東大生協本郷書籍部での2014年1~12月の売り上げをジャンル別にまとめた。このデータから東大生の読書に関する興味を探ってみよう。
新書
「現役教授がここまで書いた!」と帯に書かれている通り、沖大幹教授(生産技術研究所)が大学教授の収入や学歴、教育や研究の醍醐味などを記した『東大教授』。14年3月に出版され、販売期間は10カ月だったが年間の新書部門売り上げ1位に輝いた。
東大入試の内容や講義・研究室ゼミの運営の仕方など、普段から学内にいる東大生なら知っている情報を一般向けに解説している他、教員の選考方法や政府・企業との折衝法など学生の知らないことまで載っている。何より、現役の教授がなぜ研究者を続けるかという動機の部分は、大学で学習や研究に励む学生にとって示唆に富む部分となるだろう。
2位の『里山資本主義』では、斜陽産業と捉えられていた林業がエネルギーを供給する源として活躍する様子を取り上げ、原価ゼロ円でも経済が成り立つという主張が記されている。社会の高齢化が日本を衰退させるという定説を否定し、安全保障と地域経済の自立をもたらすための策を説く。
「ことばの意味とは何か」「私たちは自由意思を持つのか」など、哲学の中心問題を科学が明らかにした世界像の中で探求する『哲学入門』が3位に入った。これまでにない常識破りの構成が、東大生の興味関心を引いたのだろうか。
人文・文芸・文庫
人文部門の1位・3位にはそれぞれ『歴史が面白くなる東大のディープな世界史』『同日本史』がランクイン。文系の学生なら一度は歴史の入試問題に触れているはずだが、近年東大入試がクイズ番組などで注目されていることもあってか、東大生も改めて入試の奥深さが気になった模様だ。理系の学生がテレビ番組などに触発されて購入したのかもしれない。
文系1年生の必修科目「基礎演習」のテキストが発行されて20年が経過し、時代の流れも踏まえた全く新しい人文学分野の入門書として『「知の技法」入門』は刊行され、売り上げが2位に入った。著者の一人である小林康夫教授(総合文化研究科)は本年度いっぱいで退職する予定で、名残惜しい気持ちで購入した東大生がいる可能性もある。
13年のランキングに引き続き、文芸部門では村上春樹氏の作品が1位だった。14年に刊行された『女のいない男たち』は村上氏にとって9年ぶりとなる短編集。ノーベル文学賞の候補と世間でうわさされるほどに人気の著者が、東大生にも受け入れられている格好だ。
2位の『銀翼のイカロス』は、ドラマ半沢直樹の原作者として有名になった池井戸潤氏の作品だ。ここでも、世間と東大生での興味の一致がうかがえる。
文庫部門1位の『思考の整理学』は、13年のランキングで2位、以前には1位になる年もあるなど、08年に出版されて以来依然として強い人気を得ている。
この記事は、2015年2月3日号からの転載です。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。