生徒の前での発表を終えると、先輩方と進路室でお茶をもらってちょっと一息。続いて長年札幌南高校(札南)の進路部長を務める高桑知哉教諭に、進学状況や進路指導について話を聞いた。札南は「堅忍不抜」「自主自律」の校風の下、例年現浪合わせて10人程度の東大合格者、50人程度の国公立大医学部合格者を輩出する、共学の公立校だ。
━━近年の札南の国公立、私大への進学状況を教えてください
国公立については、北海道だけでなく、首都圏、関西圏など全国から行きたい大学を探して受験するという傾向がずっと続いています。私大についても同様で、特に首都圏が多いです。昔はうちの学校は浪人が多かったですが、ここ数年は3分の2くらいは現役で進路を決めていくという状況になってきました。
━━学校としては現役での進学を勧めているのでしょうか
いや、それにはこだわっていませんが、世の中全体を見ると現役で大学に入る人が多くなってきていると思うんですよね。時代の流れもあるし「入った大学で頑張って社会に出る」ことも大事でしょう。場合によっては大学院から他の大学に行くという選択肢もあります。ですが「どうしても医者になりたい」などと自分のやりたいことが見つかっていて、その大学でしかできないというのであれば、こだわるのも悪いことではないと思っています。
━━今年の東大への進学状況はどうでしたか
この卒業学年は、文理ともに東大合格者が例年に比べてとても多かったです。2年生くらいまでに英数国をしっかりやった生徒が多く、3年生になってから理科・地歴公民に時間を回すことができたのだろうという分析をしています。今年の現役合格者14人というのは11年前の15人に次いで、過去2番目の実績です。
━━以前(2014年)のインタビュー時(https://www.todaishimbun.org/sapporominami1010/)は実施していなかった東大の推薦入試対策は、今は実施しているのでしょうか
特に実施していません。東大の推薦に関しては、初年度(2016年度)に2人合格者が出たのですが、それ以降は出願者自体もいないです。東大に推薦でチャレンジできるようなものを持つにはまだ至っていないようですね。初年度に合格した生徒たちは、自主的に研究して、その内容を実際に海外に行って確認してきたり、学会で発表したりして、大学でも継続して研究をしたいと考えていました。東大に継続研究ができる先生がいたため推薦を希望したようですね。今後も意欲的な、面白い生徒がいればフォローする体制は整えたいです。
━━首都圏の高校と地方高校の情報量の違いをどのように捉えていますか
教員としては、札幌は不利になるとは思っていないです。今はネットでいろいろな情報が仕入れられる時代であり、教員は各予備校主催の研究会にも必ず参加するようにしています。東京で行われる研究会に行くこともあって、生徒に伝えた方がいい情報は我々が適切に伝えるようにしています。現在の情報化社会では間違った情報、なびいてはいけない情報も間違いなく存在しているので、惑わされないように心掛けています。
生徒たちは、周りに東大生がそんなにいない状況で3年間過ごすかもしれませんが、卒業生と語る会や東大セミナーを実施し、この環境の中でしっかり力を付けさせるように心掛けています。
━━他校、特に首都圏の高校との進学実績の比較はしていますか
全国の公立のトップ校とは比較しています。また、会議で同席したときに情報交換もしています。
━━首都圏の高校との情報格差を埋める取り組みを具体的に教えてください
「卒業生と語る会」は生徒に対しての情報提供、モチベーションのアップという面ではすごく効果があると思っています。地理的にすぐには東大まで行けないので、せめて東大の学生に雰囲気を伝えてもらうのは生徒の役に立っているでしょう。進路部では昨年秋から、東京で行われる各予備校主催の東大入試研究会で得た情報を、3年生の東大志望者に伝える「東大直前セミナー」を始めました。以前から実施していた医学部バージョンに加え、今年は京都大学バージョンも予定しているんですよ。あとは生徒に配っている「進路だより」で適切な時期に適切な情報を伝えるようにしています。
━━授業のカリキュラムの違いはあるのでしょうか
うちは文理分けが3年からになっているので、理系に行ったけれども最後に文系に変えることは可能なんですよね。ほとんどの全国の学校は2年の時に決めてしまうので、戻れないんですよ。それも札南の自由度をカバーしているのではないでしょうか。全員に2年次に政経、3年次に倫理を取らせる学校も少ないと思います。理系の人にも取らせるのは珍しいですが、幅広い知識を身に付けられ、視野を広げるためにも役立っていると思っています。生徒は当然だと思っているかもしれませんが。
━━東大全体では女子が少ないですが、札南からの東大受験者の男女比はほぼ同じですね
うちは女子頑張りますよね。京都大学も医学部もそうです。そこもうちの特徴になっているのかもしれません。地方在住の女子の場合、自宅から大学に通わせたいと考える親御さんもいらっしゃるので、全体としては少なくなるのかもしれませんね。
━━確かに私も「東大を目指そうかな」と母に初めて言った時、難色を示されました(笑)
(笑)やっぱり北海道全体で1年間に50人入るか入らないかくらいですからね……100人くらいに増やそうと考えている先生もいるようですが、なかなかハードルは高いですね。
東大は日本一の大学で、誰もが憧れる大学ですが、京都大学行きたい人もいれば、医学部行きたい人もいるでしょ。一橋大学や東京工業大学を選ぶ人もいる。生徒一人一人が、自分の考えに基づいてベストの大学を選んでほしいと思っています。
━━札南はいろいろな人がいますよね。東大に数カ月通った今でも、札南生は個性的な人が多く、自由な雰囲気だったと思います
そうでしょ。それをこちらも許容しているし、生徒自身も「あいつ面白いな」と受け入れる度量の大きさがありますよね。なるべく方向性をつけず自由にさせたいけれど、野放しにするのではなくて、必要な情報やヒントを与えてみんなに考えさせる。その上で最終的に決めさせるのが我々の責任だと思っています。「知っていればそうしなかったのに」という不利になる選択だけはして欲しくないので、そこだけは気を付けたいところですね。
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