初めまして!矢口太一(孫正義育英財団 正財団生・東京大学工学部機械工学科4年(当時)、現 東京大学大学院修士1年)です。この連載では、4年前に上京した当時、頼れる先輩や知り合い、友人も誰一人としていなかった私が、自分の熱量だけを頼りにたくさんの方とご縁を紡いできた「名刺アタック」を皆さんにご紹介します。
「名刺アタック」は、周りから与えられたチャンスをただ待つだけでなく、自分でも想像していなかったような新しいチャンスを、出会いを、自らつかみに行く日々の小さなトライです。受験、テスト、インターン、就活……周りから与えられた機会に力を尽くすだけでなく、自分から(みんなが驚くような)大きなチャンスをつかみに行く、自分だけの道を作り出すアプローチです。
コロナ禍で、「友達も知り合いもほとんどできなかった!」という主に20, 21年度新入生の方に、今日の困難な状況下であっても、少しでも自分の夢や将来にむけたアクションがとれるよう、そのきっかけを提供したいという想いからこの連載を始めます。
私の「名刺アタック」のヒトコマを皆さんにご紹介する中で、「こうやって話を聞きに行けるんだ!」「自分もやってみようかな」と少しでも思っていただければ嬉しいです。
それでは、みなさんを「矢口太一の名刺アタック」の旅へご招待します!
私が「名刺アタック」を始めた経緯
私は三重県伊勢市で18年間過ごし、東京大学への進学を機に上京しました。県立伊勢高校在学中に小学校5年生から自由研究の一環として続けてきた「セミの飛翔」研究で内閣総理大臣賞を受賞、東大工学部の推薦2期生として入学しました。
しかし、東大への進学が決まったはいいものの、自営業を営む実家の経済的な事情から、仕送りは一切受けられない状況でした。入学金の支払い(282,000円!! 研究で頂いた賞金での支払い。窓口で手が震えました)、引っ越しの作業から全て一人で、一からのスタートです。三鷹寮での新生活が始まっても、文字通り誰一人として頼れる人はいませんでした(しかも、スマホも持っていなかった!!)。
自身の手持ちは高校時に研究で獲得した賞金の残り数十万円と、両親と祖父母から借りた100万円のみ。生活費だけで1年もつかどうか……。東大の入学手続き時に奨学金を手当たり次第に申し込みましたが、ほぼ全滅。幸いにも一度のみの給付で30万円をいただきましたが、2-3か月分の生活費に消えてしまいます。これから4年間、最低限の衣食住を賄って、東大で勉強しなきゃいけない……。
そんな中で見つけたのが、新しくできるという孫正義育英財団の案内でした。「これで拾ってもらわなかったら、多分1年持たないだろうな」そんな悲壮な気持ちで、4月の面接に挑み、色々と書類を提出すると、1期生として採用されたとの通知。首の皮一枚つながりました。しかし、1年後に再度継続の審査があるため、それが終わるまではお金の心配でびくびくし、とても勉強だけに集中できるような状況ではなく、精神的にもつらい期間でした。友人たちが楽しそうに話す海外旅行やディズニーランド……私にとっては別の世界の話でした。
しかし、三重を出るときに、「必ず立派になって一日でも早く家族を支えるんだ」と決意して上京してきました。一人暗い気持ちで閉じこもっているわけにはいきません。
「どうやったらあなたみたいになれるの?」
「どうやったら今の貧しいところから這い上がれるの?」
「私も会社をつくりたいんです!」
会う機会がある人にことあるごとに聞く。そんな小さなトライが始まりました。それが私の「名刺アタック」です。
周りから見れば、内閣総理大臣賞や孫正義育英財団、そんな華やかな肩書ばかりが目に映るようですが、私からすれば「お金がない」必死の毎日でした。惨めで悔しくて何度も泣きました。
「名刺アタック」をしよう!
私がまず照準を合わせたのが、東大の外部講師の方がいらっしゃる授業でした。シラバスをじっくり見ると、主題科目を中心に企業や政府のすごい人がゲストでやってくる授業がいくつかあります。そうした授業を探し出し、履修することにしました。
いざ、授業を受けてびっくりしたことは、東大生のほとんどは後ろの席に座っていること!彼らにとってこうした授業は、ゲストの話を聞いて感想を書くだけで単位がもらえる「楽単」なのだと思います。でも、私にとっては、これまで会ったこともない雲の上の人!そんな人たちが目の前にいる!
