員(コーディネーター)

 

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