「矢口太一の名刺アタック」第4回へようこそ!今回は三重県知事・鈴木英敬さんへの名刺アタックをご紹介します。
鈴木英敬 三重県知事
鈴木英敬さんは東大経済学部を卒業後、通商産業省(当時、現・経済産業省)に入省。第1次安倍政権では官邸スタッフとして活躍。自民党公認候補として2009年の衆議院議員総選挙に旧三重2区から出馬も落選。2011年の三重県知事選挙で当選し、現在3期目。知事としてG7伊勢志摩サミットを誘致するなど活躍。小学校のころの夢は内閣総理大臣。
筆者・矢口太一について
筆者・矢口太一は新領域創成科学研究科修士1年。高校時代には、小学5年生から続けるセミの研究で、日本学生科学賞 内閣総理大臣賞を受賞。孫正義育英財団1期生。現在は感性設計の研究にも取り組みながら、事業家を志す。この連載では、コロナ禍でも人生の師匠と関係を築く方法をお伝えしています。三重県伊勢市出身。
三重県知事 鈴木英敬
「三重県知事 鈴木英敬」
上京してから、東大の先生からも、友人との会話でも、三重県といえば……(私が三重県出身)という話になるとよく名前が上がっていました。
知事といえば、東京都知事、大阪府知事は有名どころ。でも、それ以外の道府県の知事は名前も顔も知らないという人がほとんどのはず。
コロナ禍で知事の露出は一気に増えましたが、コロナ以前から「うちの知事は有名やなあ」と感じていました。
三重県知事としてG7伊勢志摩サミットを誘致するなど、国政とのパイプも太い鈴木知事。小泉環境大臣や吉村府知事などと並んで、次世代のリーダー格としてメディアでもたびたび取り上げられています。
「政治家」である以上、その判断がすべての人から称賛される立場ではないと思います。ただ、鈴木英敬さんという人物が間違いなく、その世代で先頭を走る先輩であることは間違いありません。
今回の名刺アタックでは、日本の政治家のキーパーソン、鈴木英敬さんへの名刺アタックをお届けします。
知事に研究発表
鈴木知事と初めてお会いしたのは今から5年前の高校2年生の時。私がセミの研究で内閣総理大臣賞を受賞した際に「表敬訪問」という形でお会いしました。
「貫禄のある人だなあ」
そんな第一印象を受けたことを今も覚えています。
実は私、ずっと前から鈴木知事に会いたかったのです。
中学3年生の頃のエピソードです。
内閣総理大臣賞を受賞する以前、全国規模のコンクールで通用する研究をするには、(セミの飛行を撮影する)ハイスピードカメラが何としても必要だ! と考えていました。中学3年生の当時は、中学校の理科の先生に借りた趣味のカメラで何とか研究していました。
しかし、1台数百万〜数千万円もするハイスピードカメラはお小遣いでは到底買うことはできません。色々と調べた結果、三重県の工業試験場?(だったと記憶しています)に1台だけあるといいます。
鈴木知事に直談判して「ハイスピードカメラ貸してください!!」と言いに行こう!
中学3年生らしい(?)ぶっ飛んだ思い付きで、中学校の校長室に向かいました。
「校長先生! 鈴木知事に会いたいので、先生からお願いしてくれませんか?」
今となっては意味不明ですが、今とは違い頼れる先が何もない中での必死に考えた方法だったのだと思います(その点、東大生ってすごい!ハイスピードカメラだって研究室で使える!!)。
こんな僕の頼みを校長先生は聞いてくださって、県へお願いをしてくださったのです……!
しかし「知事は忙しいから無理!」という当たり前の返答が……
鈴木知事の耳には一切届いてないはずですが(笑)、こんな出来事があったので、実際に研究発表した時はなんだか達成感があったのを覚えています。
そして5年後
そして時は流れ、私は大学4年生に。
このコロナ禍の中で、特に大学の新入生はリアルであったことのある人は片手で数えるほどしかいない……そんな方が多い。そうした新入生の皆さんの1人でも多くの方に「こうやって人と会いに行けるんやで!」と伝えたい、そんな思いで本連載を始めました。
鈴木知事とは5年前に「名刺交換」をしているので「コロナ禍でも会いに行ける!」という趣旨からはルール違反ですが(笑)、鈴木英敬さんとのやり取りはぜひともお届けしたいと思い、今回は特別にご登場いただきました。「どうしたら鈴木英敬さんになれるの?」をテーマに名刺アタックです!