私は、ゲストの目線が一番くると思った向きで最前列に座ることにしました。講義中は共感したり感動したらとにかくうなずいて、一直線にゲストの方の目を見ていました。そうするうちにいつの間にか、私に向けて話しているかのような瞬間が増えてくることに気が付きます。私の反応に合わせて話してくれるケースも増えていきました。質問の時間では、普通の人が聞かないであろう鋭い(おもしろい?)質問を必死で考えて、質問をします。
そして、授業が終わったら、一目散にゲストのところへ走り、名刺を差し出しながら、
「矢口太一といいます!セミの研究をしてます!もっと聞かせてください!!!」
こんな調子で講義後1時間も2時間もゲストの方にしがみついて、その場でお話を聞くこともしばしば。ゲストの方がふらふらになって帰っていく。そんなこともしょっちゅうでした(今思えば、大変失礼なことをしました)。
私自身、授業が始まる前から心臓はバクバク。講義終了前の10分間くらいは座っていられないくらいに緊張して、名刺アタックの直前には吐き気が襲うほど……!私にとっては、何もない今の自分がチャンスを掴む唯一の方法でした。嫌われたらそこまでの話、「失敗しても後ろで話聞いてた人と同じ!」そう自分を奮い立たせていました。「もし、うまくいったら得るものしかない!」と言い聞かせて「名刺アタック」です。もちろん、緊張しすぎてその場で固まってトライできなかったことも何度もあります。渡したはずの名刺がポイっと捨てられているなんてこともしばしば。そんなことに日々のエネルギーを傾ける毎日でした。
コロナ禍でこうした対面での授業はほとんどなくなりましたが、今振り返って思うのは、東大で私みたいに授業後にゲストに話しかけに行く人の少なさです。教室に100人もいて、話しかけに行くのが私だけなんてものすごくもったいない。もっともっとトライする人がいてもいいんじゃないかと思います。どうしても緊張するという時は、自分とタッグを組む仲間をつくって 2人で行くというのでもいい。せっかくのチャンス。もっと多くの学生が積極的に学ぶ場であってほしいなと思います。
コロナ禍での「名刺アタック」
しかし、そんな「名刺アタック」もコロナ禍のなかストップ。直接会えないのでは、なかなか難しい。オンライン授業で「名刺アタック」って……とあきらめていました。しかし、当初思っていた以上にコロナ禍の日常は続くことに。「コロナがおさまったら」なんて言っていたら、「自分の貴重な学生時代が無駄になっちゃうじゃないか」と想いを新たにし、コロナ禍での新しい名刺アタックができないかを考えるようになりました。
もちろん、今までもHPに掲載されているメールアドレスに連絡をしてお話を伺うといった「名刺アタック」は何度もしてきましたが、授業での「名刺アタック」の醍醐味は、連絡先なんて知ることもできなかったような方に直接面と向かってお話が聞けること。
そこで、ひらめいたのが、企業や政治家のHPにある「お問い合わせフォーム」でした。冷静に考えて、担当者の方に「なんだこの馬鹿」と一蹴されるのがオチだと思いましたが、「うまくいかなくても、家にこもっているときと一緒!」と言い聞かせ、「絶対にお時間無駄にしません。お話伺わせてください」と連絡をしました。すると、多くの方から返信がきたのです。東大に物理的に来る方を待つだけじゃなくて、こんな方法があっただなんて。コロナ禍での新しい発見です。
対面での「名刺アタック」の方法
①名刺をつくろう
緊張する中で、まずは何も考えずにえい!っと名刺を渡してしまえば、あとは何かを喋らざるを得ません。東大の生協で作ったシンプルなものでもいいですが、自分でデザインして派手なもの、個性のあるものにするのがおすすめです。「あー!あの名刺の!」と覚えてもらいやすくなります(笑)
そして、大体の場合はお相手の名刺もいただけるので、後日「メールアタック」のチャンスにつながります。
②一番前に座ろう
授業中は一番前のゲストの方の真ん前に陣取りましょう。授業中に、顔を認識してもらえる確率が上がります。その後名刺アタックする時には距離も近いし、(自分の)心理的にもスムーズです。
③質問しよう
全体の質問タイムで普通の質問をしてもなかなか印象には残りません。というより、せっかくお会いした意味がありません。どんな角度からでもいいので、「鋭い」「おもしろい」質問を一生懸命考えるのがお勧めです。
④授業が終わったら、走れ!
