東大入試を終えてほっと一息。受験勉強から解放され、大学での学びの扉を開く新入生に編集部員が一押しの本を紹介する。文理の枠を超えた教訓を含む本や、各分野の入り口となる本など、入学前の時間が取れる時期に読むのにぴったりなものばかりだ。これらの本から得られる気付きは、大学での学びをより深いものにしてくれるだろう。新型コロナウイルスの影響で学校が休校になっている人も、ぜひじっくり時間をかけ味わいながら読んでみてはいかが。
絵で解き明かす数式の世界
『物理数学の直観的方法』 長沼伸一郎 著
理系や経済系の大学生は必ず数学を道具として使うことになる。ところが厳密な論理を重視する現代数学は、多くの学生にとって最もとっつきにくい学問の一つだろう。そこで、厳密に議論するより直観的なイメージをつかむことで数学を使えるようになろうというのがこの本の目的だ。
例えば東大の理系学生が初年次に学ぶ微積分。大学の微積分は高校よりはるかに難解だ。高校では感覚的な理解で済ませてきた「連続関数」や「数列の収束」といった概念は、大学では論理記号と不等式を使って厳密に定義される。記者も不等式で埋め尽くされた微積分の教科書を数ページも読むうちにたちまちうんざりしてしまった。
数式の海に溺れないためには、個々の証明を読む前に「なぜ微積分では不等式が頻繁に使われるのか」「微積分全体の話のあらすじはどうなってるのか」といったことを教えてもらいたいものだ。本書の第6章ではこうした疑問が絵を交えて解き明かされている。ちなみに同じ章では、純粋数学で重要な位相空間の概念についても、直観的イメージや「なぜその概念を導入すると便利なのか」を解説。数学そのものに興味のある読者にも、こうした直観化は役に立つはずだ。
本書には微積分の他にも物理学で使われる線形代数やフーリエ解析などの直観化が述べられている。これらの数学は物理に限らず、数学を使う多くの学問で基本になるものだろう。
本書の最後に「三体問題」が説明されている。例えば、地球と太陽が引力を及ぼし合うとき、両者がどのような運動をするかはニュートンの時代からよく知られている。ところが、考慮に入れる天体を一つ増やして、地球・太陽・月が絡むような問題を考えるとどうだろうか。実はこの場合、天体の運動は特殊な場合を除いて解くことができない。どうして天体が三つに増えた途端に問題が解けなくなるのか。このことを直観的に理解するにはどうすればよいのか。気になる読者は本書を手に取ってみよう。
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長沼伸一郎 83年早稲田大学理工学部応用物理学科(数理物理=当時)卒業。『現代経済学の直観的方法』『一般相対性理論の直観的方法』などを執筆。
この記事は2020年3月3日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を掲載しています。
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