お久しぶりです!セミの名刺をお渡ししたのは5年前だったかと……
懐かしいなあ。大きなったなあ。
今回の連載の趣旨や、コロナ禍での状況を話すと、鈴木知事は自身の東大生時代を振り返ります。
確かに、僕の大学1年生のときを振り返えると、テニスサークルとバイトばっかりやってたなあ。今コロナでこういうサークル活動もバイトもできへんやん。やから、友達できへんとか、社会から取り残された感じになるのわかるわ。
僕ら文Ⅱやったから、余計に理系の子とかよりも授業とか実験とかあんまないから、すげえゆるかったけど(笑)。それでも、バイトとかサークルとか、もしできんかったら、かなりきつかったね。
え、駒場祭とかもやってないの?まじで!?
今の自分につながった出来事は?
東大行ってからも、三重出身ですって言ったら、鈴木英敬さんとこでしょって。なんでそんなにうちの知事は有名なんだろうってずっと思っていました(笑)。鈴木知事は僕ら東大の先輩でもあるし、こんな風になりたいなと思う憧れの先輩の一人です。
どうやったら英敬さんみたいになれるの?なんていうちょっと学生っぽい疑問をテーマにさせていただこうと思います。
今ご自身で振り返ってみると、今の自分に繋がった出来事ってなんでしょうか。この出来事があったから、今の自分がいるということを挙げるとすると?
そうやなあ。いっぱいある。一番わかりやすいのは、2009年の衆議院選挙で落選したことやね。その当時、自民党公認で出ましたと。旧三重二区から出て、それまでは改革派官僚とか言われて、竹中(平蔵)さん(小泉政権下で国務大臣を務めた経済学者)とかと一緒にやってて、もてはやされていたし。大学は一浪してて、そんときは勉強不足ってわかってたから、あんまショックはなかった。けど、落選した時はほんとに、鼻っ柱の強い若者やったというか、上から目線の人間やったと思うんやけど、それをガツンとやられたね。
あとそれから、矢口くんなんかにいうのは僭越(せんえつ)なんやけど、熱伝導って同心円上に広がっていくから、真ん中が熱くないとうまく広がっていかない。選挙の時に自分は熱いつもりではあったけれども、その近い周りの人たちとかをうまく熱くすることができなかった。その熱を全体にうまく伝えることができなくて落選したということもあったので。 熱伝導のこととか、自分の人に対する礼儀とか誠実さとかをその時に学ばせてもらったから、一番大きかったのはそれかねえ。
もう一つ挙げるとすると、嫁さんと結婚したこと、子供が産まれたことかな。うちの妻(元シンクロナイズドスイミング日本代表の武田美保氏)はオリンピックに参加させていただいてメダル5つ持ってる。こういう稀有な経験した人が活躍し続けられるように、俺も家庭と仕事を両立してかないかん思ってたから。僕は通産省で働いてる独身の時は名刺に年中無休24時間って電話番号も書いてた(笑)。今で言うとワークライフバランスとかはなかったね(笑)。公務員はレスポンス悪いとか言われてたから、そうやってやってたんやけど。結果、知事として育休も取ったし、そういうのも僕だけやし。妻と結婚して価値観がほんとに変わった。
専業主婦的な感じで自分が英敬さんを支えますっていう人と結婚してたら俺ちょっと育休取りますとかそういうのなかったと思う。子供欲しかったんやけど、全然できなくて、それもあって子供産まれた時に、嬉しかったのもあったから育休取ろと思えたし。そういう男としての価値観を変えてもらったのは、妻との結婚と子供ができたことやから。
キャリアとしては落選。プライベートのとこでは結婚と子育て。普通かもしれんけど、そんな感じかなあ。
うちは親父が損害保険の代理店で、母親も共働きで働かないといけないっていう、決して裕福な家庭ではないので。別に政治家も(家系に)誰もいない。でもなんとか勝負どころはパスしてきた。そういう意味では、ガツンといかれたから、落選はやっぱり大きな出来事やったね。
日々の選択の中で大切にしていること
ここまでは、外見(そとみ)の出来事を取り上げていただいたのですけど、中身として、ご自身の価値観とか、日々知事としてもいろんな選択を迫られると思うんですけど、選択をするときにどういうことを大切にしているのでしょうか?
