山岸誠准教授(東大大学院新領域創成科学研究科)らの研究グループは、日本発の新薬「バレメトスタット」が難治性の血液がんを治療するメカニズムを明らかにした。成果は2月21日付の英国科学誌『Nature』に掲載された。
がん細胞では、DNAが巻き付くヒストン分子がメチル化などの化学修飾を受けることで、がん抑制遺伝子が停止されていることがある。そのため、がん細胞内でのヒストン分子のメチル化を薬によって阻害することが治療法として有力視されていた。
研究チームは、日本人に患者の多い成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)に注目。ヒストン分子のメチル化を阻害する「バレメトスタット」の治療を受けたATL患者の腫瘍細胞を治療前後で比較した。
分析の結果、腫瘍細胞ではヒストン分子のメチル化が確認された。これによって、DNAとヒストン分子の複合体(クロマチン)が異常に凝集し、がん抑制遺伝子が発現できない状態に変化していることが判明。一方、バレメトスタットを投与された患者ではメチル化の割合が正常レベルに低下し、数百種類のがん抑制遺伝子が一斉に回復していた。
さらに、バレメトスタットを長期間投与した患者から薬剤に耐性を持った腫瘍細胞が検出された。薬剤の標的分子の遺伝子異常や、DNAのメチル化などの化学修飾によって耐性が得られていることが分かった。
今回の研究は、難治性の血液がんのメカニズムを明らかにするとともに、バレメトスタットの有効性を示した。今後は薬剤耐性を回避できる治療方法の開発が期待される。