終わったら、間髪入れずにゲストの方めがけて走りましょう。タイミングを伺っていると担当教員との雑談が始まってしまい、なかなか割って入れません。そうしているうちに、やっぱやめとこうか……と弱気な自分に負けてしまいます。急ぎ足ですぐに帰る方も走って追いかけます。とにかく、GOです。
授業後に、ある上場企業の創業者の方に、「私もあなたみたいになりたい。その空気感を学びたいから、かばん持ちをさせてください!!」とお願いをすると、実際にかばん持ちをさせて頂けることに……!かばん持ちの後もご縁を頂き、「あれから成長していないじゃないか」と厳しいお叱りを頂いたことも。私の人生の一番尊敬する方の一人です。
⑤緊張して当たり前
「失礼なことしているんじゃないか」「私はバカなんじゃないか」「嫌われたらどうしよう」いろんな想いが頭をめぐります。でも、何もない学生なんだから、自分の将来をつかむために話を伺うのは、大切なアクションだと思います。一東大生なんて誰も気にしていないし、文春砲に狙われているわけでもないんです。なりふり構わず、チャンスはつかみに行く。恥をかいたっていいんです。座っていて聞いているだけなら、本を読むのとさほど変わりません。
コロナ禍での「名刺アタック」の方法
①問い合わせフォーム
HPで問い合わせフォームがある場合はそこから送信してみましょう。実際にこの方法で政治家や上場企業の社長さんなど多くの方とのご縁をいただくことができました。5回送って1回でも返信が来れば最高です!大切なのは打率じゃなく、安打数です。(意外と半数以上ご返信をいただけたりと、思っているより届きます)。メールは長くても、まず最初の結論(お話を伺いたい!)を述べるといいと思います。
メッセージの例
○○さま
東京大学4年の矢口太一(三重県伊勢市出身)と申します。
是非一度、○○さんに「……」ということを直接伺いたいと思いご連絡差し上げました。
お時間割いていただければ、絶対に無駄にしません。……(1文略)……大変お忙しいことは十分承知していますが、是非私にお時間を頂けないでしょうか。
私は……以下続く
②メールアドレス/SNS
これは、コロナ禍に限らず、メジャーな方法です。HP等でメールアドレス等を公開している方には、要件を伝えてトライしてみましょう。
私が高校時代に「セミの飛翔」研究で内閣総理大臣賞を受賞できたのも、メールで東大の研究者(A先生)と過去のコンクールの受賞者(Bくん)に「名刺アタック」をしたのがきっかけでした。人も情報もない地方にいる私にとって「名刺アタック」は人生を切り開くたった一つの方法でした。そしてご縁というのは本当にすごいもので、A先生には東大入学後研究の指導を受けることに。「名刺アタック」の半年後、Bくんは中学の部で、私は高校の部で、内閣総理大臣賞を同時に受賞し、一緒にアメリカの世界大会に出場しました。
③緊張して当たり前
こちらも、送信した後に「なんて馬鹿なメールを送ったんだ……!!」と全身が「恥」の感情に染まります(笑) でも、失敗しても「馬鹿な奴だな」と自分の知らないところで笑われるだけです。本当に学びたいことがあるなら、自分の将来に必要なステップと思うなら、是非トライしてください。
ここでご紹介したのは、決して社長さんや国会議員、大学教授といった方たちに(ミーハーのごとく)会うこと自体が目的ではなく、今の自分と何のつながりもなかった/でも会いたい人とのご縁を自分から引き寄せる方法の一つです。環境が、周りがくれるチャンスだけを待つのではなく、こうしたコロナ禍だからこそ、自分からチャンスをつかみに行く、そのことを新入生の皆さんに伝えられればと想い、思い切って赤裸々にご紹介しました。
ご紹介したことが全てではなく、他にもたくさんのご縁の作り方があると思います。ぜひ、「恥」を恐れずトライしてみてください。
次回以降は、実際の矢口太一の「名刺アタック」にご招待します!少しでも、雰囲気や刺激を感じてもらえれば嬉しいです。お楽しみに!
次回以降の名刺アタック!(予定)
第2回:玉木雄一郎 衆議院議員(国民民主党代表)
第3回:日本通信(東証一部)福田尚久 代表取締役社長
第4回:鈴木英敬 三重県知事
第5回:SERIOホールディングス(東証マザーズ)若濵久 代表取締役社長
第6回:未定
文・写真 矢口太一(孫正義育英財団 正財団生・東京大学工学部機械工学科4年(当時)、現 東京大学大学院修士1年)
【連載 矢口太一の名刺アタック!】
- コロナ禍でもできる!人生の師匠とつながる極意 <- 本記事
- 国民民主党代表(衆議院議員) 玉木雄一郎さん
- 日本通信(東証一部)福田尚久 代表取締役社長
- 鈴木英敬 三重県知事