1人の人間としては、仕事の進め方とかでは、今日できることは明日に送らないということ。先送りしないということは、基本的にあらゆる仕事とか、遊びとか、なんでもそうなんだけど。今日やることは今日やる。明日やろうと思ってても、明日やれる環境にあるかはわからへん。明日、東日本大震災のような大災害が起きたら、めっちゃ明日楽しいのやろうと思って取ってたこともできなくなるし、やらなければならないこともできなくなるし。
だから今日できることは全部今日やる。
もう1個は生活習慣を大切にするようにしてるかな。
何時に寝るとか、何時に起きるとか、朝飯食うとか、こういう生活習慣は自分でコントロールできるわけですよ。自分でコントロールできることをコントロールできない人は、夢なんか実現できないですよ。夢を実現するには色んな人のいろんな要素が関わって、関数になってそれを答え出していかなあかんわけでな。外部要因もいっぱいあるし。
生活習慣は間違いなく自分でコントロールできるから。誰かに起きてもらう時間決めてもらうわけでもなく、朝飯食うか食わへんか誰かに決めてもらうわけでもあらへんからな。
だから今も12時より後に寝ることはないですね。いつも5時半くらいに起きてますし。必ず6時間は寝るし、朝飯は絶対食うし、みたいな。生活習慣をしっかりコントロールするっていう、夜更かしとかは絶対せえへんし、最近は基本的に、よっぽど昔の仲間とかでないと飲み会とかも二次会とかもいかないし。そういう感じかな。5年前に(最後に)会った人と一昨日やったかに飯食った時も、5年前よりも若くなりましたねとか、色艶良くなりましたねとか、言われるしね。
やっぱり、若い人らに言えることはそういうことかな。
あとは、自分の今の現状というのかな、発射台というのかな、そういうのを嘘つかないというか、ちゃんと見る。これはねえ、僕が浪人してる時に、東大模試、代ゼミのやつ受けて、数学0点やったのね。東大文系数学やったら80点で、一問半解けたら上出来ってやつやったんやけど、俺0点やった、俺浪人やのにって。でもよくよく自分のこと思い出してみたら、現役の時は大学への数学とか見て、わからへんのやけど解答読んでわかったふりになってたのね。それってでもやっぱり、自分の現状とか出発点をごまかしていたわけで。
結局夏の東大模試終わってから代ゼミのとこ行って、高校1年数学初級っていう問題集をやりなおして、浪人の時の本番は最低2問は解けてるっていう。
自分の今ある発射台、夢に向かってとか色々やるときに、今の自分の発射台がどれくらいかってことをごまかさないというかね。そういうのは大事やなあって思ってます。
いやあ、本当にいいことを聞かせてもらって。特に今日できることは今日やれってことと、生活習慣っていうのはもう、生活リズムが乱れた大学生には本当にもう……(笑)。
いや、俺も大学の頃は乱れまくってた(笑)。朝まで起きてとか、朝まで飲んでとか。そういうのがかっこよく見えたもん。でもそれはあんまりかっこよくはないんだなって。
どうやったら鈴木知事のようになれますか!?
東大生から「どうやったら鈴木知事のようになれますか!?」と質問されればなんとアドバイスしますか?
人の好き嫌いをしないということが大事。初めて会った時にこの人苦手かもって思っても、見えてるのってその人の人格の氷山の一角やから。そこでシャッターガラガラって降ろしてしまったら、結局、実はその人はずっと付き合ってたら自分にプラスの影響を与えてくれる人やったかもしれへんのに、自分からチャンスを逃すことになるんで。人の好き嫌いはしない。トータルでその人のことが嫌いってことは絶対あらへんから。この人の人格を因数分解していったら、この人全体的には嫌いな部分多いけど、こういうところは話合うかもとか、こういう話してる分には気持ち悪ないわとか。という感じで人の人格を因数分解するってね、人の好き嫌いはしないほうがいい。
僕、大学の時はテニスサークルとかで居心地のいいそういう奴らとばっかりおった。だからそれの反省もある。やっぱり同じ価値観や意見の人たちがばっかりおると、イノベーションも生まれないし、自分の成長もない。
鈴木英敬さん個人として困っていること
今、『実は知事として、あるいは鈴木さん個人として困っている』ことがあれば教えてください。
そうやねえ。子供と過ごす時間が少ないというのがあれですね。やっぱりね、子育てというとね。日々子供って成長してるから、成長を確認すること、自分のなかで子供の成長度合いをアップデートするのが止まると、子育てにだんだん関心がいかなくなるし、子供も親に対してリスペクトしにくくなると思うのね。だからやっぱり、なるべく高い頻度でアップデートしていくほうがいいので。それが一番手っ取り早い方法が一緒に時間を過ごすことだから。子供とちょっと過ごす時間が少ない。コロナ禍ではもちろんいっぱいあったけどね。コロナ(対応)と関係なく言ったらそこが一番困ってることかなあ。他の知事とか政治家と比べたら、かなり接してる方ではあると思うけど。
これは確かに僕らも東大生も男女問わず一生懸命働いたら、みんなが直面する課題かもしれませんね。
あとは、人生で後悔したことはあんまりないんだけど、後悔してることの一つが、留学行かなかったことかな。通産省勤めて留学行くために勉強しろよと言われたこともあったんですけど。国内での仕事がめちゃくちゃ楽しかったので、いつでも留学行けるわと思ってたら、政治の方目指してしまったので、結局留学行けなかった。語学ももっと自分がもっと堪能やったら……。今まで知事として30カ国くらい行ったから、もっとこう踏み込んでいろんな議論もできるだろうしとか思うことがあるなあ。留学は経験しときたかったなあと思う。
僕も留学行ってないので、将来なんかおんなじこと思うのかなって。
行ったほうがええで。チャンスがあるなら。
意志あるところに道は開ける
意志あるところに道は開ける。
これはリンカーン大統領の言葉だと思いますけども、自分の人生はね、自分でしか決められないんですよ。誰かに決めてもらうってことは絶対にないので。毎日の一個一個の選択を自分がしっかり決めるということを大事にして欲しいんです。親から言われたとか、周りからの評判がええからここの会社に行ったとか、そういうんじゃなくて。
毎日の決断というところについては、分度器で一度を開いて、これくらいの(短い)長さやったら線が引っ付いてるように見えて全然わからへんけど、一キロやったらどう?めちゃめちゃ大きな差やんね。ほんのちょっとした努力かもしれへんけど、一度でもいいから上に向かってけるようにね。毎日努力していって欲しいと思います。毎日のその決断、(角度が)一度上がる決断が将来、何年後かに必ず自分に良い方向に働いてくると思います。
今回は鈴木英敬さんへの名刺アタックをご紹介しました。
本編では取り上げきれませんでしたが、「政治家として1つだけ成すなら?」という質問に「東京一極集中の是正」と答えた鈴木知事。
これから日本の地方はどうあるべきか。鈴木英敬さんは、これから知事や国会議員といった立場で多くの挑戦をなさるのだと思います。
私も、鈴木知事と一緒に10年後、20年後に日本の地方のこれからをつくる挑戦がしたい。そのためにも毎日の努力を重ねていこう、そんな想いで今回の名刺アタックを終えました。
※本編で取り上げきれなかった対談全文は後日公開します。
【連載 矢口太一の名刺アタック!】
- コロナ禍でもできる!人生の師匠とつながる極意
- 国民民主党代表(衆議院議員) 玉木雄一郎さん
- 日本通信(東証一部)福田尚久 代表取締役社長
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